17話 異7話 第1の妄想犯行 雪護喜冬の現実開幕終幕篇
第4章 雪護喜冬とあの子
異7話 第1の妄想犯行 雪護喜冬の現実開幕終幕篇
【202X 12月26日 PM19:30】
【まほらぎ市 まほらぎ駅】
「うーん、やっぱり出ないな、森咲くん」
まほらぎ市にある会社に勤める私の名前は、雪護喜冬、20代半ばの会社員だ。
私は今、同僚で趣味友である森咲杜鷹君の自宅、ハイツまほらぎに向かって歩いている。
森咲君は、私と同じトリック小説と推理小説を観て、推理やトリックを考察する趣味を持つ趣味友だ。
森咲君は知らない、私だけの趣味があって、それはオリジナルトリックを考えたりする事。
森咲くんと趣味友になったキッカケは、半年前に遡る……
【半年前】
半年前の6月のあの日。
昼休憩時間中の会社のデスクで、お昼ご飯を食べながら、森咲君は萬屋赤葉の事件帳を観ていた。
私が好きな作品を森咲君も見ていたことが嬉しくて、森咲君に声をかけてしまった。
「森咲くん! 今森咲君が見てるそれって……もしかしてアニメ萬屋赤葉の事件帳?」
「うあぁぁ! びっくりした……ゆ、雪護さん?」
「ごめんごめん。私を昨日見たから、嬉しくて声かけちゃった」
「まあ、良いですけど……もしかして雪護さんも萬屋赤葉の事件帳が好きなんですか?」
「うん、好きだよ。昨日の一話も面白くて、楽しかったよ」
「そうだよね、僕も好きなんだ萬屋赤葉。昨日の第一話の赤葉のセリフがカッコいいんだよな……雪護さんもそう思わないですか?」
「もちろん! でもね…………」
森咲君との初めての会話がこんな感じから始まったということだけは覚えている。
森咲君は、推理とトリックの考察力を私以上に持っていて、森咲くんと色々な作品を一緒に鑑賞する内に、自然と趣味友以上恋人未満の様な関係になっていった。
そんな森咲くんが変わってしまったのは、映画館であるまほらぎシアターで、萬屋赤葉の劇場版を観た、12月のあの日の土曜日だ。
萬屋赤葉の事件帳の原作者柊の直筆入り特別サインチケットを購入できた私は、森咲君をまほらぎシアターへ誘い、映画を観た後、食事をして帰宅する予定だった。
しかし森咲君は、劇場版序盤の萬屋赤葉が萬屋八色警視からの電話を出る際にスマホを取り出した辺りから、彼の気配が消えていた。
私が彼の座席を視線を向けると、隣にいた森咲君は何故か深い眠りに入っており、何度声をかけても反応がなかった。
あれだけ森咲君が楽しみにしていた劇場版だったのに……これが私が最初に気づいた、森咲君の異変だ。
まほらぎシアターから出た直後の森咲君は、何故かスマホを見た後、青ざめた顔でどこか落ち着きない様子で、早く帰りたそうな雰囲気であることを察した私は、その日は駅まで送ってもらい解散した。
次に私が、森咲君と会ったのは、2日後、月曜日の会社であったが、出社した森咲君は、すぐに私のデスクへ来て、土曜日の映画館の事を謝ってくれた。
「雪護さん、ごめん! せっかく雪護さんが2人分の鑑賞チケットを買ってくれたのに……本当にごめん!」
「いいよ、森咲くん。映画館ならまた行けるし、劇場版が動画配信されたら一緒に見れるからさ、大丈夫だよ!」
「本当にごめん、雪護さん!」
「分かったから、森咲君」
必死に私に謝る森咲君の眼を見た時、森咲君の瞳の奥にあったはずの輝かしい光が、無くなっている事に私は気づいた。
これが私が次に気づいた、森咲君の異変だ。
そして12月26日の今日は、会社の仕事納めの日であるが、体調不良を理由に森咲君は会社を欠勤した。
私と森咲君は同期入社の同じ部の所属だから分かるけど、森咲君は入社以来一度も欠勤した事が無い。
森咲君が持つ明るさとコミュニケーション能力の高さから、部内はもちろんのこと、課長や部長からも森咲君はかなり気に入られていて、欠勤した森咲君の為に仕事納めの祝品を用意しているぐらい、彼は会社で好かれているのだ。
『おーい、雪護!』
『はい、なんでしょう? 部長』
『悪いんだが、仕事納めの祝品を森咲に、届けてやってくれないか?』
「私が祝品を届けるのですか?」
「俺が届けるよりも、森咲と仲がいい雪護が届けに来た方が、森咲も嬉しいだろ? 雪護、頼めるか?」
「は……はい、分かりました、部長」
「悪いな……頼んだぞ、雪護。しっかし入社以来、欠勤した事がない森咲がな――」
こうして私は今、まほらぎ駅から徒歩15分の場所にある森咲くんの自宅に祝品を届ける為に向かっている。
「なんか、静かな住宅街ね。暗闇から人が、急に出てきて、『わっ!』なんて言ってきたら……ホラー映画並に怖いぐらいの静けさだわ」
そんな閑静な住宅地を5分ぐらい歩いているとハイツまほらぎと書かれた、綺麗な3階建てのアパートが見えてきた。
「え……と、森咲君の部屋……森咲君の部屋はっと……、あった!」
ピンポーン! ピンポーン!
ピンポーン! ピンポーン!
「あれ? 出ないな森咲くん。もしかしてどこかへ出かけたのかな? 体調不良なのに……帰ろうかな」
森咲君が出かけているのであれば、仕方がない。
しかもこの真冬の寒夜に、いつ帰って来るのか分からない森咲君を待つよりも、明日の明るい時間にまた来た方が良いと考えた私は家に帰ろうとした時、玄関口のポストから光が漏れ出ている事に、私は気づいた。
「あれ? やっぱり、森咲君いるのかな…………本当はこんな事したくないけど、ごめん! 森咲君」
趣味友以上の関係ではない、異性である森咲の部屋の玄関を開けるなんて、決してよくはない!
でも私は森咲くんが心配、月曜日に見た森咲くんの瞳の光の消え方は、異常だ……
――森咲君が無事なら無事で、それで良い。私は祝品を渡して帰るだけだ……
ガチャ!
「あれ、鍵があいてる? いるの、森咲くん?」
――電気がついてる……これ? 市販の薬……酔い止め?
森咲くんの自宅リビングは、綺麗に整理整頓されていて、萬屋赤葉の事件帳のポスターや萬屋赤葉のグッズ、あと私が送った、萬屋赤葉のレアグッズも綺麗に飾られている。
――本当に、森咲君は萬屋 赤葉が好きなんだね……
『よし! 行くか、あの世界に!』
「ん? 森咲君の声? 奥の部屋から?」
森咲君の声が聞こえて来た、奥の部屋へと向かった私が見た光景は、今、この瞬間に起きている事なのかを疑ってしまう様な光景を見た。
森咲君は、ACアダプターが無いノートパソコンが置かれた机の前で、VRゴーグルの様な形をしたモノかけて椅子に座っていて、私は椅子に座っている森咲君に声をかけた。
「森咲くん、あなた、何やってるの!」
私の声に森咲君は、慌てながらかけていたゴーグルを外した。
「……なんで雪護さんが僕の部屋にいるの?」
「なんで? 今日、森咲君、何の日か知ってるの?」
「何の日……仕事納めの日……だよ」
「森咲君は今日、会社に出社した?」
「え? もちろん? あれ、出社したよな」
――本当に大丈夫なの? でもこの状況はどう考えてたとしても普通じゃない!
「森咲君が出社したなら私は、ここにはいないよね、違う?」
「え? 確か…に、でもなんで来たの?」
「部長に頼まれて、これを届けに来たからよ!」
私が見せた、会社からの仕事納めの祝品を見ながら森咲君は呆然と立っている。
「ここに来る前に、森咲君にも何回も電話した、でもあなたは出なかった。私は一度、森咲君の家に萬屋赤葉のレアグッズを宅配便で送らせてもらったことがあったから、森咲君の自宅住所も知ってる……今日も会社を体調不良で欠勤したから、私は森咲君が心配で……だから様子を見に来たの!」
私が森咲君にそう告げると、森咲君は自分のスマホの画面を確認し始めて、しばらくして森咲君は謝ってきたが、今の私が確認すべきことは、森咲君の背後にある普通ではない得体の知れないノートパソコンと森咲君が言ったあの言葉の意味だ。
「謝らなくていい。一つ聞かせて、森咲君」
「ごめん……喜冬さん、聞きたい事って?」
「森咲君の後ろにある部屋の奥にあるソレは何? それとさっき言ってたあの世界って、どう意味?」
「あ……そ……それは、え……………………?」
森咲君の顔が一気に青ざめた顔色に変わっていき、森咲君はその場で倒れた。
「ねぇ、森咲くん! 森咲君、森咲君!」
私はしばらく声をかけ続けたが、森咲君からの返事は無かった。
プルルル! プルルル!
『はい、こちら119番です、火事ですか、救急ですか?』
「救急です! ――――」
私は救急車を呼び、森咲君はしばらくして、到着した救急隊によって、まほらぎ市民病院へ搬送された。
私は救急隊の人へ名刺を渡して、救急車がまほらぎ市民病院へ向かった後、その場で泣き崩れた。
「森咲君……森咲君……森咲君! どうして、こんな事になったの? 森咲君!」
森咲くんの瞳の光がなくなった理由、会社を欠勤した理由、自宅で森咲君が、ゴーグルをかけていた理由。
そして、森咲君の『あの世界』という言葉の意味。
全ては12月のあの日の土曜日のまほらぎシアターから始まっていたことをこの時の私は、知る由も無かった。
17話 異7話 第1の妄想犯行 現実開幕終幕篇 完。
18話へつづく!




