殺すはずだったあなたとのドライブ
アイリと出会ってから、しまさはまるで水を得た魚のように活力を取り戻していた。
肌は脂ぎり、身体にはすさまじいエネルギーが宿っていた。
毎晩、彼はアイリにLINEを送った。
「お前のことを愛してしまった」
「いつでもお前の味方だ」
「俺とお前は鏡合わせだ」
アイリは
「素敵❤」
「頼りになるわー」
と返すものの、心の中ではこうつぶやいていた。
うわ、キモいおじさん。
次の土曜日、しまさから「デートしないか?」と誘いがきた、
やっとしまさを暗殺できるという期待感を抑えて、
「もちろんです❤」
とすかさず返信をした。
土曜日。待ち合わせの12時30分より10分も早く、
しまさは黒いベントレーで現れた。
しまさのベントレーを見て、「よろしくお願いします」と媚びるように乗り込むアイリ。
レザーシートから立ち上るタバコと加齢臭の入り混じった匂いに、
思わず吐き気がこみ上げる。
横を見ると、しまさの脂ぎった頬がテカテカと輝いていた。
「寒いか?」
そう言って、しまさは自分の首にかけていたタオルを
アイリの首にかけてやる。
「これで寒くないだろう」
にっこり笑う彼。
だが、そのタオルからはぞうきんの匂いがした。
「今日は長浜までドライブしよう」
そう言ってハンドルを握るしまさの顔には、
自分がこの日暗殺されるなどとは微塵も思っていない無邪気さがあった。
高速道路を時速120kmで走行中、突然、タイヤがスリップした。
しまさは慌てず、車を巧みに操りながら左端へ寄せる。
車体は3回転半し、「キィーーーッ」という音とともに停止。
外へ出てタイヤを確認したしまさは、
低くつぶやいた。
「…銃弾だ。タイヤが撃ち抜かれている」
アイリの胸に怒りがこみ上げる。
同じ組織のくせに、私まで巻き込むなんて!
その瞬間、黒塗りのワンボックスカーが近づき、
後部座席の窓が開いた。
数十発の弾丸が、しまさ目がけて放たれる。
だが――。
しまさの少林寺拳法で鍛えた肉体には、銃弾は効かなかった。
代わりに、彼の体から別の何かが漏れた。
「少林寺拳法は無敵だな」
そう言って笑うしまさの顔は、どこか誇らしげだった。
「アイリ、俺の背中につかまれ!」
言われるままに飛び乗るアイリ。
彼の背中は、驚くほど頼もしく、そして温かかった。
「飛ばすぜ……『移動おなら』!!」
ブーッ! ブーッ! ブーーーッ!!
爆音とともに車は突風のように走り抜け、
二人はNロイヤルホテルへとたどり着いた。
その夜。
アイリはついに、すべてを打ち明けようとしていた。
・自分が属する組織のこと。
・そして、しまさを守りたいと思ってしまったことを。
だがそのとき、まだアイリは知らなかった。
この夜が、二人の運命を大きく変えることになることを。




