41.そして誰も……?
ジェイルがディディエと出ていって、二人減った。
ユウリ、アリス、カミルが図書室に留まり、三人減った。
残りはあたしとメロ、ハルヒトとユキヤ、そしてザインの五人。
……ミステリものだったら、三チームのうちどこかで殺人が起きそうな展開よね。
元々のゲーム『ブラック・ロマンス』もミステリものだけど、事件は冒頭で起きただけ。攻略対象が事件に遭うということはないから、心配はないはず。
けど、そんな背景を知る由もないザインは自分たちの身の安全を過剰なくらいに気にしてる。
実際お姉さんが失踪していて犯人も不明じゃ、不安になるのもしょうがない。
演技なのか本気なのか、という疑念はあるにしろ――六堂家を狙ったものと考えればおかしくはない反応だわ。
そういう意味では傍目にお家事情を全く感じさせないコウセイさんの方が怪しく見える……。
カミルが黒幕だった場合、わざわざあたしに接触してくる理由がないもの。
それに、今日の朝の不審者(?)がカミルだとは考えづらい。あの様子で朝から動き回っていたとは到底思えないわ。……まぁ、あれが演技ならもう脱帽よ。
そんなことを悶々と考えているうちに、遊戯室へと辿り着いた。
「まー、遊ぶならここが良いかもしれねぇけど……」
言いながら、ザインが遊戯室の扉を開けた。
ハルヒトと一緒になって部屋の中を覗き込んだ。
「うわ、すごい。カジノみたいだね!」
「実際そうだよ。親戚や他の会の会長が来た時はここで遊ぶんだと。
けど、ディーラーが必要なゲームが多いからな……」
なるほど。普段は本職を呼んで遊ぶわけね。
でも、今は本職がいないので、ディーラーができる人間がいない、と。
部屋の入口に立ち、ぐるりと室内を見回す。ルーレットにカードゲーム用のテーブルなど、複数人で遊ぶのを目的としたものばかり。……ここにはヒントはなかったわよね。ゲームでも攻略対象との逢瀬くらいにしか使われてなかったし。
ハルヒトが「なるほどねー」と言いながら、興味深そうにあれこれ見て回っている。
「今は遊べない、ってこと?」
「誰かがディーラーをやりゃ遊べるぜ。カードゲーム一択になるだろうけど」
「そっか……。ロゼリア、ここで遊んでく? 誰がディーラーやるのって話になるけど」
「あたしはどっちでも良いわよ」
やや投げやりとも取れる答えを口にした。
……正直、今は”これ!”という選択肢が思い浮かばない。
ゲームをして頭を切り替えるのもいいし、シアタールームで映画を見てぼーっとするのもいい。朝早く起きたせいでちょっと眠いし……。
案の定、ハルヒトは困った顔をした。ザインも似たような反応をする。
「えー? オレはロゼリアのやりたいことを優先したいなぁ」
「そこまで気を遣ってくれなくてもいいわよ、別に。
ハルヒトこそ、何かしたいことはないの?」
聞いてみると、ハルヒトは少し考え込んでしまった。何故かユキヤに助けを求めるような視線を向ける。ユキヤは静かに首を振っていた。
「まぁ、俺様としてはシアタールームでのんびりしてもらいてぇけど……」
「……。……それって君が楽だからだよね?」
ザインの言葉にハルヒトがジト目を向ける。ザインは肩を竦めた。
「否定しねーよ」
ザインはあっさりと認めた。
ハルヒトが困った顔をしてあたしを振り返る。……なんでそうあたしを気にするのよ。
「だってさ、ロゼリア。どうする?」
あたしはハルヒトとザインの顔を見て小さくため息をつき、軽く肩を落とした。
そして、ザインを見る。
「じゃあシアタールームでいいわ」
「お、ラッキー」
「朝、散歩して疲れちゃったしね。のんびりしたい気分なのよ」
どのみち今は何も良い手が思い浮かばない。無理に動くよりも、休憩と思って休んだ方がいい。
朝のことを持ち出すと、何故かその場にいる全員が微妙な顔をした。
……何なのよ、その反応は。
むっとしながらジロリと睨むと、ハルヒトが眉を寄せてあたしを見つめ返した。
「……ロゼリア、朝コウセイさんと一緒にいたんだって?」
「そうよ、一緒に散歩してたの。――移動しましょ。ザイン、シアタールームに連れてって」
「へいへい。っつうか、マジで何で兄貴と一緒にいたんだ?」
気のない返事をしながら、ザインが部屋の外に出る。ぞろぞろとそれに続いて部屋を出たところで、ザインが苦虫を噛み潰したような顔をして質問を投げてきた。
ザインの質問はハルヒトもユキヤも気になるものらしく――視線があたしに集中している。
気まずいと言うか、居心地が悪いと言うか……。
あたしは思いっきりため息をついてしまった。
「早く目が覚めちゃったから散歩してたの。それでランニング中のコウセイさんと出くわしただけよ」
コウセイさんに出会った理由は本当。前半は嘘だけど。
ザインが部屋に鍵をかけながら振り返る。
「兄貴にもギャラリー案内してもらったって本当かよ」
「……本当よ」
くっ。なんでそんなことを聞いてくるのよ……!
ハルヒトとユキヤは話の流れが掴めないからか、キョトンとして顔を見合わせていた。
ザインは二人に構うことなく、あたしを睨むように見つめる。
「……おめー、昔は芸術になんて全く興味なかったよな? それがどういう風の吹き回し? なんか理由なんの?」
「昔って……五年前でしょ。それだけあれば興味も考え方も変わるわよ。
――あんたこそ、どうしてそんなに突っかかってくるの?」
あたしは内心思いっきり冷や汗をかいていた。ザインがこんなに突っ込んでくるなんて聞いてないのよ……!
カミルの黒幕はなさそうって思っていたのに、なんでザインが怪しい言動するのよ。
何とかやり過ごさないと……。
……あんまりこういう手は使いたくないけど、しょうがないわ……。
あたしは口元に手を当てて、挑発するように口の端を持ち上げて笑う。
「……まさか、あんた実はあたしに未練があるの?」
「はぁ!?」
ザインが素っ頓狂な声を上げて驚く。
ハルヒトもユキヤも、それまで静かにしていたメロも目を丸くしていた。
「だって、そうじゃなきゃこんなにしつこく以前と違うことを聞いてこないでしょ」
「ばっ……ンなわけねーだろ、ちっげぇよ! ああもう!」
ザインが声を荒らげて吐き捨て、がしがしと後ろ頭をかいて離れていった。
その様子を見て安堵する。
苛立った様子で歩いていくザインの後を追いかける一方、ハルヒトのものすごく何か言いたそうな顔を無視するのは大変だった。
やがて、当初の予定通りシアタールームに辿り着いた。
二十人くらいで映画が見れるような部屋になっている。二人掛けのソファと一人掛けのソファがあり、どれもこれもゆったりした作りになっていた。
ザインを先頭に、あたしとハルヒトが中に入ったところで、ユキヤが出入り口手前で足を止める。
するりとその脇をすり抜けようとしたメロに声をかけた。
「……花嵜さん、少しよろしいですか?」
「何スか。説教ならやめて欲しいんスけど」
振り返り、少々鬱陶しそうにユキヤを見るメロ。……感情が態度に出過ぎよ!
メロの態度を気にする風でもなく、ユキヤは穏やかに笑った。
「そういうわけじゃありませんのでご安心を。
――ザイン様、花嵜さんとお話してから入室しますので先に映画を見ていてください」
「? わかった」
メロはいまいち納得してなかったけれど、ユキヤとともに廊下に出てしまった。
……何なのかしら。
不思議に思いながらも、ザインの「何見る?」という問い掛けにハルヒトとともに映画を選ぶことになった。




