#19 現実世界へのログアウト
第4章の最終話です。
【202X 1月X日 PM 21:30】
【萬屋マンションほこやぎ キフユルーム】
赤葉さんと白葉さんから萬屋マンションほこやぎの部屋の鍵と地図を貰った私――雪護 喜冬は現在、萬屋マンションほこやぎ内のキフユルームにいる。
私が今いる部屋は、現実世界で会社員をしている私が、一生住む事ができない様な部屋。
それがキフユルーム。
「確かに家具付きとは、赤葉さんから聞いていたけど……」
「流石、萬屋一族ね……」
萬屋姉妹は、ほこなぎ町に出資している萬屋コンツェルンを経営している萬屋一族の一員という設定だけれど、それはフィクションである――萬屋赤葉の事件帳の閉じられた箱庭の中の話……
こんな形で萬屋姉妹と関わり合う事になるとは、私は思ってもいなかった……
小蒼さんと杜鷹君の想いの契約によって閉じられた世界であった【ほこなぎ町】を――仮想現実として、【ほこやぎ町】を具現化させたという話も私は未だに信じられない……
信じられない事がもう1つある……
それは私の視界に映る、現実時刻のUI表示――
8時間ぐらい私は、ほこやぎ町にいたと言うのに――UIの現実時刻は、【202X 12月27日 PM12:00】から1秒も進んでいないのだ――
【あの子】の仕掛けたトリックを一睡もせず――
途中でログアウトもしないまま、20時間以上かけて暴いた杜鷹君の無謀さに私は、心底呆れてしまった――
でもそんな杜鷹君であっても、私は彼と幸福な未来を掴むため――彼を支えるために、想いを叶える刻想器であった小蒼さんと想いの契約をした。
万が一ゲームオーバーになってしまった場合――
妄想犯行計画から強制ログアウトされた後、私と杜鷹君の今を168倍に変えられたとしても――それでも私は杜鷹君と一緒にいる覚悟を決めた!
現実世界に一度、ログアウトすること――
それが今、私がするべきこと――
「……疲れた……でもログアウトする前に今の時刻を覚えておかないと――」
白いスマホで私は、リビング内のデジタル時計の時刻を撮影した――
現在時刻をスマホで撮影する事で、次に私が妄想犯行計画にログインした時、この時計が22時だったら【ほこやぎ町】の時間は、進んでいなかったと判断できる――
カシャ!
「ふっ――さすがだね喜冬――」
「杜鷹はそこまで考えてはいなかった――」
「小蒼さん……いつからそこに?」
「ふっ――今」
「喜冬は今、なぜ時計を撮影したの?」
「これでも私は、推理作品が好きだからね――」
「――だから確証は残しておくタイプなの」
「ふっ――【匂いの妄想犯行】のトリックを暴いた杜鷹も同じ様に、カメラで証拠を撮影してた――」
「そうなんだ――でも匂いの妄想犯行の話は、杜鷹君からじっくり聞くよ」
「ふっ――」
『杜鷹はもうじき目を覚ます……』
杜鷹君が目を覚ます――?
小蒼さんは私に告げると、私の目の前から消えた……
杜鷹君が目を覚ますのであれば、私は一刻も早く会いたい。
――でもまずは現実世界にログアウトしなければ……
【妄想犯行計画からログアウトしますか?】
白いスマホの画面に表示された、ログアウトメッセージの選択肢に私は――YESのボタンを押した。
【ログアウト実行中……】
【ほこやぎ町からまほらぎ市へ五感転送中……】
――妄想犯行計画のログアウトは、こんな感じなんだ……本当にVRゲームなのか、仮想現実なのか……現実が分からなくなる様な体験だった……
【妄想犯行計画からログアウトしました】
【お疲れ様でした】
【次回帰還期限】
【202X 12月28日 PM12:00】
次回の再ログイン期限は、明日の午後12時。
それまでに一度――家に帰らないと……
【202X 12月27日 PM12:00】
【まほらぎ市 ハイツまほらぎ 森咲杜鷹の部屋】
【まほらぎ市への五感転送が完了しました】
無事に私は、現実世界へ帰って来る事ができたみたいだ……
ほこやぎ町で体験した――あの長い時間の出会いと出来事に対して、現実世界の時間は止まっていたのだろうか?
私はその事実を確認する為、杜鷹君の自宅のリビングに置いてあるデジタル時計を確認した。
【12月27日の午後12時01分】
――まさか本当に時間が経っていないなんて……
もしかして、昨日杜鷹君が倒れたのは…………
『ふっ――喜冬は鋭いね』
『そう――普通は時間を自分で調整しながら、攻略していくのが、妄想犯行計画』
『だから昨日のあの時――もし喜冬が杜鷹の部屋にいなかったら――』
『杜鷹は絶望の未来ではなく、命の灯火が消えていた――』
そう……昨日の仕事納めの日。
杜鷹君が欠勤ではなく出勤していたら……
仕事の納めの祝品を杜鷹君に届ける事を断っていたら……
杜鷹君の自宅ドアの前で、異変を感じた私が――
気のせいだと思って帰っていたら……
杜鷹君は今、病院のベッドの上にいない……
私も……杜鷹君の秘密を知る事もできず――
杜鷹君の影を私は、追い続けていただろう……
「でも、私は……彼が無茶しない様にする、それだけ……」
「とりあえず家に帰ろう……」
杜鷹君の家を施錠した私は、まほらぎ市の隣にある都市、しろなぎ市の自宅に帰宅する事にした。
【202X 12月27日 PM 15:00】
【しろなぎ市 しろなぎマンション 喜冬の部屋】
【帰還期限迄残21時間】
私の自宅に帰って来るのは、何時間ぶりだろうか?
久しぶりに家に帰ってきた気分だったけど、私はようやく家に帰る事ができた。
あれ?
小蒼さんから荷物届いていない?
小蒼さんから送られてきたはずの荷物を私が探していると、私の家に遊びに来ていた妹――雪護 夢冬が声をかけてきた。
「喜冬姉さん、お帰りなさい」
「ムフちゃん、ただいま――」
「ねぇ?私宛に荷物――届いてなかった?」
「うーん、私も仕事で疲れ溜まって――」
「ヘッドホンしながら爆睡してたから――」
「チャイム聞こえなかったかも……」
「ごめんね、喜冬姉さん」
「そうなんだ……届いてないなら――いいんだ」
「でもヘッドホンしながら寝たらダメって」
「この前も言ったよ――ムフちゃん」
「はいはいー!分かってますよー!でも――」
「喜冬姉さん、何か買ったの?」
「それは――秘密!」
これは私と杜鷹君の2人だけの秘密――
だから誰にも知られてはいけない……
荷物の中身である【KokuSouSPC】と【メガネ型ゴーグル】を万が一――夢冬に見られたら、私たちの秘密に夢冬を巻き込んでしまう事になるから。
「ムフちゃん、私――しばらく入院してる森咲君の看病するから、しばらく留守にするよ」
「森咲さん――?」
「あー喜冬姉さんと趣味友の同僚さん?」
「そう……だから、しばらく家に入れないからね」
「分かったよ――喜冬姉さん」
「あっ!でも大丈夫!喜冬姉さん」
「お父さんとお母さん、帰ってくるから」
「しばらく私は来ないからさ――」
「あとお父さんとお母さんが、喜冬姉さんの顔も久しぶりに見たいって言ってたよ!」
「そうなんだ――私も会いたいけど……」
「会うの難しいかもだから、私からも2人に電話しておくね」
「うん、分かった」
私が関わってしまった出来事に、大事な家族である――お父さんとお母さん、そして妹である夢冬を巻き込む訳にはいかない。
暴かれる側である【あの子】、そして【暴く側】である杜鷹君を支えると決めた私自身が――
杜鷹君に訪れる絶望の未来の要因となっていると知ってしまった今だからこそ――
私の家族を巻き込ない様、私は家族から心配されない距離感でいないといけない……
それが、想いを叶える存在【刻想器】小蒼さんと杜鷹君とハッピーエンドの未来を掴むための――想いの契約をした代償なのだと思っているから――
「……とりあえず、お姉ちゃん――自分の部屋にいるから」
「うん」
自分の部屋に来た私は、机の上に置かれたあるモノが目に入った……
それは、KokuSouSPCと【メガネ型ゴーグルが入った妄想犯行計画プロジェクトの担当者である小蒼から送られてきた荷物だった――
え?――どういうこと?、夢冬はさっき荷物は来てないって言ってたのに――
「……うん、大丈夫だ、ムフちゃんはテレビ見てる――部屋に入ってこない」
夢冬の様子を見て安心した私は、【KokuSouSPC】の電源を点けた。
――ACアダプターはやっぱり無いのね……小蒼さん……
【KokuSouS起動中……】
【ようこそ!雪護喜冬!】
私が今、見ているのは起動画面後の3D空間のデスクトップ画面。
デスクトップ画面の中にいる女の子は、杜鷹君と私が、ハッピーエンドの未来を掴む為の想いの契約をした――
かつて想いを叶える刻想器だった小蒼さん。
『ふっ――改めまして、よろしく――』
『雪護 喜冬――』
『杜鷹が暴走しない様に――今から設定を教えてあげる――』
『それは――――』
【3時間後】
【帰還期限迄残18時間】
杜鷹君が、【あの子】のオリジナルトリックを暴いて行く中で、今後暴走しないために……
探偵ヘルプバージョンの妄想犯行計画で、設定変更が可能な項目だけ――
小蒼さんのサポートの元、私は3時間かけて設定変更を行った……
「これで大丈夫なの――」
「――小蒼さん?」
『ふっ――設定はこれで大丈夫』
『あとはどうするのか――?』
『それは2人で――決めること』
『いい?喜冬』
「うん、分かった……ありがとう、小蒼さん」
『ふっ――やっぱり喜冬も杜鷹と同じ――変わってる』
「あはは――よく言われる――」
「でもこれで――杜鷹君を護れるなら良いんだよ」
『ふっ――ならいいけど』
ブー!ブー!ブー!
小蒼さんと話していたら、私のスマホにまほらぎ市民病院から電話が来た――
「もしもし――まほらぎ市民病院の森咲さんの担当医の夢森ですが……」
「雪護喜冬さんの番号でお間違いないでしょうか?」
「はい、そうです――雪護です」
「森咲さんに何かあったのですか?」
「違います!森咲さんは3時間前に意識が回復しました――」
「森咲さんは今、検査中でもうそろそろ終わる予定ですが――」
「検査に向かう前、あなたに会いたいと仰っておられました」
「ですが――面会時間は終わっているので――」
「雪護さんへ電話することは許可はしました」
「そのご報告をと思い、お電話させていただきました」
「ありがとうございます!――森咲さんに電話、待っていますとお伝えください」
「分かりました――森咲さんに伝えておきますね」
「それでは、失礼します」
ツー!ツー!ツー!
私が今から家に出た所で――まほらぎ市民病院に到着するのは20時ぐらいになるだろうから、杜鷹君と家族ではない私が、時間外に面会できる訳がないよね。
プルル!プルル!プルル!
私のスマホに再度着信画面が表示された。
着信画面に表示された名前は、私が護りたい人の名前だった――
ハッピーエンドの未来を共に掴む、覚悟の想いの契約を――私が小蒼さんとすることになった、キッカケである人の名前――
私が護りたい、大切な人の名前……
その人の名前は――森咲杜鷹。
ハッピーエンドの未来を一緒に掴み、私が護りたいと心の中から想った人の名前だ!
#19 現実世界へのログアウト 完
第4章 雪護喜冬とあの子 完
次章 森咲杜鷹と雪護喜冬と第2の妄想犯行
#20 森咲杜鷹と雪護喜冬 前篇につづく
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