15話 第1の妄想犯行 その9(暴き篇)
第1の妄想犯行 その9(暴き篇)
【202X 1月X日 PM23:00】
【ほこやぎ町 ほこやぎ警察署 第6会議室】
【残解決時間 152時間】
僕たちは今、ほこやぎ警察署の第6会議室にいる。
僕たちがいる理由は、西坂さんのアパート付近にあるゴミステーションにて、西坂さんが捨てたと思われる音声データが削除されたスマホの復元に成功したと明堂さんが、ほこやぎ警察署の鑑識から受けたからだ。
「赤葉とモリタカ君には申し訳ないのだけど、一般人であるあなた達に、今回の事件の証拠品である音声が復元されたスマホを見せたり、音声を聞いてもらう事はできないの。分かるわよね?」
「うん、分かってるよ、やいねぇ」
「勿論ですよ、八色さん」
「スマホを見せることができない代わりにこれを見てもらってもいいかしら、モリタカ君」
事件の重要証拠品であるスマホを見せらない代わりに、八色さんが特別に僕たちへ見せてくれたのは、今朝、僕と赤葉さんが、邸内に入る際に2人の家政婦さんとすれ違った時の邸内入り口付近の防犯カメラの映像だ。
「モリタカ君、どう? 映像から何か分かりそう?」
「えーと何か分かりそうと言われてもですね……あれ?」
「どうかしたの、モリタカ君?」
「八色さん、この後からすれ違った人がマスクをしてないみたいですが、何故ですか?」
高性能防犯カメラの鮮明な映像は、北宮さんが邸内ドアを開けた瞬間、2人の家政婦が飛び出してくる所が記録されている。
僕が気づいたのは2人の内、後ろにいた片方の家政婦さんだけがマスクをしていない事だ。
前の人が、マスクをしたまま鼻から口を手で押さえて、この世の終わりみたいな表情で出てくるの対して、後ろの家政婦さんは、マスクも着けずに何事も無かった様な表情のまま付いてきている様にも見える。
マスクしたまま鼻から口を押さえながら出てくる人がいるのには、マスクをしていないのはどう考えても不自然だ。
――ん? 待てよ、この人……制服の白い部分、なんか汚れてないか?
「マスクをしていない、後からすれ違った人? ああ、その人は、西坂花鈴さんね。明堂君が、現場で西坂さんから聞いた話だと、彼女は産まれた時から強烈な匂いだけを何故か感じない特異体質らしいわ。そんな特異体質、珍しいと思わない? モリタカ君」
「まあ確かに珍しいですね、強烈な匂いだけを感じない特異体質なんて……あーだから今朝、金餅さんが書斎室にいた時間に、食室全体が吸気状態となっていたオープンキッチンで、臭い干物を焼くことができたんですね?」
「はぁ……モリタカ君ねぇ、私は西坂さんじゃないの。臭い干物を焼いていたという本人からの証言を聞き出すのがキミの役目よ。それこそ、我々が求めている最後の確たる証拠なのだから、頼んだわよ、モリサキ モリタカ君」
「はい、分かりました、八色警視」
――これで全てのラインが……繋がった!
【202X 1月X日 PM13:00】
【金餅邸 客間】
【残解決時間 138時間】
そして僕は一睡もせずに時間は進み、今、金餅邸の客間にいるのだ。
僕と赤葉さん、八色さん、明堂警部がいる反対側には、西坂花鈴さんがいる。
「………というのが、僕の考えですよ、西坂 花鈴さん」
「……チッ!」
「西坂さん、あなたの計算された犯行計画とアリバイ工作は完璧でしたよ」
西坂さん……いや妄想犯行計画の相手プレイヤーが組み上げた妄想犯行計画を実行した西坂さんの犯行は完璧のはずだった……あるミスを西坂さんがしなければ、僕は暴けなかった。
「まさかそこまで、私の計算を逆算してくるなんてね。あんた、何者?」
「僕ですか? 萬屋記録局局員の森咲です」
「萬屋記録局……はぁ、だからかな……この前金餅のじいさんが、『最近、自称街の記録人の萬屋赤葉が、妙なことやり始めたようじゃ』……なんて話を金餅のじいさんがしていた事を思い出したわ」
これが想いを叶える存在刻想器だった小蒼ちゃんが、萬屋 赤葉の事件帳のファンである僕の絶望の未来を変えるための想いの契約をした事で作り出した、妄想犯行計画 ほこやぎ町……
だから萬屋赤葉の事件帳内における、ほこなぎ町で街の記録人であり、フリーター探偵だった赤葉さんと同じく、ほこやぎ町の赤葉さんもフリーター探偵だった。
小蒼ちゃんがゲームの拠点として萬屋記録局を用意したがそれは裏向きの話。
表向きの話としては、八色さんの支援で、萬屋記録局が設立され、赤葉さんが萬屋記録局の局長になっていた……ということなのだろう。
「私のこと……いつから疑ってたワケ?」
「あなたを疑っていたのは、昨日の邸内入口前で、すれ違った時です、西坂さん」
「はぁ? あの時、東絵さんもいたでしょ?」
「いましたね……でも西坂さんの制服には、シミがついてましたよ」
「制服のシミ? あーその事? それは昨日、金餅の爺さんが書斎室にいる時に、猫の餌用にキッチンで、昨日届いた干物を焼いた時についたシミ………あっ――」
「西坂さん……僕は、制服にシミがついていたとしか言っていませんよ。なぜ、出勤した直後のあなたが、猫の餌様に、臭い干物をわざわざ焼く必要があったのですか?」
「そ、それは……チッ! クソ!」
「西坂さん、あなたが計算して実行した今回の犯行のラインとラインは、もう繋がってしまったのですよ」
東絵さんと西坂さんと昨日、邸内入口前ですれ違ったあの瞬間、一昨日の夜20:30分に西坂さんが事前設定したK.S換気システムの換気設定によって、書斎室は排気状態から換気状態に切り替わっていた。
だから昨日の朝9時から10時の間に誰もいない食室のオープンキッチンで、出勤したばかりの西坂さんが、猫の餌用に臭い干物を焼き出す事自体が不自然だ。
西坂さんが臭い干物を焼いた際の脂のはねが、残り香の正体だと考えた時、東絵さんがマスクをしたまま鼻から口を手で押さえて、この世の終わりみたいな表情を西坂さんがしていない事が、違和感を覚えるしかないのだ。
――金餅さんを殺めた家政婦さんしか知らない情報、それが確たる証拠であり、確たる証拠を西坂さんから聞き出す事、それが僕の役目だった……
「チッ! それも計算して来るとはね……そうよ! あの憎き金餅のじいさんを確実に殺めてやる為に、毎日計算して作り上げた計画。スポンジと皿を残したのも、誰かに洗わせて、指紋を付けさせた。
吸気状態の食室のオープンキッチンで、臭い干物を焼き終わり、皿に乗せたら、そのタイミングで東絵さんが来たけど、臭い干物を焼いた匂いで、すぐに食室から出て行ったから、私も演技した。ただそれだけ」
「では、網膜登録の事は、西坂さんは知らなかったのですか?」
「もちろんよ。まさか金餅のじいさんの口癖で、管理者ログインしたら、SF映画に出てくるみたいな換気設備に網膜登録をされていたなんて、思わないわよ。私はね、ただあの金餅のじいさんをあや――」
「はい、西坂さん! そこまでよ。どんな理由があろうと、1人の命の灯火を勝手に消したあなたは、法で裁かれないけない。だから話の続きは、ほこやぎ署で聞くから……明堂くん、お願い」
「了解しました、萬屋警視! ……西坂花鈴、あなたを金餅良緒さんを殺めた容疑で逮捕します」
ガチャン!
西坂さんが明堂さんに連れて行かれる直前、ずっと黙っていた赤葉さんが、西坂さんへ言葉をかけた。
「西坂さん。あなたの気持ちはわかる、理解できない訳じゃないわ。殺める以外の色々な選択肢も選ぶこともできたのに、あなたは金餅さんを殺めるという選択をしてしまった。
その結果、あなたの犯行はモリタカによって暴かれた、ただそれだけのこと……。
あなたの犯行は、モリタカの言う通り、途中までは完璧だったのに、あんな強烈な匂いを放つ臭い干物を凶器に選んでしまった時点で、あなたの運命は決まっていた、だから……」
脂のシミという致命的ミスが、招いた結果なのよ!
「ふ、あんたに言われなくても分かってるわよ…………」
赤葉さんが西坂さんへかけた言葉。
それは、推理作品である萬屋 赤葉の事件帳の主人公、ほこなぎ町の萬屋赤葉さんと同じシリアスモードの萬屋赤葉だった。
当たり前だが、画面を通して見るより、自分の瞳で直接シリアスモードの赤葉さんを見ると迫力も違いすぎるのだ!
こうして、匂いと言う凶器を舞台として行われた、西坂花鈴さんの妄想犯行計画は、僕が暴いた結果、八色さんと明堂さんに西坂さんが、ほこやぎ署へ連れて行かれる形で幕を閉じた。
【ステージ1 匂いの妄想犯行クリア!】
【残解決時間 137時間のリセットを完了しました!】
僕の視界に映るUIメッセージに今、ステージ1クリアのメッセージと残解決時間のリセット完了のメッセージが表示された。
しばらくすると、残解決時間のUI表示が消えた。
――ふぅ、なんとか解決できた……
安堵しながらぼっーと立ち尽くす僕に、小蒼ちゃんが頭の中へ直接語りかけてきた。
『ふっ――まずは第一ステージ、クリアおめでとう、杜鷹』
『なにーが、『第一ステージ、クリアおめでとう』だよ、小蒼ちゃん。仮想空間とはいえ、1人の命の灯火が消えた瞬間の光景を見たんだ、だから殺めた西坂さんも暴かれる側のプレイヤーも許せなかった。
だから僕は、ほこやぎ町在住の一般人、仮想の五感を持つ探偵としての覚悟を決めて、西坂さんの妄想犯行計画を暴いたそれだけのことだよ』
『ふっ――でも完全に解いたわけじゃないのは分かってよね?』
『ああー、スポンジと皿の件と邸内で猫が泣いていた理由だろ? それも解決済みだよ、小蒼ちゃん』
僕が妄想犯行計画へ、ログインしている間は、僕の意識と五感を通じて、ほこやぎ町在住の森咲杜鷹として、ほこやぎ町の現実を生きていく必要がある。
1秒1秒と五感再現された赤葉さん達を含むほこやぎ町に住む住人は、プログラムされたNPCじゃないから、金餅さんの飼い猫も一匹の猫として考える必要がある。
数字間以上前、ほこやぎ警察署で、僕が明堂さんに聞いた話によると……
「スポンジと皿? ……ああ、あれはだな。北宮さんが、我々が到着する前に洗ったそうだぞ」
僕と赤葉さんは、スポンジと匂いのついたお皿を回収したが、そのお皿を洗ったのは初老の家政婦である北宮さんだった。
長年、金餅邸で働いていた北宮さんは、金餅さんに雇われたただの家政婦さんではなく、金餅さんの親戚だったらしい。
「ホシは、普段からやりっぱなしが多かったみたいでな。几帳面な性格な北宮さんによる、整理整頓された食室のオープンキッチンを赤葉とモリサキも見ただろ?」
「えっ? ……まあ、見ましたけど……」
「だから北宮さんは俺たち来る直前に、オープンキッチンに放置された皿に気づいて、北宮さんも嗚咽を我慢しながら洗ったと本人が言っていたよ。
だからあのお皿には、北宮さんの指紋とホシの指紋がついていたと言うわけだな」
「じゃあ、焼かれた臭い干物がなくなっていたのは?」
「モリサキ、金餅さんの飼い猫は干物が好物だそうだ。いつもは、北宮さんか東絵さんが金餅さんに文句を言われない様に、焼いてもあまり匂いのしない干物を焼いていみたいだな……」
――いくら干物が好物の飼い猫だからって、臭い干物も食べちゃうのか………すごいな……
「しっかしよー、オレが最初、あの食室とオープンキッチンを見たときに、カミさんも見習って欲しいと正直、思ってしまったわけだ! ……んな言葉にしたら、カミさんに殺められてしまうけどな!」
――明堂さん……流石に返事に困りますよ……
『小蒼ちゃん、全ては僕の見えないところで、1秒1秒で動いていたんだよ。それが、トリックモノと推理モノのフィクションの世界と小蒼ちゃんが僕の想いを元に具現化させた仮想空間妄想犯行計画 ほこやぎ町の違いというわけさ。小蒼ちゃん、分かったかい?』
『ふっ――さすがだね、杜鷹。事件も暴いた事だし、ログアウトを今する?』
『ここで今、ログアウトするのはまずいよ。だから萬屋記録局の僕の部屋でログアウトする』
『ふっ――じゃあ現実世界のまほらぎ市で待ってね、杜鷹』
『うん、じゃあまた、現実世界の僕の部屋で、小蒼ちゃん』
――プレイヤーの拠点でログアウトは基本だよ、小蒼ちゃん。
僕が小蒼ちゃんとの会話を終えると時の紡ぎが始まり、帰り支度をしている赤葉さんが声をかけてきた。
「モリタカ、何してんの? 帰るよ!」
「はい、赤葉さん!」
こうして赤葉さんと僕は、第1の妄想犯行、匂いの妄想犯行の舞台である金餅邸を後にして、萬屋記録局へ帰るのであった……
15話 第1の妄想犯行 その9(暴き篇) 完。
16話 第1の妄想犯行 その10へつづく!




