#17 雪護喜冬と妄想犯行計画 後篇
「まさか……私の知らない所で――こんな事になっていたなんて……」
「小蒼さん、もう1つ聞いてもいい?」
「ふっ――何、雪護喜冬?」
私の目の前にいるのは、想いを叶える存在【刻想器】だった小蒼さん。
私の護りたい人――【森咲杜鷹君】と契約した【想いを叶える存在】の1人。
「あなたは……小蒼さんは何が目的なの?」
ここまでが前回の終盤――
ここから先の私に何が起きたのか……話してみるとする――
【202X X月X日 APMXX:XX】
【ほこやぎ町 境界線外 まほやぎプラネタリウム】
「ワタシの目的――杜鷹が選択をやめる事をやめさせないこと――」
「簡単に言えば――【ワタシは裏側からの支援】」
「契約者とワタシは対等……」
「杜鷹が【ハッピーエンドの未来を掴む】、その時まで――契約関係は続く――」
「それがワタシたち【刻想器】と【ヒト】の契約」
「ワタシには、森咲杜鷹の未来を回避する選択を決める権利はない――」
「――これがワタシの目的……」
小蒼さんの言いたい事……
杜鷹君が本来の辿り着く未来は、私が見た杜鷹君の【絶望の未来】――
【あの子】……そして私が、【絶望の未来】の原因の1つであるがために、あの未来の杜鷹君は【心の光を閉ざし、生涯】を終えてしまった。
――だから杜鷹君は、小蒼さんと【ハッピーエンドを掴む契約】をした……ごめんなさい……杜鷹君。
でも私は今、覚悟を決めてここにいる!
杜鷹君の【ハッピーエンドを掴む未来】を、私も一緒に掴むため、私は【現実世界側】と【妄想犯行計画側】で、杜鷹君を支えると改めて覚悟を決めた!
「私は、雪護喜冬は――」
「森咲 杜鷹君とハッピーエンドを掴んでみせる!」
「ふっ――その言葉が聞きたかった」
『ようこそ、ほこやぎ町へ』
小蒼さんの『ようこそ、ほこやぎ町へ』の言葉を最後にまた意識が途絶えてしまった――
【202X 1月X日 PM19:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局前】
『もしもーし!お姉さん、大丈夫ですか――?』
『こんな寒い夜に――ぼぉーとしてたら、風邪ひきますよー!』
ん……確かに寒い――
でもこの声……どこかで、聞いた事がある……
「ごめんなさい……大丈夫です――えっ?」
「ん?――ワタシの顔に何かついてる?」
「もしかして……萬屋赤葉……さん?」
「そうですけど?――ていうかお姉さん、なんでワタシの名前、知ってるの?」
私は今、幻でも見ているのだろうか?
【萬屋 赤葉の事件帳】の主人公で18歳の眼鏡をかけた女の子――
長くて綺麗な赤髪、街の記録人を自称するフリーター探偵、【赤毛のフリ探】が、私の目の前にいる――
――これは幻?それとも現実?
「もしもーし!お姉さん、本当に大丈夫?」
「……大丈夫です……」
「なら良いんだけど――」
「でも冬の外は寒いからさ――とりあえず中に入りなよ」
「――ありがとうございます、お邪魔します」
赤葉さんに連れられた私は、赤葉さんの事務所と思われる【萬屋記録局】にお邪魔させていただく事にした――
――なぜ架空のキャラクである赤葉さんから良い香りがするの?……本当に訳が分からない……
【202X 1月X日 PM19:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
「さぁ、入って――入って!寒いからさ、お姉さん――」
「お邪魔します……」
私が入った萬屋記録局は、一言で言えば探偵事務所に似た様な感じの事務所だった――
事務所奥にあるデスクの椅子に座った赤葉さんは、ぶつぶつ独り言を言い始めた。
「やーと!【やいねぇ】への――」
「【金餅 良緒】様の異臭騒ぎの調査報告書を完成できたから――」
「【杜鷹】とご飯食べに行こうと思ったのに!――」
「杜鷹ったらさ――声かけても爆睡して――起きない!」
杜鷹?
確かに今、杜鷹君の名前を赤葉さんは呼んだ……
「ありえないと思わない?――あ!……お姉さんの名前、まだ聞いてなかった……」
「雪護……雪護喜冬です……初めまして、萬屋さん」
「喜冬さん?――珍しい名前だね」
「でも明るい場所で見る喜冬さん――やいねぇとはまた違う――」
「――『私、覚悟を決めたわ!』的な?――オトナな雰囲気がカッコいい――」
「ごめんね……初対面の人にワタシ……何を言ってるんだろう……」
萬屋 赤葉という私が今、見ている人物は一人の女の子で、とても架空のキャラとは思えない――
萬屋 赤葉の大ファンである杜鷹君に、囚われるな!と言うのも無理もある――
私がそう感じるしかないと思ってしまうほど――私の目の前で見ている、萬屋赤葉さんは18歳の1人の女の子だ。
私が今いる場所も【萬屋赤葉の事件帳】の舞台の【ほこなぎ町】じゃなくて――
杜鷹君の【想いの契約】を元に――杜鷹君が大好きな【萬屋 赤葉の事件帳】の舞台【ほこなぎ町】を、小蒼さんがリマジネーションして作り上げた仮想現実、それが――【妄想犯行計画 ほこやぎ町】
【ほこなぎ町】で活躍している赤葉さん達の拠点は【萬屋マンションほこなぎ】だった――
でもゲーム拠点としての設定が弱いから、小蒼さんが萬屋記録局という拠点を用意した場所と私は思っている――
「ごめーん――喜冬さん……」
「温まる飲み物がなかったからさ――」
「温かい飲み物、買ってくるね――!」
「うん……ありがとうございます」
「すぐに帰ってくるから――!」
ガチャ!――バタン!
赤葉さんは勢いよく飲み物を買いに行ってしまった――杜鷹君はどこにいるのだろう?
そんなことを私が考えていると――視界の左側にあるUIの地図に【M.M】と書かれているピンがある事に私は気づいた――
――Morisaki Moritaka?の略?
そして白いスマホにインストールされていた地図アプリを開くと、UIと地図アプリは連動していて――【M.M】の現在地は、ここ【萬屋記録局】だった――
「ただいま――あれ?、喜冬さん――どうしたの?」
「ここに……森咲 杜鷹さんはいますか?」
「えっ?……森咲 杜鷹――?」
「――いるよ、そこの部屋に――」
赤葉さんが指を示した【そこの部屋】に掛けられていたネームプレートには、【モリタカルーム】と書かれていて――
ネームプレートを見た私は、杜鷹君のほこやぎ町内での、活動拠点であるという事をすぐに理解できた――
「あの……森咲さんとお会いしてもいいですか?」
「え?――別にいいけど……でも爆睡中だから起きないと思うよ――」
「――喜冬さん、もしかして杜鷹の知り合い?」
「私は――その…………ごめんなさい……」
私と杜鷹君の秘密を赤葉さんに勝手に話したら、杜鷹君はどう想うだろうか――
杜鷹君も私も萬屋赤葉が大好きだから……【ほこやぎ町】で、生きている萬屋 赤葉さんを絶対に傷つけたらダメだ!
「ん?――なんで謝るの?――喜冬さん?」
「モリタカはね……ワタシと最初に出会った時――」
「『よおぉろずやーあぁかはぁぁーだ!ホンモノダァぁぁ!』って――人混みのスクランブル交差点で叫んだんだ――」
――いくら赤葉さんが好きだからとはいえ、それはどうなのかな……杜鷹君……
「あの時のモリタカは――やばい系の不審者で『ホンモノ』とか意味不明だったんだ――」
「でもワタシは――そのあと彼が訳アリなのも知ったし……」
「そもそも――年上の男の人は、ワタシは苦手だし――」
「でも探偵として、萬屋記録局の局員としてのモリタカをワタシは局長として信頼してる――」
「だけど!魚嫌いなワタシに【臭い干物】の匂いがついお皿を近づ――」
杜鷹君が赤葉さんにした事を話そうとした時だ――事務所の玄関ドアが開き、赤髪の綺麗な大人の女性が――事務所に入ってきた――
「赤葉ちゃん、白葉ねぇが来たよ――」
「おっ?――|八色姉さんへの調査報告書、発見!」
「――どれどれどれ………………赤葉ちゃん」
「――OK。赤葉ちゃんもやればできるじゃん!」
「どうだー!……局長モードの赤葉様が本気を出したら、簡単だよー!……白葉ねぇは今帰り?」
「そうそう――今帰り!――白葉ねぇはもうクタクタだよ――ん?」
「こちらの方は――誰?」
【萬屋 赤葉の事件帳】の世界では――
警察キャリア組の【萬屋 八色】警視。
ほこな……やぎ……ほこやぎ商事勤務の会社員である萬屋白葉さん。
そして、目の前にいる萬屋赤葉さん。
【萬屋赤葉の事件帳】では、彼女達の役割はそれぞれ決まっていて――
白葉さんは、赤葉さん以上に事件に巻き込まれる役割で、赤葉さんが事件に介入してしまう原因にもなってしまっている――
事件に巻き込まれた時でも冷静な対応が白葉さんは、推理熱中癖の赤葉さんのブレーキ役と情報整理役としての役割を持ち――
そして萬屋姉妹の1人として、八色警視と赤葉さんとの橋渡し的な役割も持っている。
それが私の知っている萬屋白葉さん――
――小蒼さん……いや杜鷹君……どれだけ【萬屋 赤葉の事件帳】が好きなのよ!
「初めまして――雪護 喜冬と申します――」
「こちらこそ――初めまして――」
「萬屋 白葉と申します――」
「赤葉ちゃん!――ご飯、まだでしょ!」
「ご飯行こーよ!白葉ねぇが奢るからさ――!」
「雪護ちゃんもどう?」
「喜冬さん?――もしかして、杜鷹が気になる?」
「ん――杜鷹?――それって……萬屋記録局の新人さん?」
「うん――そう!」
「――金餅さんが萬屋記録局に依頼してきた、異臭騒ぎと報告書に書いてある――」
「西坂さんが起こした【計画的犯行計画】を暴いたのは、私たちと杜鷹だよ!」
「――え?」
「喜冬さん?――どうしたの?」
「その……杜鷹さんが、解決した事件の……赤葉さんが作られた――八色さん宛の報告書を――」
「――私に見せていただくことは――可能なのでしょうか?」
「うーん――それはできないかな――」
「ワタシ……ていうか、杜鷹が暴いた事件だけど――」
「やいねぇが手回ししてくれたおかげで――」
「――ワタシとスキンハゲとやいねぇが――」
「――杜鷹に協力した結果――杜鷹が暴いたからね」
「そう……ですよね……」
「ごめんね……喜冬さん――」
やはりここは……フィクションという世界ではなくて――
私たちと同じ様に赤葉さん達の【今】がある世界なんだという事を改めて、私は実感させられた――
――スキンハゲって――明堂警部もいるのか、あのやりとりも杜鷹君は見たのかな、ちょっと羨ましいな……
「とりあえず――喜冬さん」
「さっき知り合った人にお願いするのも――」
「アレなんだけど――留守、お願いしてもいい?」
「白葉ねぇとご飯食べたら戻ってくるから、ね?」
「分かりました、いってらっしゃい――」
「いってきまーす!行くよ、白葉ねぇ」
「はいはい、またあとでね――喜冬さん」
ガチャ!――バタン!
赤葉さんと白葉さんは、ご飯を食べに出かけて行った――
今なら杜鷹君が……ほこやぎ町の杜鷹君がどうなっているのか……確かめることができる――
そう考えた私は、【モリタカルーム】の扉を開けた!
#17 雪護喜冬と妄想犯行計画 後篇 完
#18 モリタカルームにつづく
最後までお読みいただきありがとうございました!




