26話 第2の妄想犯行 探索篇 Part.1
第2の妄想犯行 探索篇 Part.1
【202X 1月1X日 AM10:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
【残解決時間 167時間30分】
「ふぅー、寒っ……暖房……暖房」
「杜鷹君……ほこやぎビルに行くんでしょ?」
「あ、そうだった」
「杜鷹君、白葉さんの忘れ物は持った?」
「大丈夫……持ってるよ、じゃあ行こうか、喜冬さん」
23時間振りにほこやぎ町へ来た僕と喜冬さんは、萬屋記録局の局長である萬屋赤葉さんの姉の一人、萬屋白葉さんが勤務するほこやぎ商事が入所しているほこやぎビルへと向かった。
「ふー、寒いな、喜冬さん、五感転送は慣れた?」
「私? だいぶ慣れて来たよ、私はベッドに入って、ちゃんと身体を温めてから、メガネ型ゴーグルをかけて、ログインしてるから、ログアウトした時の五感酔いはあまり無いかな」
「え? 椅子に座って、ゴーグルを掛けてないの?」
「杜鷹君……時間停止してても、私達の現実世界の寒さは変わらないよ」
「そうなの? どおりで今までログアウトした時に、五感酔いが酷かったわけだよ……良い情報をありがとう、喜冬さん!」
「どういたしまして」
喜冬さんと雑談しながら、雪積もる道を歩いていると、駅から少し離れた場所にあるほこやぎビルに到着した。
【202X 1月1X日 AM11:00】
【ほこやぎビル 入口】
【残解決時間 167時間】
僕と喜冬さんは今、白葉さんが勤めるほこやぎ商事が入所しているほこやぎビルの入口で白葉さんを待っている、
「白葉さんはどこだ……あっ!」
ビルのエレベーターから降りて来た、白葉さんが僕たちを見つけて、安堵の表情をしながら、こちらに向かっている。
「ごめんね、ありがとう!」
「大丈夫ですよ! はい、忘れ物のお弁当です」
「ありがとう! にしても、あの赤葉ちゃんが、風邪引くなんてね、とりあえず、お弁当ありがと!」
「キャアアア――!」
悲鳴? どこからだ!
「え? なになになに? 何が起きたの、森咲君?」
「…………、雪護さん! 行こう!」
「えっ? どこに?」
「悲鳴が聞こえた場所だよ!」
「えっ? だからどこ?」
「多分、ビルの裏だ! 早く行こう!」
「私はどうすれば良い? 杜鷹ちゃん」
「白葉さん! 警察に通報をお願いします!」
「了解!」
僕は、悲鳴が聞こえたと思われる方角であるほこやぎビル裏へと向かったが、何故かまだ人集りはできていなかった。
「ここだ! ……うっ!」
「はぁはぁ……杜鷹君、ちょっと待ってよ!」
「喜冬さん、ダメだ! 見ちゃダメだ!」
僕は咄嗟に、喜冬さんの視界を手で塞いだ、例え仮想空間で起こった事とは言え、喜冬さんに見せたらダメなんだ!
「えっ? いきなり何するの? 杜鷹君、離して! ………うっ、杜鷹君……これは今、起きたこと?」
「そうだよ、これが妄想犯行計画……なんだ」
「ここまでリアルっぽいの? ……気持ちが落ち着くまで、時間かかりそう……」
「大丈夫だよ、僕がついてるから!」
ウー! ウー! ウー! ウー!
パトカーのサイレンが鳴り響く中で、座り込む喜冬さんを僕は落ち着かせている。
「杜鷹君……もしかして、匂いの妄想犯行の時も同じだったの?」
「……そうだね……でもここまででは無かった、この感覚だけは、慣れないよ。いくら五感再現された仮想現実であってもね」
――転落したこの人は、なぜゴーグルの様な物をかけているんだ?
しばらくして、通報を受けて到着したほこやぎ警察により、規制線が張られたビル裏は、封鎖区間と化し集まって来た人集りと同じ様に、僕たちはビル裏から追い出された。
【数時間後……】
【残解決時間 163時間】
「雪護さん、おかえり」
「ごめんなさい、でもだいぶ落ち着いたから、ありがとうございました、白葉さん」
「いえいえ、あんな衝撃的な光景を見たあとですもの、落ち着いてないのが普通よ。この事は八色姉さんにはもうほうこ――あっ!」
喜冬さんと戻ってきた白葉さんが、言葉を止めながら僕の後ろの方を見ていた。
気になった僕が振り返るとそこには、スキンヘッドでサングラスをかけた脳筋刑事こと、明堂 真警部が、険悪な顔をしながら立っていた。
「森咲、おまえさ! また事件現場周辺にいやがって! おい、赤毛のフリ探はどうした?」
「明堂さん……僕は、白葉さんに忘れ物を届けに来ただけで、偶々ここにいるだけです。それと赤葉さんは、風邪でお休みです」
「赤毛のフリ探が風邪ひいたぁ?」
「そうよ、赤葉ちゃんも風邪ぐらいひくわよ、なにかおかしい? 明堂ちゃん」
「……げ、萬屋白葉……ということはつまり……」
「そうよ! 八色姉さんには既に報告済みよ」
「くっ……萬屋八色警視に……いいか森咲! 現場だけは絶対に荒らすなよ、それと……ほらよ」
スキンヘッドの明堂警部から渡された物は、白い手袋と袋だった。
「ありがとうございます――明堂さん」
「お礼は……ん? そちらの女性は? 初めて見る顔ですね」
「こちらの女性は先日、萬屋記録局に入局した事務員の雪護さんです」
「雪護喜冬です。はじめまして、明堂警部」
「雪護喜冬さんですか! ……いやいやーこちらこそ、はじめまして、よろしくお願いしまね」
喜冬さんを見た明堂さんは、すっかり鼻の下を伸ばしていた。
さっきまでの僕への対応と全く違う、明るいテンションで、喜冬さんに白い手袋を渡した。
――明堂さん……あなた、奥さんがいるのにさ……
金餅邸での事件でやってしまった同じミスを繰り返さない為、僕は明堂警部に、今回の事件の被害者の方の名前を聞く事にした。
「明堂さん、命の灯火が消えた方の名前を教えてください」
「あぁ……ガイシャの名前は山北悟さん、ほこやぎビルに入所しているほこやぎ商事の社員だ。ガイシャの命の灯火が消えた原因は……今現在の調査段階では、窓から誤って転落した可能性が高く、転落場所はほこやぎビル4階の空き会議室で、この会議室を含めて4階の全フロアをほこやぎ商事が利用しているが、空き会議室にガイシャがいた理由と転落した理由は、今のところは分かってはいない」
「ありがとうございます、明堂さん」
「なぁ森咲……本当にガイシャは、誤って転落したと思うか? 俺には何か引っかかる気がするんだよな……」
明堂さんの言う通り、転落事故にしては引っかかる点が何点かある。
4階の会社の空き会議室に、なせが山北さんがいた点も引っかかるけど……でもまずは、ビル裏の探索から始めよう。
「明堂さん、ビル裏の調査から始めます。何か分かったら、報告しますね」
「ああ、頼んだぞ、森咲」
明堂さんの返事を合図に、探索開始の合図である帽子を被った虫眼鏡を持つアイコンUIが、僕の視界に写しだされた。
――このアイコンを見るのは何日ぶりだろうか? とりあえずビル裏からだ。
「喜冬さん、ビル裏に行くよ」
「えっ? 今から? すぐに暗くなるよ」
「ほこやぎ警察がいるこのタイミングでしか、ビル裏を正確に調査できないからね」
「なるほど……了解です、森咲さん」
喜冬さんと僕は、ビル裏の転落現場に向かった。
【202X 1月1X日 PM16:00】
【ほこやぎビル裏 転落現場】
【残解決時間 162時間】
喜冬さんと僕は、山北さんの転落現場である、ほこやぎビル裏に来ている。
青いビニールシートで覆われた立入禁止エリアを調査するのは、僕は初めてだ。
だけど事件解決の手掛かりになるものを探すタイミングは今しかない、むしろこのタイミングを逃してしまったら詰む。
「ねぇ、森咲君。ここで何を探すの?」
「…………」
「ねぇ、森咲君、聞いてる?」
「ごめん、聞いてる……何を探しているか、でしょ? えーと、音を出せる物なんだけど……」
「音を出せる物?」
「そう、音を出せる物。視覚を奪われた人が、次に大事にする五感がなんなのかを考えた時、聴覚がヒントになる」
「聴覚がヒントになるの?」
「そうだよ。萬屋赤葉の事件帳の暗刺のトリックの犯人もほこなぎ寺の暗闇通路に被害者を誘い出して、視覚を奪い、赤外線ゴーグルとナイフを使用して被害者を殺めた。
暗刺のトリックの犯人は、被害者と犯人の体格差があった女性だったけど、音を出せる物で、被害者に隙ができる様に誘導して、殺めたのは覚えてる。
だから暗闇の中で隙を与える事ができる唯一の物、それが音を出せる物だよ」
「……えーと、森咲君、ここお寺さんではなくて、ビル裏だよ」
そう……確かに喜冬さんの言う通り、ここはビル裏だ。
ほこなぎ寺と違って、色々な環境音がある中で音を出せる物を探すのは困難……でも視覚の次に人が大事にする五感は聴覚だと、僕は考えているから音を出せる物が現場にあるはずだ。
「そこなんだよな、喜冬さん……ん?」
チャリン!
「でもどこから? 202X0101……新年の幸せコイン?」
「森咲、何かあったか?」
「明堂さん……これは?」
「これか……ほこやぎ寺の新年の幸せコインだな、あーそうそう……俺も持ってるよ、ほら」
明堂さんが僕達に見せてくれた物は、つい先ほど見つけたコインと同じコインだった。
「この幸せコインはな。コインの中にICチップが入っていて、名前が登録されているんだが……なんでこんな所にあるんだろうな、鑑識からの報告にも無かったしな」
「そうなんですか?」
「ああ、幸せコインを見つけた報告は無かったぞ。とりあえず、ICチップの持ち主を調べてみるか」
「よろしくお願いします」
「ああ、そうだもうすぐ日が暮れる……危ないからあまり長居するなよ」
「分かりました、明堂さん。ちなみに明日なんですが……」
「ふぅ……たく、明日も来れるのか? いやもちろん来るよな?」
「もちろんです!」
「そうだよな! ふ、じゃあな森咲、ではまた雪護さん」
「はい、また明日」
雪護さんを見て、僕が今まで見たことのない顔をしながら、やはり鼻の下を伸ばしていた明堂さんは、ほこやぎ警察署に帰って行った……
「やっぱり、生で見る明堂さんは迫力があるよね」
「いや『生で見る』は、ちょっと違う気もするけどね」
「そう? もしかして森咲君は赤葉さんと明堂さんのいつものあのやり取りもニヤニヤしながら見てたんでしょ?」
「あーえーと? どうだったかな?」
「その反応! やっぱり見たんだ」
「いやいや喜冬さん、流石に誰かに聞かれたらまずいよ。暗くなって来たし、萬屋記録局に帰ろう」
「あ、本当だ。 ……了解です、森咲君」
ビル裏の立入禁止エリアが暗くなって来た事もあり、喜冬さんと僕は一度、萬屋記録局へ帰る事にした。
「あっ、杜鷹ちゃんと喜冬ちゃん! 今日はもう帰るの?」
「はい、辺りもだいぶ暗くなって来たので、明日また来る予定です」
「そうなんだ。こっちはあの後、会社に戻ったら、マ……山北さんの件で、電話鳴り放題だし社員総出で対応してたから、もうクタクタだよ」
――ん? 今、白葉さんが何か言いかけた様な……
「白葉さん……もしかして、山北さんの転落した原因を知ってるんじゃないですか?」
「えっ? 私は何にも知らないよ…………なんてね。
杜鷹ちゃんや喜冬ちゃんに嘘をついても、メリットは一つもないから、手掛かりの1つの情報として聞いてね」
「はい、分かりましたよ、白葉さん」
「じゃあ、2人への情報。山北さんは、社内での行動から裏でマウントルというあだ名で呼ばれていた。
本人は多分、そんなあだ名で呼ばれる自覚が無かった様だけど、殺意を向けていた人は多いの。
でも組織の中には、そんな感じの人もいるでしょ?」
「まぁ、確かにいない方が珍しいですね」
僕が白葉さんへ返した言葉に、喜冬さんが首を縦に振って頷いている。
「それだけよ。これは八色姉さんと明堂ちゃんにも報告済み」
つまり白葉さんの話から考えると山北さんは、現実世界の僕たちの会社にいる晴山先輩のような人で、悪い意味の方向に強化した方だった。
でもだからといって、ほこやぎ商事に勤める人の中で、山北さんの転落事故に本当に関わっている人がいたのなら……許されていけない。
あの子の組んだトリックを実行していたとしても、これは僕、仮想の五感探偵である森咲杜鷹が、妄想犯行計画の暴く側のプレイヤーとして、この妄想犯行は必ず暴かないといけない!
「白葉さん、情報をくれて、ありがとうございます!」
「いえいえ。赤葉ちゃんと萬屋記録局を支えてくれてる杜鷹ちゃんや喜冬ちゃんにしてあげられるのは、情報の共有、それだけよ」
「ありがとうございます」
「じゃあね、2人共、気をつけて帰ってね」
「分かりました!」
【202X 1月1X PM 18:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
【残解決時間 159時間30分】
僕と喜冬さんは、萬屋記録局に戻って来た。
喜冬さんは、僕が座った記録局のソファーの反対側に座った。
「杜鷹君、1つ聞いてもいいかな?」
「いきなりどうしたの? 喜冬さん」
「杜鷹君はなんで、匂いの妄想犯行を攻略中に仮眠を取らなかったの?」
「……えっと、なんでだろう?」
「私達が持ってる、この白いスマホの設定画面を杜鷹君は一度でも開いた事はある?」
「いや……ないけど、どういうこと?」
「ふぅ……やっぱりそうか。睡眠ログアウトの設定を変えてなかったんだね」
「睡眠ログアウトの設定? そんな設定あるの?」
「あるよ。もしかして杜鷹君は、ほこやぎ町の時間を進めるにはずっと起きていなきゃいけない。そう思ってた?」
「そうだよ……だってルールに解析禁止って、書いてあるじゃないか」
「やっぱりね……杜鷹君、解析と設定変更は違うんだよ。例えばそうね……最近、五感酔いが減ってきたんじゃない?」
確かに五感酔いは、喜冬さんが妄想犯行計画に探偵ヘルプとして参加する様になってから、大分軽減された。
夜遅い時間のほこやぎ町からログアウトしても、次に妄想犯行計画にログインした時のほこやぎ町は朝……そうだよ! 次の日に妄想犯行計画にログインした際のほこやぎ町の時間が、必ず朝になってるんだ。
「どうやってやったの? 喜冬さん」
「白いスマホのアラーム機能だよ。ここは五感再現されてる仮想現実だから、ほこやぎ町の私達の体調と体力管理も必要、寝かせてあげなきゃ、ほこやぎ町の私達は疲れたままだからね」
「まさか、そんな方法があったなんて……知らなかった」
五感酔いを軽減させ、ほこやぎ町で起きている以外で朝を迎える方法、それは白いスマホのアラーム機能だった。
26話 第2の妄想犯行 探索篇 Part.1 完。
27話へつづく!




