#19
裕也は違和感のようなモノを感じていた。
「由香ちゃん、ちょっと元気過ぎるよね」
思わず言ってしまう程に。
学校で見る桜井由香はけして暗い性格ではないが、おしとやかとか、純情を絵に描いたような女の子のイメージがあったし、大きな声で話す事が既に初めて見る一面だった。
男子と会話するのも珍しく、桜井由香から裕也への用事は友達を介した伝言で知る事のが多かった。
それはやはり恥じらいであり、直接話す事でクラスメイトからの冷やかしを避けての行動だと裕也は認識している。何故ならば二人きりの時は普通に話すし、すぐ照れるしよく笑う。
むしろそういう小さな仕草と行動が、お互いに好感を持っているとばかり思わせた。勝算があると感じたからこその告白の手紙だったのだから。
「え?そう?そんな事ないよ。だって裕也くんが来てくれるなんて思ってなかったもの。だからだよ」
いつになく饒舌だと感じるのだが、裕也はこういう知らない由香の一面も新鮮で嬉しかった。
「夢の中では自分の抑制が効かなくなる人も多いですからね。彼女もそうなのでしょう」
白兎がベッドから降りてきて裕也に言った。
「え?夢の中?これ夢なの?」
由香はベッドの中で大きな瞳を丸くする。
「今、ミス・ユカ…あなたの夢にお邪魔させていただいてます」
「えーウソ、じゃあ起きたら覚めちゃうの?もったいなぁい」
由香はハートの毛布を剥ぎ取るとベッドから飛び出した。ピンク色のパジャマは小さなハートがいっぱいだ。
袖口から白い肌を覗かせながら腕を伸ばし、裕也の右腕にしがみつく。
困惑する少年。
「ちょっと、どうしたの!?」
「触っておかないとソンじゃない」
当然のように返す由香。
裕也にはもうひとつの疑問が湧き上がった。
「僕、年賀状でごめんなさいって言われたよね?キライなんじゃないの?」
好きだと言った返事がごめんなさいなのに、すぐにキライと解釈してしまうのは若い思春期の万国共通なのだろうか。
由香は少しムッとして応えた。
「キライなわけないじゃない、いきなりあんな事言われてすっごく悩んだんだから。何て返事していいか解らなかったのよ」
すぐ近くで由香の顔が裕也を見つめていた。唇がツンとなって尚も言葉を紡ぐ。
「むしろ好きよ。大好き」
裕也は硬直しながら紅潮した。
本当ならば飛び上がって喜びたいのだが、腕を掴まれていたり、すぐ近くに由香の顔があったり、大変な事を告白されたり、一度に起きすぎて頭が全て処理出来ないで居た。
クレイバーは突如部屋の天井を見上げた。
由香の部屋の天井の辺り、空間を見つめて目を凝らす。
部屋の至る所から軋むような音が聞こえる。それは裕也にも由香にも聞こえない程に微かだが、クレイバーの聴力は確実にそれを感知した。
「ミスターユウヤ、急いでここを離れないとマズイです」
白兎が緊張した声で告げると、由香は裕也を掴む手に力を込めた。
「ダメよ!まだ行かないで!」
……ピシッ
今度は裕也の耳にも届いた。木がひび割れるような、不快音だ。




