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16話 第1の妄想犯行 その10(終幕篇)

 

 第1の妄想犯行 その10(終幕篇)


【202X 1月X日 PM17:00】

【ほこやぎ町 萬屋記録局(よろずやきろくきょく)】



 金餅邸での事件を解決した赤葉さんと僕は、萬屋記録局へと戻ってきた。



「………じゃあね、やいねぇ。

 はぁ、あれをお願いって……よし! モリタカ、ちょっと静かにしてね」

「あれ? ああ、なるほど、分かりましたよ、赤葉さん」



 局長のデスクに赤葉さんは座って、パソコンを起動した後、一瞬懸命、何かを打ち始めた……



「えーと、金餅 良緒(かねもち よしお)様の異臭騒ぎのき……きろ……記録とh……o……ほ、報告についてっと、あーもう! 面倒くさいな!」

「赤葉さん、大丈夫ですか?」

「モリタカさ、この状況を見て? 大丈夫な訳がないでしょ! やいねぇに調査や事件があったりしたら必ず報告書を提出する約束で、萬屋記録局を支援してもらってるから、こっちも必死なのよ!」



 ――八色警視、恐るべき姉上様だよ……



「いつもはさー、白葉(しろは)ねぇに手伝ってもらって、なんとかやいねぇへ報告書を出してるんだけどね……さっき、やいねぇに報告書はモリタカに書いてもらっても提出する形でも良いかな? って、金餅邸で聞いたら、『モリタカ君は局員、責任者はあなたでしょ』……だって!」

「……ははは、八色さんらしいですね……」

「なーにが『ははは、八色さんらしいですね……』よ! でもさ、モリタカがいなかったら西坂さんの犯行を暴くことができなかったよ……ありがとう、モリタカ」

「僕はただ、人を殺めた人物を許す事ができなかった……それだけですよ」

「まあ、私も同じ考えなんだけどね……まあいいや、とりあえずさ、昨日も寝てないんでしょ? だから今はゆっくり休みなよ、モリタカ」

「わかりました、赤葉さん」



 ガチャ!



「ふぅ、疲れたな」



 萬屋記録局にある僕の部屋のベッドで、僕は横になっている。

 数時間前の事件解決の瞬間まで、僕の視界に映っていた残解決時間のUI表示が消えたことが、こんなにも安心できるなんて……



 第1の妄想犯行における今回の事件について、西坂さんが、全てを認めて自分から話を始めたと八色さんから赤葉さんへ電話報告があった。

 詳しくは、赤葉さんは教えてくれなかったが、『えーと、推理ドラマによくある金餅さんと西坂さんとの間にあった、立場と金銭が絡んだトラブルだよ』とだけ、赤葉さんは言っていた。



 ――言いたいことはわかるんだけど……僕からすれば、赤葉さんたちも同じ様な存在みたいな者なんだけどね……



「まさか……本当に自分が、事件を解決してしまうな……て……」



【妄想犯行計画内で睡眠ログアウトが実行されました】

【お疲れ様でした】

【次回帰還期限 202X 12月27日 PM20:00】



 妄想犯行計画内で睡眠を取ると、睡眠ログアウトが実行される。

 だから拠点である萬屋記録局で、誰もいないこの部屋でログアウトするのが一番の安全な策になる。



 そう言えば僕が、現実世界のまほらぎ市の自宅から妄想犯行計画へログインしたのは、202X年12月26日の午後8時だったか。

 現実世界は、妄想犯行計画のゲームルール通り、ログインしてからログアウトするまで、完全に時間がストップされているはずだから、1秒も経っていないはすだ。



 ――となると、ログインしてから事件に遭遇、徹夜して解決、そこからログアウトするまでの合計時間は、約30時間ぐらいか? ラーメン! それが今の僕が、一番食べたい物だ!




 【202X 12月26日 PM20:00:01】

 【まほらぎ市 ハイツまほらぎ 杜鷹の部屋】


 【まほらぎ市への五感帰還が完了しました】



 やっと帰ってきた、約30時間ぶりの現実世界!

 さあ、ラーメン! ラーメン! あれだけ強烈な匂いを放つ臭い干物の妄想犯行計画による事件を解決したのだ!

 事件を解決したお祝いに、僕は今から現実世界でシメのラーメン、まほらぎ家の特製醤油ラーメンを食べにいくんだ!


「さあ、ラーメン食べに行……」

「森咲くん、あなたを何やってるの!」


 ――え? 雪護……雪護さんがなんで僕の部屋にいるんだ?



「……なんで雪護(ゆきもり)さんが僕の部屋にいるの?」

「なんで? 今日、森咲君、何の日か知ってるの?」

「何の日……仕事納めの日……だよ」

「森咲君は今日、会社に出社した?」

「え? もちろん? あれ、出社したよな」

「森咲君が出社したなら私は、ここにはいないよね、違う?」

「え? 確か…に、でもなんで来たの?」

「部長に頼まれて、これを届けに来たからよ!」



 かなり怒っている雪護喜冬さんが、僕に見せてきた物。

 それは仕事納めの日に、毎年会社から貰える祝品であった。



「ここに来る前に、森咲君にも何回も電話した、でもあなたは出なかった。私は一度、森咲君の家に萬屋赤葉のレアグッズを宅配便で送らせてもらったことがあったから、森咲君の自宅住所も知ってる……今日も会社を体調不良で欠勤したから、私は森咲君が心配で……だから様子を見に来たの!」


 喜冬さんの話を聞いた僕は、充電されている自分のスマホのロック画面を見た。

 ロック画面の通知は、喜冬さんからの複数件の不在着信と僕を心配するメッセージが、喜冬さんから送信されている事を記録していた。

 確かに今日の朝の僕は、5D(五感)酔いが酷くて、仕事納めの大事な日なのに、会社を欠勤した。

 僕はそれすら忘れて、20時間以上、妄想犯行計画を攻略していたのだ。

 喜冬さんとは、趣味友以上恋人未満な関係だけど、僕が休んだら必ず心配するであろう彼女ことも考えずに、事件解決をしたご褒美にまずはラーメン! だなんて……。


「ごめん、喜冬さん!」



 今の僕には、喜冬さんに謝る事しかできないし、喜冬さんを妄想犯行計画へ巻き込む訳にはいかないんだ!



「謝らなくていい。一つ聞かせて、森咲君」

「ごめん……喜冬さん、聞きたい事って?」

「森咲君の後ろにある部屋の奥にあるソレは何? それとさっき言ってたあの世界って、どう意味?」


 喜冬さんが、指を示した先は僕の部屋にあったソレだった。

 ソレの正体は、ゲーミングデスクに置いてあったKoKuSouS(コクソウズ)PCと妄想犯行計画にログインする為のメガネ型ゴーグルだった……


「あ……そ……それは、え……………………?」



 ――えっ………あれ? 頭がクラクラして………



 バタン!



「ねぇ、森咲くん! モ……リ……サ……」



 喜冬さんの声を聞きながら、僕の記憶はここで途絶えた……


 16話 第1の妄想犯行 その10(終幕篇) 完。

 第3章 萬屋 赤葉と第1の妄想犯行  終章。


  次章 雪護喜冬とあの子

 17話 異7話 第1の妄想犯行 雪護喜冬の現実開幕、終幕篇へつづく!

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