「裏切り者の対話」
深夜、情報部の地下通路を抜けた小部屋で、エリオットはナッシュと対面していた。
石壁に囲まれたその空間には椅子がふたつ、そして古いランプの明かりがひとつ。
椅子に座ったナッシュは、目の前の男――エリオットの顔を見て、どこか迷いの表情を浮かべていた。
「ノイシュタット様……これは、何かの誤解です。僕は、ただ国の――」
「その“ただ”が、国を滅ぼすんだよ」
エリオットの声は淡々としていた。怒りも、責める色もない。ただ、冷たい事実を並べていくような響き。
「君は、独断で接触した。組織の規律を破った。しかも、王家に連なる者に《影の手》の存在を匂わせた。……これは、もはや判断ではない。判断の“終わり”だ」
ナッシュが肩を震わせた。
「ですが……彼女は、使えると判断しました。あのまま王家が――」
「君は“使える”かどうかで、命を測った。だが、我々が測るのは、秩序に対する“脅威”だけだ」
エリオットは席を立ち、部屋の隅にある小さな棚から封筒を取り出す。中には、既に用意された“処理報告書”が入っていた。
その場で封を切り、中身を見せる。
「君は、今日をもって《影の手》を除籍される。戸籍上も死亡扱いとなり、すべての記録が抹消される」
ナッシュの顔が青ざめる。
「……処分、ですか……?」
エリオットはその問いに、わずかに眉を寄せた。
「違う。“排除”だ」
そして、小さな短剣が静かに机の上に置かれる。
「これは形式だ。選びたければ、手に取ってもいい。……ただ、誰に見られるわけでもない。演出も、名誉もない。これは、国家のための死だ」
ナッシュは、何も言えなかった。
ただ、目を伏せ、机の上の刃を見つめた。
そして、静かに手を伸ばした。




