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22話 現実世界へのログアウト

 

 現実世界へのログアウト


【202X 1月X日 PM 21:30】

【萬屋マンションほこやぎ キフユルーム】


 赤葉さんと白葉さんから萬屋マンションほこやぎの部屋の鍵と地図を貰った、雪護 喜冬(ゆきもりきふゆ)である私は、萬屋マンションほこやぎ内のキフユルームにいる。



 現実世界で会社員をしている私が、一生住む事ができない様な部屋、それがキフユルームだ。



「確かに家具付きと赤葉さんから聞いていたけど……流石、萬屋一族ね……」



 萬屋姉妹は、ほこなぎ町に出資している萬屋コンツェルンを経営している萬屋一族の一員という設定だけれど、それはフィクションである萬屋赤葉の事件帳の閉じられた箱庭の中の話……

 こんな形で萬屋姉妹と関わり合う事になるとは、私は思ってもいなかった……

 小蒼さんと杜鷹君の想いの契約によって、閉じられた世界であったほこなぎ町を仮想現実として、ほこやぎ町として具現化させた、という話も私は未だに信じられないが、もう1つ信じられない事がある。

 それは、私の瞳が映す現実世界のUI時刻の表示だ。



 私はほこやぎ町に、約8時間ぐらい滞在していたと言うのに、現実世界のUIの時刻表示は、【202X12月27日 PM12:00】から1分たりとも進んでいない。

 だから私は、あの子の仕掛けたトリックを、一睡もせず、途中ログアウトもせずに、20時間以上かけて暴いたという杜鷹君の無謀さに、心底呆れてしまった。

 でも私は、彼を支えて、彼と幸福な未来を掴むために、想いを叶える刻想器であった小蒼さんと想いの契約をした。

 万が一、妄想犯行計画をゲームオーバーになってしまった場合、私と杜鷹君は、ほこやぎ町から強制ログアウトされ、1秒を168倍に変えられてしまう。

 それでも私は、杜鷹君と一緒にいる覚悟を決めた!



 ――現実世界に一度、ログアウトする、それが今、私がするべきことだ。



「……疲れた。でもログアウトする前に今の時刻を覚えておかないと……」



 カシャ!



 現在時刻を白いスマホで撮影する事で、私が妄想犯行計画に次回ログインした際、この時計が22時だった場合、ほこやぎ町の時間は、本当に進んでいなかったと判断できる。



「ふっ、さすがだね喜冬。杜鷹はそこまで考えてはいなかった」

「小蒼さん……いつからそこに?」

「ふっ、今だよ。それより喜冬は今、時計をなんで撮影したの?」

「これでも私は、推理作品が好きだからね。だから確証は残しておくタイプなの」

「ふっ、匂いの妄想犯行を暴いた杜鷹も同じ様に、カメラで証拠を撮影してた」

「そうなんだ、でも匂いの妄想犯行の話は、杜鷹君からじっくり聞くよ」



『ふっ、杜鷹はもうじき目を覚ます……』



 杜鷹君が目を覚ます?

 小蒼さんは私にそう告げると、私の目の前から消えた……杜鷹君が目を覚ますのであれば、私は一刻も早く会いたい。



 ――でもまずは現実世界にログアウトしなければ……



【妄想犯行計画からログアウトしますか?】



 白いスマホの画面に表示された、ログアウトメッセージの選択肢に私は――YESのボタンを押した。



【ログアウト実行中……】

【ほこやぎ町からまほらぎ市へ五感転送中……】



 ――妄想犯行計画のログアウトは、こんな感じなんだ……本当にVRゲームなのか、仮想現実なのか……現実が分からなくなる様な体験だった……



 【妄想犯行計画からログアウトしました】

 【お疲れ様でした】

 【次回帰還期限】

 【202X 12月28日 PM12:00】



 次回の再ログイン期限は、明日の午後12時。

 それまでに一度、家に帰らないと……



【202X 12月27日 PM12:00】

【まほらぎ市 ハイツまほらぎ 森咲杜鷹の部屋】



【まほらぎ市への五感転送が完了しました】



 無事に私は、現実世界へ帰って来る事ができたみたいだ。

 ほこやぎ町で体験した、あの長い時間の出会いと出来事に対して、現実世界の時間は止まっていたのだろうか?

 その事実を確認する為、杜鷹君の自宅のリビングに置いてあるデジタル時計を確認した。



【12月27日 午後12時01分】



 ――まさか本当に時間が経っていないなんて……


 もしかして、昨日杜鷹君が倒れたのは…………



『ふっ、喜冬は鋭いね。自分で時間調整しながら、攻略していくのが、妄想犯行計画。だから昨日のあの時、喜冬が杜鷹の部屋にいなかったら、杜鷹は絶望の未来ではなく、命の灯火が消えていた』



 そう……昨日の仕事納めの日。

 杜鷹君が欠勤ではなく出社していたら……

 仕事の納めの祝品を杜鷹君に届ける事を断っていたら……

 杜鷹君の自宅ドアの前で、異変を感じた私が気のせいだと思って帰っていたら……

 杜鷹君は今、病院のベッドの上にいない……

 私も……杜鷹君の秘密を知る事もできずに、杜鷹君の影を追い続けていただろう……



「でも、私は……彼が無茶しない様にする、それだけ、とりあえず家に帰ろう……」



 杜鷹君の家を施錠した私は、まほらぎ市の隣にある都市、しろなぎ市の自宅に帰宅する事にした。



 【202X 12月27日 PM 15:00】

 【しろなぎ市 しろなぎマンション 喜冬の部屋】

 【帰還期限迄残21時間】



 私の自宅に帰って来るのは、何時間ぶりだろうか? 久しぶりに家に帰ってきた気分だったけどようやく家に帰る事ができた。


 ――あれ? 小蒼さんから荷物届いていない?



 小蒼さんから送られてきたはずの荷物を私が探していると、私の家に遊びに来ていた妹である雪護 夢冬(ゆきもり むふゆ)が声をかけてきた。



「喜冬姉さん、お帰りなさい」

「ムフちゃん、ただいま。ねぇ?私宛に荷物が届いてなかった?」

「うーん、私も仕事で疲れが溜まってて、ヘッドホンしながら爆睡してたから、チャイム聞こえなかったかも……ごめんね、喜冬姉さん」

「そうなんだ……届いてないならいいんだ。でも、この前もヘッドホンしながら寝たらダメって、ムフちゃんに言ったよね?」

「はいはいー! 分かってますよー! 喜冬姉さん、何か買ったの?」

「それは秘密!」



 これは私と杜鷹君の2人だけの秘密だから、誰にも知られてはいけない……

 荷物の中身であるKokuSouSPCとメガネ型ゴーグルを万が一見られたら、私たちの秘密に夢冬を巻き込んでしまう事になるから。



「ムフちゃん。私、しばらく入院してる森咲君の看病するから、しばらく留守にするよ」

「森咲さん? あー、喜冬姉さんと趣味友の同僚さん?」

「そう……だから、しばらく家に入れないからね」

「分かったよ、喜冬姉さん。あっ、でも大丈夫! お父さんとお母さんが、帰ってくるみたいだから、しばらく私も来ないから。それとお父さんとお母さんが、喜冬姉さんの顔も久しぶりに見たいって言ってたよ!」

「そうなんだ。私も会いたいけど……会うの難しいかもだから、私からも2人に電話しておくね」

「うん、分かった」



 私が関わってしまった出来事に、大事な家族であるお父さんとお母さん、そして妹である夢冬を巻き込む訳にはいかない。

 暴かれる側であるあの子から、暴く側である杜鷹君を支えると決めた私自身も、杜鷹君に訪れる絶望の未来の要因となっていると知ってしまった。

 だからこそ私は、家族を巻き込ない様に、心配されない距離感でいないといけない……

 それが、想いを叶える存在刻想器であった、小蒼さんと杜鷹君が、ハッピーエンドの未来を掴むための想いの契約に、私が追加契約した事への代償なのだと理解している。



「……とりあえず、お姉ちゃんは自分の部屋にいるから」

「うん」



 自分の部屋へ来た私は、机の上に置かれたあるモノに目が入った……

 それは、KokuSouSPCとメガネ型ゴーグルが入った、妄想犯行計画プロジェクトの担当者である小蒼から送られてきた荷物だ。



 ――え、どういうことなの? 夢冬はさっき、荷物は来てないって言ってたのに……



「……うん、大丈夫だ。ムフちゃんはテレビ見てるし、部屋には入ってこないでしょ」



 夢冬の様子を見て安心した私は、KokuSouSPCの電源を点けた。



 ――ACアダプターはやっぱり無いのね……小蒼さん……



【KokuSouS起動中……】

【ようこそ!雪護喜冬!】



 私が今、見ているのは起動画面後の3D空間のデスクトップ画面で、画面の中にいる女の子は、杜鷹君と私が、ハッピーエンドの未来を掴む為の想いの契約をした、かつて想いを叶える刻想器だった小蒼さんだ。



『ふっ、改めましてよろしく、雪護 喜冬。

「ええ、こちらこそよろしく、小蒼さん」

『ふっ、じゃあ杜鷹が、また暴走しない様に、今から妄想犯行計画の設定の変え方を教えてあげる……』

「お願いします!」



【3時間後】

【帰還期限迄残18時間】



 あの子のオリジナルトリックを杜鷹君が暴いて行く中で、今後暴走しないために、探偵ヘルプバージョンの妄想犯行計画で、小蒼さんのサポートの元、私は3時間かけて設定変更を行った……



「これで大丈夫なの小蒼さん?」

『ふっ、設定はこれで大丈夫。あとはどうするのかは、それは2人で決めること、いい? 喜冬』

「うん、分かった……ありがとう、小蒼さん」

『ふっ、やっぱり喜冬も杜鷹と同じ、変わってる』

「あはは、よく言われるよ……でもこれで、杜鷹君を護れるなら良いんだよ」

『ふっ、ならいいけど』



 ブー! ブー! ブー!



 小蒼さんと話していたら、私のスマホにまほらぎ市民病院から電話がかかってきた。



「もしもし、まほらぎ市民病院の森咲さんの担当医の夢森ですが……雪護喜冬さんの番号でお間違いないでしょうか?」

「はい、そうです、雪護です。森咲さんに何かあったのですか?」

「違います! 森咲さんは、3時間前に意識が回復して、今は検査中なのですが、検査へ向かう前にあなたに会いたいと仰っておられました」

「分かりました、今から行きます」

「大変申し訳無いのですが、本日の面会時間は、終わっていますから雪護さんへの電話許可はしましたというご報告をと思い、お電話させていただきました」

「はい、ありがとうございます! 森咲さんに電話、待っていますとお伝えください」

「分かりました。森咲さんに伝えておきますね、それでは、失礼します」


 ツー! ツー! ツー!


 今から家を出た所で、まほらぎ市民病院に到着するのは、恐らく夜の20時ぐらいになるだろうから、杜鷹君と家族ではない私が、時間外に面会できる訳がないよね。


 プルル! プルル! プルル!



 私のスマホに再度着信画面が表示された。

 着信画面に表示された名前は、私が護りたい人の名前。

 私が、ハッピーエンドの未来を共に掴む覚悟の想いの契約を小蒼さんとするキッカケになった人の名前。



 私が護りたい、大切な人の名前……そう、その人の名前は、森咲杜鷹。



 ハッピーエンドの未来を一緒に掴み、私が護りたいと心の中から想った人の名前だ!



 22話 現実世界へのログアウト 完。

 第4章 雪護喜冬とあの子 終章。


 次章 森咲杜鷹と雪護喜冬と第2の妄想犯行

 23話へつづく!

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