第9話 トムトムダンジョンの悪夢
俺はトムトムダンジョンまでの道を、飲酒をしながら時速120kmでひた走った。
奇跡的に、一度も信号につかまらなかった。
……いや、正確には、赤信号でも突っ切ったのだ。
なにせ、トムトムダンジョンに行くには、それくらいの覚悟が必要だった。
ダンジョンの入り口に足を踏み入れた瞬間
「つかーん!」
突如、トムゴキブリの奇襲を受けた。
俺は即座に対応する。
「ブゥ!!」
轟音とともに、トムゴキブリは100m先の壁まで吹き飛んだ。
もう俺は、一年前の俺じゃない。こんな雑魚にかまっている暇はない――。
「ブー、ブー、ブー!」
おならの推進力を利用して、
俺の身体は、風のように宙を駆けた。
そのときだった。
「しまさー!」
懐かしい声が聞こえた。
この声……トクマル?
「近づいてはダメ!」
聞き慣れない女性の声が、警告のように響いた。
だが俺は、迷わず近づく。
「ブー、ブー、ブー」
そして、目にした。
トクマルの顔の、半分が腐っていた。
「なんで、こんなことに…」
言葉を失っていたその瞬間、トクマルの口から粘液が飛んできた!
「うわーっ!」
とっさに移動おならで回避する。
「間に合ってよかったわ」
さっきの女性が姿を現す。
「残念だけど…あなたのお友達は、もう助からない。
トムスライムに寄生されているわ。脳を乗っ取ったあと、『助けて』と叫び、
助けに来た者にも寄生する。それが、やつらのやり方よ」
「そ、そんな…」
「トクマル、嘘だろ…?」
お前は、俺の唯一の友だった。
こんな偏屈な俺に、最後まで付き合ってくれたのは…お前だけだったのに。
「お友達のためにも…楽にしてあげて」
俺は、目を閉じた。
「トクマル、ごめんな…」
「ブゥ!」
トクマルの首が吹き飛び、静かに倒れた。
こんなにも悲しいおならを放ったのは、初めてだった。
冒険に胸を躍らせていた気持ちが、一瞬にして吹き飛んだ。
これは――戦争だ。
俺は、その現実を、愚かにも忘れていたのだった。




