14話 第1の妄想犯行 その8(推理篇②)
第1の妄想犯行 解決篇 その8(推理篇②)
【202X 1月X日 PM22:00】
【ほこやぎ町 萬屋記録局 】
【残解決時間 153時間】
僕の推理の疑問点について、赤葉さん達からの質問に回答していると、萬屋記録局の事務所内にスマホの音が鳴り響いた。
プルル! プルル! プルル!
「こちら明堂、なんだってぇ! ……そうか分かった、また何か分かったら連絡をくれ。
……はあ、モリサキ、おまえの読み、当たってるかもだぞ、あんな臭い干物、家政婦が焼くなよ……」
「はぁ? 臭い干物ぉ?」
日常生活で聞き覚えのあるあの臭い干物を利用したトリックは、あまりのギャップに赤葉さんが驚くのも無理はないだろう。
サラリーマンである本来の僕がいる現実世界で放送されたアニメ、萬屋 赤葉の事件帳の第一話、嗅のトリックを初めて見た時、本当に驚きしかなかった。
「そうです……犯行に使われた物は臭い干物だったんです」
犯人が強烈な匂いを放つ干物を使用して、証拠隠滅した真犯人が、実はその干物を好物にしている猫というフィクションならではの設定。
フィクションの枠を最大限に使用した嗅のトリックは、推理モノとトリックモノを趣味とする僕の心を鷲掴みにするほどのインパクトだった。
「でもさモリタカ、その家政婦さんはどうやって臭い干物を、金餅さんの邸内に持ち込んだの?」
「赤葉さん、その質問の答えは明堂さんの情報の中にあります。明堂さん、あの家政婦さんは宅配便サービスを使っていませんでしたか?」
「その通りだ、モリサキ。ホシは二日前の夕方、ほこやぎ町の宅配便サービスを受付しているコンビニで、金餅邸宛に荷物を一件、日付と時間を指定して発送していたことが、調査結果から分かった。
時間指定された時刻だが、家政婦さん達の退勤後、金餅さんが一人で邸内にいる時間に、配送されるように指定されていたみたいだ」
「ありがとうございます、明堂さん。他に何か分かった情報はありますか?」
「ああ。北宮さんが見せてくれた勤務予定表から、ホシだけが昨日と一昨日、連休だったということだ」
金餅さんに怪しまれずに、臭い干物を焼く為には、怪しまれずに持ち込む必要がある……
そこで、殺めた家政婦さんが連休という空白の時間を使い、持ち込む手段として利用した方法が、日付、時間指定の宅配便サービスだった。
コンビニならナマモノや冷凍モノで無ければ、多少の匂いが漏れていても受付はしてくれる。
不特定多数の人々が利用するコンビニを利用したのも、足がつかないと考えたからでは無いだろうか。
「あーそっか! つまりその家政婦さんには、二日分の空白の時間があるから、昨日の金餅さんからの異臭騒ぎの依頼と今日の事件もその家政婦さんの計算だった? そういうこと、モリタカ?」
「はい、その可能性が高いという事です、赤葉さん」
金餅さんが届いた臭い干物が入っていた荷物をどの部屋で開封したのかは、僕にはわからない。
しかし萬屋記録局へ異臭騒ぎの調査と記録を、昨日の夕方に直接依頼してきた点から考えると、換気されて匂いを掻き消す安全な場所で開封した可能性が高く、臭い干物はそれでも匂いが漏れていたと推測できる。
殺めた家政婦さんの計画的で、日常生活で普段利用するサービスも計算に入れたこの犯行は、偶然を装った嗅のトリックをさらにアップデートした計画的な計算で改変された犯行……
日常生活、人の手によるアップデートだとすれば、この犯行の改変は、妄想犯行計画の暴かれる側のプレイヤーの手によるものだと考えるのが自然だ……
『ふっ――ようやく気づいたの、杜鷹?』
『小蒼ちゃん……このトリックは、暴かれる側のプレイヤーによるトリック改変だろ?』
『ふっ――正解。暴かれる側のプレイヤーは、現実世界で妄想犯行計画内の各事件の妄想犯行計画を組む……各事件の妄想犯行計画が完成したら、暴かれる側のプレイヤーの手でステージとして解放される』
『……なるほどね。小蒼ちゃんが言っていた、僕のハッピーエンドの未来の鍵を握っているのが、暴かれる側のプレイヤー……そう言うことだろ?』
『ふっ――杜鷹が今すべきことは……この事件を解決することだけなのを考えなよ』
『言われなくても分かっているさ。現実の五感と僕の1秒と赤葉さんたちの1秒の五感が再現され過ぎていて、頭の中がパニックになってるけどね」
『ふっ――ならいいけど。かつて刻想器だった私とした、ハッピーエンドの未来に変える覚悟の想いの契約、あなたの側で見てるからね、杜鷹……』
妄想犯行計画の暴かれる側は、遊びではなく僕以上の本気で、本気で妄想犯行計画を組んでいる。
フィクションという現実世界の作品内で再現不可能なトリックでも、五感再現された仮想空間なら可能にできるトリックを組めてしまう。
しかし現時点でゲームオーバーになっていないのであれば、現時点での僕の推理は、間違っていない……そう判断してもいいだろう。
僕が今、体験しているこの仮想空間の出来事は、もう一つの非現実の現実の出来事で、暴かれる側のトリックを暴くことが、今の僕にできる選択は、未来を掴んでいくことだ。
「モリタカ……大丈夫?」
「どうした、モリサキ?」
「モリタカ君、どうしたの?」
――ぼーっとしてしまっていた……
「ああ……すみません、大丈夫です。つまりですね……その家政婦さんが、臭い干物が入った荷物を時間指定で発送した事。異臭騒ぎを金餅さんが、萬屋記録局に調査と記録を依頼した事。そして今朝、オープンキッチンで干物を焼いた事。これらの点を偶然を装う計算を行い、一本の線として繋げて実行した犯行、ということです」
これが、家政婦さんが計算した妄想犯行計画の一本の線だったのだ……
「なるほどね……でもまだモリタカ君は、K.S換気システムの網膜登録認証ログのリストにあった、『K.N 202X:01:0X:20:30』の意味を説明していないわよ」
「はい、K.S換気システムの網膜登録認証ログについてですね、八色さん」
「そう。あのイニシャルを私なら北宮さんのイニシャルとして考える……でも殺めた家政婦が計算して操作した結果、登録されたログだとしたら、話は別になってくるわよね?」
「はい、あれは、日本語圏イニシャルではなく、英語圏のイニシャルで登録されてしまう仕様でした。これが、その根拠です」
僕が白いスマホのカメラ機能を使用して、K.S換気システム制御室内で撮影した写真を3人へ見せた。
「なるほどね、これが何か説明してくれるかしら、モリタカ君」
「はい、この写真は僕が先程、K.S換気システム制御室内で管理者ログインをした際に、K.S換気システム側から網膜登録された際のログの写真です」
3人へ見せた僕が撮影した写真は、管理者登録の際に残る網膜登録ログの詳細情報の写真だ。
そこには、僕の名前がMoritaka Morisaki 202X:01:0X:17:30という英語圏のイニシャルで網膜登録されていることを確認し、その画面を僕は白いスマホで、すかさず撮影した。
「英語圏のイニシャル……これだけでは、K.Nの説明にはなっていないわよ、モリタカ君」
「そうですね……ではこの写真を見ていただけますか、八色さん」
僕は次に撮影した写真を3人へ見せた。
「いいですか? このK.N 202X:01:0X:20:30という名前の写真の後の網膜登録ログ詳細情報に書かれている名前は、Karin Nishizakaという名前の方です。金餅邸に勤める家政婦さんの中で、西坂という苗字の方は1人しかいないのではないですか、八色さん?」
「そうね。明堂君、西坂という家政婦さんの下の名前は何だったかしら?」
「花鈴です。花に鈴と書いて、花鈴。西坂花鈴です、八色警視」
「だそうよ、モリタカ君。でも何故、君の名前と西坂さんの名前が網膜登録されたのかしら?」
「それはですね――」
僕が網膜登録ログ詳細情報を閉じた後、次に見た画面は、K.S換気システムの管理者兼所有者のみが設定できるセキュリティ設定だ。
所有者ではない僕が設定を操作する事は、セキリュティによって出来なかったが、設定状況だけは確認する事ができた。
設定状況から判明した事は、金餅さん自体が所有者兼管理者として網膜登録をしており、万が一金餅さん以外の人間が、管理者権限でログインを実行した場合の対抗策として、セキュリティ網膜登録モードを実行する様にセキリュティ設定がされていた。
セキリュティ網膜登録モードによって、自動的に網膜登録をされるK.S換気システムは、今の時代の現実世界では、再現不可能な仕様であった。
――金餅さん……命の命綱である管理ログインの管理者IDとパスワードを口癖にしてまうなんて……危険だよ。
「なるほどね。セキュリティ網膜登録モードによる自動網膜登録……では、あの時刻、西坂さんは金餅邸にいたの?」
「そう言う事になります、八色さん」
「分かったわ。明堂くん、西坂さんのアリバイは?」
「はい、萬屋警視。ホシは、その時間、自宅にいたそうです……隣人の証言もありました」
「隣人の証言ですか?」
「ああ、そうだ、隣人の証言はある。同じことを繰り返しているようで、繰り返してないないような声だったみたいでな、警察へ通報しようか迷ったらしいが……後々、隣人トラブルになるのも嫌だからやめたらしいんだがな」
「明堂さん、ありがとうございます! それですよ、西坂さんのアリバイ工作は!」
「ホシのアリバイ工作? まだ俺は最後まで、話をしてねぇぞ!」
――やばっ、キレた…………
「すみません、明堂さん…………ちなみになんですが、西坂さんが住んでいるアパート付近のゴミステーションは調べましたか?」
「ああぁ? ……調べさせた結果、他のゴミと一緒に混ぜられた、空データのスマホが、ゴミステーションから見つかったと報告があったが、復元には時間がかかるそうだ……ん?」
プルル! プルル!
「こちら、明堂。……分かった、ありがとな。……ふぅ、モリサキ、解析班からの報告が来た」
「明堂さん、解説班の方は何と?」
「スマホから復元されたデータの中に、ホシが男と言い争いする音声データが入っていたそうだ……つまりなんだ……モリサキ、お前は何者なんだ?」
「明堂さん、森咲 杜鷹である僕は、ただの萬屋記録局の勤務しているただの一般人ですよ」
「はぁ、んな訳ねぇだろ!」
明堂さんがキレる様に返してきたが、今の僕は、ほこやぎ町在住、萬屋記録局に勤務する一般人。
そして仮想の五感探偵の森咲 杜鷹なのだ!
14話 第1の妄想犯行 その8(推理篇②)完。
15話 第1の妄想犯行 その9へつづく!




