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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第16章 ブルースター ── 幸福な愛、信じ合う心
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第96話「産まれてくれて、ありがとう」

春の終わり。いよいよその日が訪れた。

結衣は痛みと闘いながらも、強く優しい母の顔を見せる。

涼也は彼女のそばでただ祈り、訪れる新しい命の誕生に胸を震わせていた。

夜が深まるにつれて、結衣の陣痛は どんどん強くなっていった。

涼也は震える手で結衣の手を握りしめ、できる限りの声で励ます。


「結衣ちゃん、もうすぐだよ。絶対に大丈夫。俺がそばにいるから」


「涼ちゃん……もう……これ以上続いたらどうしようって、怖くなっちゃう……」


涼也は、その言葉にぎゅっと手を握り返し、優しく言った。


「怖くても、一人じゃない。結衣ちゃんと赤ちゃんのために、俺は ここにいる」


やがて──


病室に、小さな命の産声が響いた。


「おぎゃあ、おぎゃあ──」


その瞬間、涼也の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「結衣ちゃん、よく頑張った……ありがとう」


結衣は疲れた体を横たえながら、震える手で赤ちゃんをそっと抱き寄せた。

小さな小さな手が、彼女の指をぎゅっと握り返す。


「かわいいね……涼ちゃん、これが私たちの赤ちゃんだよ」


「これから三人で歩いていこう。どんなことがあっても、ずっと一緒に」



──そして、翌朝。


窓の外には春のやわらかな光が差し込んでいた。

ベッドのそばで、涼也が少し緊張した面持ちで言葉を切り出す。


「ねぇ、結衣ちゃん。名前……決めてもいい?」


「えっ?」


「“りつ”っていう名前、どうかな。

顔を見たときに、ふと浮かんだんだ。落ち着いてて、でも芯が通ってて……そんな感じがした」

昨日までいろんな名前を考えていたのに、不思議と、この子の顔を見たら自然に“律”という響きが胸に残った。


結衣は、びっくりしたように赤ちゃんの顔をのぞき込む。


「律……うん。すごく、ぴったりな気がする。まっすぐで、芯があって、でも やさしくて……」


「俺たちの気持ち、そのまま込められると思ったんだ」


「うん、呼びたい。……りっくんって、呼ばせて?」


結衣がそっと、赤ちゃんの小さなほっぺに顔を寄せた。


「りっくん、よろしくね。私たちの大事な、大事な宝物」


その瞬間、律がふにゃっと笑ったように見えて、ふたりの胸にあたたかい何かが広がった。


涼也は少し照れたように笑って、結衣の呼び方に耳を傾ける。


「……なんか、いいね。結衣ちゃんの『りっくん』って呼び方、やわらかくて」


「うん。なんだかね……“涼ちゃん”って呼ぶのと、同じ感覚かも」


「え?」


「律って名前、大好きなんだけど……この子にぴったりな“あだ名”みたいに呼びたくなっちゃうの。“りっくん”って、あったかくて、愛しくて……つい、口から出ちゃうの」


涼也は、ゆっくり頷いた。


「……そっか。そういうの、すごくいいね」



──その日の午後。


助産師さんに促されて、結衣は少し照れながら母子手帳を開いた。

「名前……書いてもいいですか?」


「もちろん。律くん、ですね。素敵なお名前ですね」


結衣は「りっくん」と口にしながら、律の名前をゆっくりとペンで記す。

手元がほんの少し震えるのは、きっと嬉しさと誇らしさのせいだ。


そして数日後、二人は揃って区役所に足を運ぶ。

出生届の提出窓口で、律の名前が正式に登録されるその瞬間──

涼也がそっと結衣の手を握った。


「今日から“律”って名前が、この子の人生にずっと寄り添ってくれるんだね」


「うん。大事に、大事に……この名前と一緒に育ってほしいね」


やさしい光と、小さな未来が、そっと差し込んでいた。

家族三人の物語は、今、静かに始まったばかり。

お忙しい中、今日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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