表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カフェ『Monday』は今日も完璧じゃない  作者: 293
第2章 太陽の咲く島
17/19

第15話 今日は観光しました

「着いた、ビスカ諸島!」


どこまでも青い波のきらめきが、刺すように目に飛び込んできた。

潮騒の音が耳の奥に残り、風がやわらかく頬を撫でる。

白い石畳は熱を溜め込んで、足裏にじんわりと返してくる。

ほんのり塩の匂いが混ざった風の先には、白い家々が丘の向こうまで連なっていた。


「眩しい…日差しが強いな」

「壁が白いから、反射するよね。頭の花、しおれちゃわない?」

「平気だ。むしろ調子がいい。花人にはうってつけの場所だからね」


そう言ってリストくんは頭の花を軽く整えた。花弁が日に透けて、紫色に煌めいている。

確かに、現地民っぽい花人がたくさんいる。家の前にも、色とりどりの花が咲き乱れていてきれいだ。

とりあえず、まずは観光案内所に向かった。

扉をくぐると、日焼けしたお姉さんが訛った口調で話しかけてきてくれた。


「コンニチハ〜!アラ、カップルでご旅行デスカ〜?」

「カッ…!?ち、違う!まだ…」


リストくんの声が一瞬裏返った。わたしも慌てて否定する。


「そ、そうです!仕事の同僚です!」


…リストくん、今「まだ」って言った?

お姉さんは愉快そうにニコニコして、「そうデスカそうデスカ」と頷いている。恥ずかしい。

まずは宿屋を取らないとね。予算内におさまって、なおかつご飯のおいしいところ。

さすが現地の人というか、条件にぴったりの穴場を紹介してくれた。


「ちょっと場所がわかりにくいカラ、あとでスタッフが送っていきマス」

「あ、そうだ。現地ガイドも探してるんだが」

「リストくん、ガイドさん頼むの?」

「ああ。自分たちだけで行くと舐められて吹っかけられるからね、現地の人がついて行ったほうが絶対にいいんだ」


なるほど…海外旅行に行く時もそんな感じらしいし、どこの世界も同じなんだね。

この世界に来てから優しい人達しか見てこなかったから、急に気分が引き締まった。


「ふ〜ん…なら、ワタシがついて行っちゃおうカナ」

「所長、またデスカ〜…?」


後ろで若い女の人が呆れた感じでツッコミを入れた。所長さんだったんだ、この人。

お姉さんは楽しそうに「だって気になるジャン〜」と笑っている。いつもこうなんだろうな。

やがてお姉さんは自分で書いた書類に自分で許可印を押し、わたしたちのガイドとして着いてくることになった。


「じゃあ行こっカ!ワタシはリアナ、ちょっとの間よろしくネ」

「えーっと…よろしくお願いします」

「よろしく頼む」


差し出された小麦色の手を、思わず握り返した。

リアナさんはにっこり笑い、案内所の扉を開けてくれた。

そうして、まずは宿屋に荷物を置きに行くことにした。リアナさんが先導してくれる。


「お仕事の同僚って言ってたヨネ。何やってるノ?」

「ウィストのカフェで働いてるんです。わたしが転生者で…」

「ヘェ、コーヒー好きナンダ。この島はコーヒー栽培も盛んダヨ」

「コーヒー畑、見れたりするか?」

「イイヨ〜。話通しておくネ」


和やかに話しながら歩いていくと、白い路地を抜けた先に、宿屋らしき小さめの建物があった。

中に入ると、人の良さそうな鳥人さんが出迎えてくれる。


「ヤッホーおばちゃん、2人分空いてル?」

「空いてるヨォ。アタシゃ梟だけど、ここは閑古鳥が鳴いてるヨ」


わたしたちは宿帳に名前を書いて、荷物を預けた。

身軽になったところで、市場を見に行く。案内されてついて行くと、少しずつ賑わう声が聞こえてきた。

市場は地元の人や観光客で大賑わいだ。ウィストでは見ないような果物や工芸品がたくさん売られている。

ほんのりスパイスのような香りが漂ってきて、ここが別の町だということを改めて感じる。

リアナさんが「あっちにいいもの売ってるヨ」と言うのでついていく。リストくんが「高いものを買わされたらどうしよう」と小さな声で言った。

幸運なことにそんなことはなく、揚げパンのようなものを売っている屋台に案内された。


「せっかくだし奢るヨ」

「え!?そんな、悪いですよ!」

「イイノイイノ。次からは自分で買ってネ」


リストくんと顔を見合わせて、リアナさんにお礼を言った。

揚げパンをかじると、レモンの酸味がふわっと香る。どうやら果汁がかけてあるみたいだ。

あとから砂糖と生地の甘みがやってきて、やさしい後味が広がった。

リストくんが几帳面に一口ずつ口の周りを拭いながら食べている。気にしすぎな気もするけど、そこがリストくんらしい。


「地元の人もおやつによく食べるんダヨ。ほら値段見てミテ」

「え?…おお、めちゃくちゃ安いな」


そこそこの大きさがあったのに、ひとつ1Gだった。紅茶よりも安い。

なんでこんなに安いんだろう…もしかして、現地で育てた小麦を使ってるとか?


「おっ、鋭いネ。その通り、ダカラ輸送費とかがほぼゼロ。原価に近い値段で売れるノヨ」

「なるほどな…」


リアナさんが胸を張ると、納得したようにリストくんが顎に手を当てた。

店長なら「うちでも何か育てようか」とか冗談言いそうだ。想像して苦笑すると、リアナさんは不思議そうに首を傾げた。

そうこうしていると、また揚げたての甘い匂いが漂ってきた。匂いにつられて子供たちが集まってきたので、ちょっと脇に寄っておく。

食べ終わったあと、今度は工芸品を見る。陶器でできたお皿や小物が売っていた。


「このティーカップ、かわいい。自分用に買おうかな」

「初日にお土産かい?荷物が増えてしまうよ」

「え〜、でも今買わないと売り切れちゃうかもよ」


そんなわたしたちの会話を、リアナさんは微笑ましそうに眺めていた。

「若いっていいネェ」と言っているのが聞こえた。リアナさんも若いでしょ、たぶん。

そうして市場を満喫したわたしたちは、お昼ごはんを食べに移動しはじめる。

…リアナさんに見えないところで、こっそりリストくんの手を握った。

リストくんは驚いたようにこっちを向いたけど、やがて耳を真っ赤に染めたままうつむいた。

わたし、なんでこんなことしたんだろう。分からないけど、少し暑いのはきっと日差しが強いからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ