第19話 しまさ、恋に落ちる
夜の帰り道、結婚相談所の疲れがまだ胸に残る頃、しまさはふらりと居酒屋に寄った。
ビールを三杯あおって気分がほぐれたところで、いつもの癖が出た。
家の前で立ちション。そのとき、はっとする声がした。
「何やってるの!?」
振り向くと、金髪に青い瞳、背の高い女性が立っていた。身長は170センチほど。
しまさは、その瞳を見て、かつてのメアリの瞳をふと思い出した。
「お嬢さん、お名前は?」
「アイリです」
会話の合間も、しまさのおしっこは止まらない。
酒のせいか、言葉は滑らかで、態度は大胆だった。
「今から俺のベントレーでドライブでも行くか?」
「えっ、なにそれ!?いいよ。どこ連れてってくれるの?」
しまさは、胸の内に小さな期待を感じた。お見合いの形式張った出会いより、
こうした偶然の出会いのほうがずっといい。そう思ったのだ。
「俺が西の街を案内してやるよ」
どや顔でそう言うと、ヴォーンとベントレーのエンジンが唸った。
轟音にアイリは目を輝かせ、しまさの胸にそっと手を置いた。
「この音、しびれるわ」
「昔、少林寺拳法をやっててな。その名残で胸筋があるんだ」
「なるほど、筋肉質だって思ったわ」
酒の勢いも手伝って、しまさはアクセルを踏み込んだ。
車は猛スピードで夜の街を駆け抜ける。
タイヤが路面を掴みきれず、車体が一瞬滑ったとき、アイリはむしろはしゃいでいた。
「俺と一緒に死んでくれるか?」
「すごいわ―!、今死んだっていいわー」
しかしその瞬間、しまさはふと別の記憶にとらわれる。
トムトムダンジョンで過ごした、メアリとの時間。
胸に走る懐かしい感覚を口にしてしまった。
「この感覚、久しぶりだ」
アイリはキョトンとした表情を見せ、しまさは慌てて顔をそらした。
「いや、何でもない」と照れ隠しにそう言った。
二人はその夜、西の街をはしごした。政治の話、しまさがどうやって成功したか、
未来の夢。アイリの話題はほとんど出ず、しまさは自分のことばかりを語った。
アイリはただ静かに、でも真剣に耳を傾けてくれた。
「とてもいい女だな」
しまさは心のうちでつぶやいた。翌朝、目を覚ますとアイリの姿は消えていた。
テーブルの上には一枚のメモが残されている。
「しまさへ、また遊ぼうね アイリ」
しまさはにっこりと微笑んだ。
(アイリ宅にて)
「しまさ、むかつく男だったわー」
しまさがアイリに恋に落ちる裏で、別の真実が静かに蠢いていた。
アイリは、やよいという人物からしまさを暗殺するよう依頼されていた刺客。
その正体をしまさは知らない。アイリは心の中で毒のような言葉をつぶやく。
「しまさをどうやって殺そうかな」
一方でしまさは、そんなことを知らずにまた会いたいと願っている。
こうして、二人は同じ夜を違う想いで終えた。
表面は甘い邂逅だが、内側には刃と温もりが同居している。
誰にも気づかれぬまま、それぞれが次の一手を思い描きながら眠りについたのだった。




