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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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40/68

40.静かな切り分け

 しばらく廊下で待っているとカミルが早足でやってきた。

 昨日と比べてテンション低めで、いかにも『低血圧』って感じだわ……周りに低血圧の人間がいなかったからなんか新鮮。

 カミルは言葉少なにザインに鍵を手渡した。

 すると、ザインがカミルの肩を叩くように撫でた。


「サンキュ。しばらく寝てていいぜ」

「……そういうわけにもいかないよ。コウセイ兄様とアオ兄様に言われてるし……」


 二人のやり取りを眺め、少し考える。

 ディディエは仕事で不在、カミルは体調不良……探るチャンスがあるようなないような……。

 強情なカミルに対して、ザインが肩を竦めながら図書室の鍵を開け、扉をゆっくりと開いた。

 中からは本と紙の匂いがふわりと漂ってくる。

 ザインに連れられて中に入っていくと、ずらりと並んだ本棚。その中には几帳面に本が収められている。


「うわ、すごい量……!」


 感嘆の声を上げたのはハルヒトだった。

 学校の図書室くらいの広さがある。加えて書架の背が高くて森のよう。扉のすぐ傍に読書スペースもあった。

 全員がその規模に息を呑む。


「……いや、本当にすごいわね。もしかして、これ全部ジークリードさんの?」

「まっさか。――半分くらいじゃね?」

「それでも個人のコレクションとしては多いでしょ……」


 茶化すように言うザイン。

 ゆっくりと本棚を見回す。半分が個人のものだとしたらかなりの量だわ。

 ――六堂ジークリード。

 ゲームでは事件が起きてから慌てて帰って来る六堂家の三男。事件さえ起きなければ彼と会うことは、多分ない。

 存在感の薄さが上書きされるくらいのインパクトだわ。この蔵書量は。

 そんな風に本の量に圧倒されていると、不意にユキヤがザインに近付いていった。


「ザイン様」

「……何?」


 ジェイルのことがあったからか、ザインはユキヤを警戒しているみたい。

 その警戒心を感じ取ったユキヤが困ったように笑う。


「そんなに警戒されないでください。

 どんな本があるのかお聞きしたいだけなので……」


 ユキヤの口調も態度もあくまで穏やか。流石推し。

 ザインは小さくため息をついた。


「どんな、ってマジで色々だよ。右の方は親父の蔵書で政治、経済、経営とかの本が多いし、左半分くらいはジーク兄貴のやつで小難しい理系の専門書ばっか。……あっちの方は歴史書が多いな。

 娯楽小説みたいなはちょっとだけだな。そういうのはみんな自分の部屋に置いてるし」


 かったるように説明するザイン。

 何となくわかったわ。図書室っていうか、資料室みたいな感じなのね。

 なんかヒントになりそうなものがないかと期待してたけど、ないっぽいわ。残念。

 アリスが書架と書架の間を覗き込むようにして歩き回り、不意にザインを振り返った。


「ザイン様。……奥にも部屋がありますか?」

「ああ。奥の部屋は鍵かかってるから入れねぇけど」

「何があるんですか?」

「何、って……鍵かけて保管しとくような本や資料だよ」


 アリスが少し考え込む。そして、こてんと首を傾げた。


「……六狼会の機密事項とか……?」


 その場にいる人間が凍りつく。

 そういうことを気軽に言うなと、昨日――!

 思わず叱ろうとしたところで、ユウリが慌ててアリスに近づき、その口に手を被せた。


「申し訳ございません! 失礼なことを……!」


 ユウリがアリスの口を塞いだまま「変なこと言わないで!」と焦っていた。

 ザインが呆気にとられ、やがてぷっと吹き出した。


「いーって。まぁ、でもそんな感じだよ。見てどうすんだ、って資料や本も多いけどな」

「へぇ。機密事項って聞くとちょっとワクワクしちゃうね」


 ザインがあまり気にしてないと見るやいなや、ハルヒトが話に入っていく。楽しそうだわ。

 うーん、ザインはあれこれ細かいことは気にしてないみたい。カミルはさっきから壁に凭れかかったままぼーっとしてる。


 っていうか……図書室の奥の部屋……?

 あ! わ、忘れてた!

 この奥の部屋、ゲームでヒロインが忍び込んでるわ!

 監禁場所をギャラリーと見当をつけた後、監禁するのに最適なギャラリーを見つけるために……。

 奥の部屋にはギャラリーの図面が収められているはず。

 うわ、入りたい。

 ――でも、入る口実が全く思い浮かばない。

 今、このチャンスを逃したらもう一度ここにくることはできないのに……!


 一気に焦燥感が出てきて、思わず奥の部屋を睨んでしまった。

 地下があるギャラリーがわかれば問題が一気に解決する……。

 ああ、ヒントが目の前にあるのに~~~。

 歯噛みしつつ、とりあえず時間を稼ぐべく口を開いた。


「目の前に六狼会の機密事項があると思うと確かにワクワクするわね」

「変なこと考えるなよ。流石に奥の鍵は用意できねぇからな」

「わかってるわよ、それくらい」


 やっぱりね! 無理よね、わかってたわ!

 悔しさと焦燥感を抑えながら無理に笑った。

 不意に、視界の端でカミルが目を閉じているのが見えた。……あの子、大丈夫なの?

 思わず心配になってカミルを振り返る。


「ザイン。カミル、本当に大丈夫なの?」

「あー……今日はかなり寒ィからあんま大丈夫じゃなさそうなんだよな……。

 休んでていいっつってるのに聞かねぇし」


 ザインも困ってるみたいだった。

 あたしだってあの様子のカミルに接待させるのは、流石に申し訳ないと思うわよ……。

 しばらくはザインが最初提案した通りシアタールームにいた方がいいのかもしれないわ。ヒントや証拠を掴むための方法も全然思いつかないしね。

 そう思って口を開きかけた。

 その時。


「じゃあ、カミルさまここで少しお休みになられたらどうですか?

 わたしとユウリくんはここで静かに本を読みますし!」


 そう言って、アリスは何を思ったのかユウリの腕に抱き着いた。

 抱き着かれたユウリがぎょっとしている。他のメンバーもアリスの行動に驚いていた。

 急に名指しで提案を受けたカミルも目を白黒させている。


 え? どういうこと?


 提案の意味がわからずに首を傾げた。

 アリスはユウリの腕に抱き着いたまま、得意げに笑う。


「カミルさまは少しお休みになった方がいいと思います。

 ですが、お一人でお休みになるのは抵抗があるみたいなので……ここは静かですし、あちらのソファでお休みになられたらどうかな、って……」


 そう言ってアリスは読書スペースにあるゆったりしたソファに視線を向けた。


「ただ、そうすると休むだけになってしまうので……わたしとユウリくんが、カミルさまと一緒にここにいます。

 本を読んでいれば騒がしくはないですし、カミルさまのお手を煩わせることもありません。

 ――いかがでしょう?」


 いかがでしょう、って……。

 ま、まぁ、カミルはザインに全部任せて休むことに抵抗があるみたいだから、悪くはない、と思う。この二人ならカミルもそう心配いらないだろうし……。

 アリスは「どうだ!」と言わんばかりだけど、巻き添えを食らったユウリはオロオロしている。

 けれど、アリスに何か耳打ちされ、一瞬だけあたしを見る。

 え、何?

 その耳打ちの内容は全くわからなかったけど――ユウリは納得したみたいだった。

 アリスの提案にカミルが遅れて反応を見せる。


「いや、それは――」

「いいじゃん。そうしようぜ」


 アリスの提案に乗ったのはザインだった。カミルの言葉を遮り、大きく頷く。

 あたしは本当にそれでいいのかとザインを凝視してしまった。


「……いいの?」

「今のカミルにおめーやハルヒトくんの相手は無理。けど、俺様も全員の相手はキチー。

 そいつも引き取って欲しいけど、カミルの負担が増えるしな……まぁ、おまけだと思うわ」


 ザインはそう言って顎でメロを示した。メロが目を見開いている。

 ……メロ、ずっと静かにはしてるんだけど、不機嫌さ全開のままなのよね。本当にどうしたのかしら。

 メロがあたしを一瞬だけ見て、すぐにぷいっと顔を背けた。

 この調子じゃ何か頼みたくても頼めないのよ。……役に立つかどうかは別として!


「じゃ、別の部屋に移動しようぜ。こっから近いのは遊戯室だな」

「にいさ」

「カミル、お前はちょっと休んでろ」


 有無を言わさない響きでカミルに告げるザイン。カミルは押し黙ってしまった。

 ザインに続いて、あたしとメロ、ハルヒトとユキヤが移動を始める。

 カミルはザインに「ごめん」とだけ告げていた。


「ロゼリアさま、後で合流しましょう」

「悪いわね。アリス、ユウリ」

「いえいえ! カミルさまのことも心配でしたから!」


 ぽん、と胸を叩くアリス。何だか機嫌が良くて、メロとは正反対だった。

 去り際、アリスがメロを静かに睨む。

 メロが居心地悪そうに振り返った。


「……メロくん。ちゃんとロゼリアさまの役に立ってくださいね」

「……うっせ」


 メロはどこか拗ねた様子のまま、あたしを追い越して図書室を出てしまう。

 その背中を見つめ、あたしは大きくため息をついた。

 ――なんか、どんどん周りの人間が減っている。

 動きやすくなってるはずなのに、妙な不安が押し寄せた。

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