8話 第1の妄想犯行 その2(事件発生篇)
第1の妄想犯行 その2(事件発生篇)
【202X 1月X日 AM09:00】
【仮想空間ほこやぎ町 金餅邸付近】
【残解決時間 166時間 】
金餅さんから依頼された異臭騒ぎの調査をするため、赤葉さんと僕は、ほこやぎ町の駅からバスを使い、金餅邸周辺にいた。
バス停から金餅邸へ向かう道中、赤葉さんが僕に話しかけてきた。
「いい? モリタカ。くれぐれも粗相のないようにね? キミはこの町に来て、まだまもない。私と最初に出会った時みたいに、『うぉおおお……萬屋赤葉だ! ホンモノだあぁぁ!』って叫ばないでよ。あと私に本物とか偽物とか絶対にないからやめてね…………あの時、なんで私の名前を知ってたのか知らないけど、あの時のモリタカはかなりやばい変質者だったよ」
【仮想空間内数日前】
小蒼ちゃんの導きで、ほこやぎ町でチュートリアルの事件に挑んでいた僕は、チュートリアルらしい軽微な事件をなんとかクリアして、ステージクリアの条件を感覚で覚えていた。
勘で犯人を暴くというのは絶対にダメなやり方で、ちゃんと犯人を暴くまでの過程を考えないと、ゲームオーバーになってしまう本格的な推理ゲームだった。
ある日のチュートリアルの事件を解決した後の帰り道、ログアウトする為に安全な場所を探していた僕に背後から声をかけてきたのは、聞き覚えのある女性の声の主だった。
「キミの推理、面白いね」
「えっ?何が?」
「本気って言うのかな……いや覚悟の推理かな?」
背後から突然話しかけてきた、赤毛の眼鏡をかけた少女、僕はこの女の子の正体を知っている。
――や、やばい、こ、この人は!
「うぉおおお……萬屋赤葉だ! ホンモノだあぁぁ!」
創作上のキャラクターであったはずのホンモノの萬屋赤葉を見てしまった僕は、周囲に多くの人々が行き交うスクランブル交差点の信号機の前で、興奮のあまり、つい大声を出してしまった。
――あっ……ついやってしまった……
「おいキミ! いきなり大声出すなって! 恥ずかしいだろ! まったく……とりあえずこっち来て!」
萬屋さんに服を引っ張られた僕は、スクランブル交差点付近のとあるビルの中に連れて行かれた。
それが萬屋赤葉との出会い、そして連れて行かれたビルの中にあった事務所こそ萬屋記録局で、ゲームでよくある拠点だった。
そして現在。
僕たちは今、ほこやぎ町郊外に住む依頼人、金餅 良緒さんの邸宅前に来ている。
言葉ではなかなか言い表せないけれど、少しだけ広大な土地に聳え立つ、豪華な邸宅なイメージだ……
――金餅良緒か……柊先生の赤葉の世界では、金岳もつ照という名前の資産家の初老の老人だったな。
「いい? 金餅さんから、昨日邸宅内で発生した異臭騒ぎの依頼が、昨日の夕方に急遽来たから、私たちは今日来てるの、本当に気をつけてよね! 聞いてるのモリタカ?」
この世界の赤葉さんも、ほこやぎ町で起きる様々なトラブルを調査、記録する町の記録人だ。
しかし赤葉の世界と違うのは、フリーターではなく萬屋記録局の局長という点である。
――赤葉にこんなイメージを僕は、持っていないんだけどな……
「はい、分かりましたよ、萬屋さん」
「よろしい! じゃあモリタカ、ほら、ベル鳴らして」
赤葉さんの指示で、邸宅の前に構える重厚な扉に備えつけられているベルを僕は鳴らした。
ピンポーン! ピンポーン!
ベルを鳴らしてしばらく待っていると、重厚な扉を開いた向こう側から初老の女性が現れた。
「はい、金餅ですが……どちら様?」
「萬屋記録局から参りました、萬屋赤葉と申します。こちらは……ほら、挨拶」
「萬屋記録局に先日、入局いたしました。森咲杜鷹と申します、よろしくお願いします」
「萬屋記録局の方? はいはい、旦那様からは、お話しはお伺いしておりますよ。さあさあ、お寒いですから、早く中へどうぞ」
おそらく家政婦さんっぽい女性の案内で、僕と赤葉さんは金餅邸の門から邸内に向かっていた。
邸内前入口に到着して、初老の家政婦さんと一緒に邸内へ僕たちが入ろうとした際、すれ違う様に2人の家政婦が、飛び出すように出て行ってしまった。
「全く、どうしたのかしら? しょうがないわねぇ」
困惑した表現であった初老の家政婦さんだったが、すぐに帰ってくるだろうと金餅さんがいる書斎室への案内を続けた。
――ん? なんか匂う? 気のせいか……
邸内を案内されながら赤葉さんと僕は、邸内のある設備に驚愕した。
それは赤葉の世界、いや現実世界にあるかどうかも分からない、そんな設備だった。
「へぇーさすが資産家だけあるね。何、この換気設備? こんな未来にありそうな設備、見たことないんだけど!」
目をキラキラさせながら赤葉さんが見ているそれは、K.S換気システムと書かれた換気設備だった。
小蒼ちゃん……またやったね、こんな分かりやすい名前の換気システムを設置した設定にしたら、『どうぞ、調べてください!』って言ってるようなモノだよ……
『ふっ――モリタカは、すぐにそうやって簡単に考える、簡単に考えない方がいいよ』
僕が携帯している仮想空間内のコントローラーである白いスマホから小蒼ちゃんの声が聞こえてきた。
「ん? 今、何か言った、モリタカ?」
「いや、別に何も言ってませんよ……」
「ふうん、でもキミが自分のスマホと時々、会話してるのを私は見るけどね」
――そうか、僕が持っているこの白いスマホは、仮想空間内の住人である赤葉さんにも見えるのか? だから小蒼ちゃんの声も聞こえる。
この仮想空間に来た時、小蒼ちゃんがスワイプとピンチアウトの事を言っていたけどこういう意味だったのか……
「……まあいいや。キミ、なんか訳アリみたいだしさ、私の仕事を手伝う代わりにキミは、私の記録局に寝泊まりしていい約束だし、でも寝過ぎは体によくないからね」
「ありがとうございます……萬屋さん」
「いいよ、お礼なんて、なんか調子狂うな……」
案内を続ける初老の家政婦の後についていく僕たちは、ようやく金餅さんの書斎室に到着した。
「旦那様! 旦那様! 萬屋記録局のお二人が見えましたよ! 旦那様…………キャアアアアー!」
「えっ? 何? どうしましたか? …………モリタカ! 警察と救急車、はやく!」
――僕は今、何を見ているんだ…………仮想空間のはずなのに、目の前の僕の視界には、初老の老人が書斎室の机の付近に倒れている光景を映し出されている……しかも萬屋赤葉の事件帳、第1話を忠実に再現しているようにも見えるこの光景は、衝撃的すぎる……
「たくっ、モリタカ! はやく! 何してんのよ!」
「はい! 警察は…………」
警察に通報後、すぐに到着したほこやぎ警察により、金餅邸はすぐさま規制線が貼られ、金餅さんもその後、到着した救急隊によって病院に搬送された……
【3時間後……残解決時間163時間】
「モリタカ? 少しは落ちついた?」
「……はい……人が目の前で倒れる光景を今まで見たことなかったから……少しパニックになってしまいましたが、でも……もう大丈夫です」
――もう何が本当なのか? 理解が追いつかない……
「……はぁ、なんで私が行く行くとこ! こんな事件が起きるのよ! またあの脳筋ハゲからガミガミ言われるじゃん!」
――多分、赤葉さん自体が主人公だからだと思う……
「おい、赤毛のフリ探がよぉ、誰が脳筋ハゲだって?」
スーツを着てサングラスをかけたスキンヘッドの男が、赤葉さんの背後に少しずつ迫っていく。
そのスキンヘッドの男は、筋骨隆々で、僕も知っているホンモノの萬屋赤葉の相棒の刑事だった。
「おい! また、お前らか! 一般人が現場に入るな! おい誰か、コイツらを早くつまみだせ!」
――推理作品によくある、事件に巻き込まれた一般人の主人公が、相棒になる刑事に怒られるやつだ。
「ごめんって! 今日はたまたまこの家の被害者から調査依頼があったから来ただけだってば! ねえ、モリタカ?」
「そ……そうなんです! 僕と赤葉さんは、金餅さんから調査依頼があって、来ただけなんです! 信じてくださいよ、明堂さん!」
明堂真は、ほこやぎ警察署に勤務する刑事課の刑事で、年齢は45歳で階級は警部、この人の頭の中の構造をひと言で例えるなら……脳筋。
推理モノやトリックモノに登場する相棒刑事のよくある設定を象徴した存在、それが明堂刑事だ。
――スキンヘッドに色付き眼鏡は……本当に警察官なのか? と目の前で見ると余計に思ってしまうな。
「……ったくよ、事件をお前らが解決しちまうと上に報告する時に色々面倒なんだよ」
明堂が面倒くさがるのは、一般人である僕らが介入すると、明堂さんの仕事も増えるし、警察の完全な手柄とは、いかなくなるからだ。
「とはいえ……第一発見者の1人なのは確かだ、赤毛のフリ探とあとそこの…………えっと、モリサキだっけ? お前さんたちの力、貸してもらうぞ」
僕達は明堂警部と一緒に書斎室へ戻ってきた。
ここが1人の命の灯火を消されようとしていた現場である事を僕はまだ実感できてはいないが、人が人を殺めようとする事は、どんな理由があろうと、例え仮想空間内であっても許されてはいけない!
だから僕は、このトリックを行った人間を絶対に暴く! ハッピーエンドの未来を僕が掴むために!
『ニャーン!』
――あれ、なんで書斎室に猫がいるんだ?
【残解決時間 162時間】
8話 第1の妄想犯行 その2 (調査開始篇) 完。
9話 第1の妄想犯行 その3へつづく!
2026年3月13日(金)、残解決時間の改訂を行いました。




