25話 第2の妄想犯行 開幕篇
第2の妄想犯行編、開幕です。
第2の妄想犯行 開幕篇
前回、僕と喜冬さんが暴かれる側のプレイヤーあの子が解放する妄想犯行 ステージ2を共に待つことにしてから十数日が経った……
【202X 1月1X日 AM10:00】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
僕は今、萬屋記録局にいる。
本当は今日、調査の依頼が入っていたのだが、赤葉さんが風邪をひいてしまった。
依頼主様の配慮によって、調査は別の日に改めて行なう事になった。
――風邪をひいてしまう人がいるゲームなんて聞いたことないよ……まあ、それが妄想犯行計画なんだけどね。
「う……頭痛い! なんか……頭がぼーとする……」
「赤葉さん、大丈夫?」
「ゴホッ! 今のところ、大丈夫だよ……喜冬」
「昨日の夜は、大丈夫だったよ……ゴホッ……今日は、異音調査依頼に行くはずだったのに、ゴホッ……ごめんね……」
「赤葉さん、大丈夫ですよ! 先程依頼主さんへ電話して事情を説明したら、理解してくれました」
「喜冬さん……ありがとね……ゴホッ! あ……白葉ねぇからだ……もしもし?」
喜冬さんも表向きは萬屋記録局の事務員として、裏側では僕の暴走を止めるブレーキ役……つまり、僕の探偵ヘルプとして妄想犯行計画にログインしている……
――今の僕は、喜冬さんに妄想犯行計画へのログインも管理されて……ほこやぎ町にいる時間も管理されて……現実世界へのログアウトも管理されてしまった……今日もあと少しでログアウトしないといけない。
「赤葉さん、大丈夫かしら……」
「うーん……僕も赤葉さんが風邪を引くの、初めて見るからな」
「……私がなんだって杜鷹? ……ゴホッ……ゴホッ! 白葉ねぇが、忘れ物したからほこやぎ商事に忘れ物を届けて……欲しいって、悪いんだけど、ゴホッ! 代わりにお願いしてもいい?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ありがとう、はい……これ、白葉ねぇの忘れ物よ」
赤葉さんから僕は、白葉さんの忘れ物を受け取った。
――ん? 美味しそうな匂いがするな……これはお弁当だな。
「ゴホッ! 私はもう帰るから……ゴホッ! 2人ともよろしくね」
「分かりました、今日はゆっくり休んでください」
「ありがとね……ゴホッ、ゴホッ」
ガチャ! バタン!
かなり具合が悪そうな赤葉さんは帰ってしまった。
――さて、どうしようかな、一度ログアウトするかな。
「杜鷹君、どうするの?」
「忘れ物を届けてすぐに帰ってくれば大丈夫だよ」
「そうだね、ほこやぎ商事があるほこやぎビルは、ここからそんなに遠くないから、すぐに帰ってこれるよね」
「そうそう、じゃあ、行こうか喜冬さん」
「うん、杜鷹君」
喜冬さんと2人で、ほこやぎ商事のあるほこやぎビルに向かおうとした時。
僕の視界に見覚えある、あのメッセージが表示された……
【ステージ2、暗落の妄想犯行 開幕!】
【残解決時間 168時間】
【雪護喜冬が探偵ヘルプで参加しました!】
「……ステージ2 暗落の妄想犯行? 杜鷹君、萬屋赤葉の事件帳の暗刺のトリックは、ほこなぎ寺で起きた事件の話で、使われた物はナイフだよね?」
「そうだったね、暗刺のトリックを使った物理的な犯行だったよ」
「でも杜鷹君、暗刺の妄想犯行なら分かるけど……暗落ってなんだろうね?」
「確か、匂いの妄想犯行である第1の妄想犯行でもトリックに使われたモノは同じだった。それがあの子の妄想犯行計画を暴くキッカケに繋がった……だから多分、トリックに使用する物を変えてくる……と僕は予想してる」
――暴かれる側のあの子がどんなトリックを組んで来ても僕は必ずそのトリックを暴く! それが僕と喜冬さんが、ハッピーエンドの未来を掴む為の唯一の方法だから!
「ちょっと待って、杜鷹君! 行く前に一度、ログアウトしよう。今は……10時30分、時計の撮影……完了! 会社は休んだらダメだから、明日、会社が終わったらまた来よう、杜鷹君」
「うん、分かったよ……喜冬さん」
「明日、会社でね――杜鷹君」
「うん、喜冬さん」
喜冬さんが白いスマホでログアウトを実行した直後、僕の視界にもう見慣れてしまったメッセージが表示された……
【探偵ヘルプのログアウト……開始】
【探偵ヘルプのログアウト……完了】
【探偵のログアウト……開始】
暗落の妄想犯行か……暗と落と言えば、子供の頃に行ったまほらぎ遊園地の暗闇迷路で、遊園地で貰えたまほらぎコインを落として……お袋に怒られた記憶が甦るな……
【探偵のログアウト……完了】
【まほらぎ市に五感転送が完了しました!】
【次回帰還期限】
【202X 1月12日 PM20:00】
ふぅ……喜冬さんの管理のおかげなのか最近、現実世界に戻って来た時の五感酔いが、前よりかは無くなった気がする。
喜冬さんと共に真実に辿り着くと決めたあの日。
喜冬さんから、喜冬さんが持つKokuSouSにインストールされている妄想犯行計画の探偵ヘルプバージョンで、ログイン等の設定変更をした事と僕が持つKokuSouSにインストールされた、妄想犯行計画が暴く側バージョンである事を教えてくれた。
あと喜冬さんが言っていたのは、確か……
『杜鷹君が、KokuSouSのパソコンが置いてあるあの部屋の中で、メガネ型ゴーグルを手に持っている時は、時間停止の影響を受けないの』
僕が倒れてから、喜冬さんがいないと妄想犯行計画にログインできなくなってしまったが、喜冬さんが先にログインしてしまった場合、僕は時間停止の影響を受けてしまい、妄想犯行計画へログインが出来なくなってしまう。
その回避策として喜冬さんは、この部屋の中に僕がいて、尚且つメガネ型ゴーグルを持っている場合、この部屋の中だけ時間停止を受けない設定に変更したという。
――簡単に喜冬さんは言っていたけど、なんでそんな簡単に設定を弄れるんだよ。
あと喜冬さんは、ログアウト条件の事も言っていた。
そのログアウト条件というのは……
『杜鷹君、ログアウトの条件なんだけど……あなたが、ログアウトという言葉を頭の中で考えた時、私の白いスマホのログアウトコマンドが有効化されて、ログアウトがタップできるようになる、探偵ヘルプだから、勝手にログアウトコマンドをタップして、ログアウトはできない……杜鷹君、ここまでは大丈夫?』
『大丈夫だよ、喜冬さん。あっ! ひとつだけあった! 喜冬さんの探偵ヘルプバージョンのゲームルールは、僕の暴く側バージョンと同じなのか?』
『ゲームルールは、杜鷹君の暴く側バージョンとほぼ同じゲームルールだよ、探偵ヘルプバージョンは、本来なら作る必要がないバージョンで、誰かさんが暴走しながら、匂いの妄想犯行を攻略していたのをずっとモニタリングしていた小蒼さんが、心底呆れながらも急遽作ったバージョンだ! って小蒼さんは言ってたよ』
『そうか……僕も小蒼ちゃんに怒られたよ……』
あの日以降、喜冬さんとは趣味友以上恋人未満から共に未来を掴むという少しだけ関係が進んだのではらないかと僕は考えている。
12月のあの日の土曜日に、あのプラネタリウムで刻想器だった時の小蒼ちゃんが、僕に見せたあの絶望の未来から少しは良い方向へと変わったのだろうか……いや、例え未来が良い方向に変わっていたとしても……それを小蒼ちゃんから聞いてしまった時点で、ハッピーエンドの未来を掴む為の選択自体が、消えてしまうだろう……
「とりあえず、寝るか」
今は、明日の会社に備えて寝る、それが今、僕が考えた選択だ!
『ふっ――おやすみなさい、杜鷹』
「おやすみ、小蒼ちゃん」
――そう言えば……あの子がトリックを完成させた期間は…………
【202X 1月12日 PM12:00】
【まほらぎ市内 会社】
【残帰還期限 8時間】
僕と喜冬さんは、萬屋赤葉の事件帳の暗のトリックの推理パートを観ながら昼食を食べている。
『つまり赤葉は、あの暗闇通路で目覚めた被害者が、パニック状態になっているのを、赤外線カメラを利用して確認した犯人が、被害者の状態を見て、背後から刺した……そう言いたいわけね』
『そう! さっすが八色姉さん、正解!』
『確かに、それなら犯行自体は可能よ、でもそれだけじゃダメなのは分かるわよね?』
――画面越しで観るほこなぎ町の赤葉さんと八色さんも十分、迫力と魅力的だけど、ほこやぎ町で見る赤葉さんと八色さんは、同じぐらい迫力と魅力があるんだよな……当たり前だけど。
「そうなんだよ、これじゃダメなんだ……」
「どうして?」
「喜冬さん、このトリックはナイフを使っているでしょ?」
「まあ、暗刺のトリックという話だから、ナイフを使わないとね?」
「そう、でも僕たちが暴かないといけないのは、暗落のトリックで、ナイフは物理的、だから暗刺……暗落、この言葉がどういう意味なのかを知る前に、僕たちはログアウトをしたから、だから暗落のヒントになればと思って――」
「私に赤葉を一緒に見ようと言ったのね……」
「そうなんだよ、喜冬さん!」
そんな話をしていたら、僕が苦手とする人物が、喜冬さんと僕の会話に割り込んできた。
「おっ、お二人さん! また面白いもん見てるじゃねぇか」
「は…晴山先輩……」
「森咲さぁ、雪護さんとの時間を邪魔されたからって、露骨に嫌な顔すんなって」
「いやいや、嫌な顔なんてしてませんよ、晴山先輩」
――『晴山先輩が邪魔して来たから嫌な顔してますよ』、なんて本人に直接言える訳ないじゃないか。
「そうか? ならいいけどよ。あっ、そうだ森咲、このほこなぎ寺の事件さ、この前配信された柊先生のインタビューで、遊園地によくあるお化け屋敷から発想して、執筆したトリックだと書いてあったぞ!」
「晴山先輩、それいつのインタビューですか?」
「先週配信されてたインタビューだよ、もしかして森咲、見てないのか?」
「あー見た記憶があった様な気もしますね……」
「気もするってなんだよ、森咲らしくないぞ」
「そうですかね」
ピンポンパンポン!
『社員の皆様、昼休憩時間終了まで……』
「あ! そろそろ休憩時間も終わりか……森咲、またな!」
休憩時間のアナウンスを聞いた晴山先輩は、自分が所属している慌てて部署に帰って行った。
――営業部なのになんで、企画部にわざわざ来るんだよ……
「杜鷹君……もしかしてなんだけど……」
「うん、あの子が現実世界側で柊先生のインタビューを見たのであれば、暗刺のトリックで使われたナイフを別の物に変えた可能性は高くなる。ほこやぎ町は、ほこなぎ町を再構築して五感再現した世界だから光が届かない場所も当然ある」
「問題は……暗落のステージがどこなのか? ね」
「そう、僕達がほこやぎビルに向かおうとした時、ステージ2の開幕のメッセージが表示された。だからほこやぎビル周辺で起きる事件だと僕は予想してる」
「なるほどねー。なんか杜鷹君、変わったね」
「そうかな? あんまり意識はしてないよ」
「意識してないの? まるでシリアス状態の赤葉さんみたいだよ」
「あー、これでも赤葉さんと一緒に匂いの妄想犯行を暴いたから、『僕は仮想の五感探偵、名前は森咲杜鷹だ!』って感じだよ!」
「ぷっ、何それ、あっ! 課長が睨んでるよ……杜鷹君」
「ほんとだ、やばいな……」
「さあ、お昼から頑張ろう、杜鷹君」
「よし、頑張るぞ」
遊園地のお化け屋敷か……まほらぎ遊園地にもあった気もしたな……うーん、今直ぐにでもほこやぎ町に行きたいけど、今は仕事をする! それが今、僕がする事だ!
【202X 1月12日 PM19:00】
【まほらぎ市 ハイツまほらぎ】
【残帰還期限 1時間】
仕事も終わり帰宅した僕は今、晩御飯を食べている。
「うん、美味しい……まぼらき亭のオムライス」
去年までの僕は、ご飯はログアウトしてからと後回しにしていた。
喜冬さんが妄想犯行計画に関わってからは、『ログインする前に、必ずご飯を食べなさい!』とまるでお袋みたいな事を喜冬さんに言われてしまったのもあるけど、僕が倒れて、去年の年末に2日程入院した時、喜冬さんはお袋に電話してくれた。
僕が退院した後、直ぐにほこやぎ町に行って、喜冬さんと話した後、萬屋記録局の僕の部屋からログアウトした。
ログアウトした後は、僕は身体をゆっくり休めていたら……そうしたらお袋から電話が来て、かなり怒られたんだよな。
家族や大事な人を巻き込まないと決めた僕が、刻想器だった小蒼ちゃんとハッピーエンドを掴む想いの契約をした、12月のあの日からもう一ヵ月も経つのか……
「本当に時間が経つのは早いな……よし!」
晩御飯を食べ終えた僕は、KokuSouSPCとメガネ型ゴーグルが置いてある部屋に向かった。
『ふっ、杜鷹……喜冬はもうログインしたよ』
「そうなんだ、教えてくれてありがとう、小蒼ちゃん」
『ふっ、私と杜鷹と喜冬がした覚悟の契約の行く末を私は、このまほやぎプラネタリウムで観てるからね』
「まほやぎプラネタリウム? あーあの僕と小蒼ちゃんが契約した場所のことか――喜冬さんから聞いた時は驚いたけど、あの場所でキミと契約してから、未来を掴む為の別の今が始まったからね。勿論、覚えているさ」
『ふっ――覚えていたなら、それでいい』
――当たり前じゃないか! 小蒼ちゃんが僕にしてきた、プラネタリウムでの地獄のVIP席ジェットコースターとか……忘れられる訳がない!
「じゃあ! 行くか、あのほこやぎ町に!」
戸締りよし! ご飯も食べた! 現実世界に帰って来た時の為に、テレビもつけた!
目の前のKokuSouSが置いてある部屋から僕が、リビングに置いてあるテレビに映っている画面は、静止画の様に完全に止まっている……
――かなり不気味な光景……でも僕はもう1人ではない!
僕は頭の中でそう考えながら、手に持っているメガネ型ゴーグルをかけた!
【おかえりなさい! 森咲杜鷹!】
【妄想犯行計画にログイン開始……】
【探偵ヘルプ……ログイン確認中……ログイン確認完了!】
【探偵のバイタル状態を確認中……異常無】
【ほこやぎ町への五感転送を完了しました!】
――やっぱり、いきなり意識が飛んだ!
25話 第2の妄想犯行 開幕篇 完。
26話へつづく!




