表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
150/150

123.憧れ

「ジルベールちゃん凄いわよ!今夜も貴女のファンで、会場は庭園まで満員御礼らしいわよ〜!」


 広報部の準備室、アデル・マルティネスのご機嫌な声が、響いた。ノアが、突然やってくるというトラブルに見舞われたものの、衣装合わせに化粧、ダンスレッスンや立ち振る舞いの確認も無事に終わり、後は王都の会場へ出発するだけ───しかし、その段階になって、ジルベールは準備室の隅に、膝を抱えて縮こまっていた。 



「庭園まで満員………」



 私は顔を上げてアデル部長を見た。アデル部長の周りには、同じく準備を終え、最先端のドレス姿となった広報部員の皆が並び、心配そうに私を見ている。


 軍人令嬢ジルベールが出席する軍の夜会は、もはや、イベント会場である。

 メインイベントである、軍人令嬢ジルベールがエスコートをしてくれるダンスは、人気が出過ぎたため、事前の抽選制となっている。アデルの提案により、社交ダンスの経験が無い市民でも応募する事が可能で、経験の無い者が当選した場合、庭園で運営スタッフが簡単なステップを教えてくれ、好きなドレスに着付けて貰える。ジルベールも、ダンス経験の無い者には、短めの専用プログラムでダンスをエスコートするので、誰でも無理なく楽しめる様になっている。もちろん、子どもやお年寄りも対象で、割と優先的にアデルによって当選している。

 ジルベールはその様に集まったファン達と、夜会開始から終了まで、踊りっぱなしだ。ジルベールのダンスは、抽選に外れた者も、誰もが自由に観る事が出来る。ちなみに特等席は有料だが、毎回直ぐに完売している。


 庭園では、昼間の内から、広報部が展開するジルベールブランドの衣装や靴、アクセサリーや化粧品が多様なサイズ展開と共に販売され、かなりの売り上げを誇る。その他にも、ジルベールがイメージモデルを務める、飲食店や食料品店の屋台が、庭園をはみ出して軒を連ね、軍人令嬢ジルベールのファンで無い市民も、お祭り感覚で楽しむ事が出来る。モニカの経営する、ベネット公爵家の屋台も、もちろん出店しており、中々の人気だ。


 そんな中、当の主役は夜会開始間際に、部屋の隅で縮こまっているのである。


「アデル部長……私……やっぱり無理かも………」

「ジルベールちゃん……」


 アデルは、今にも泣き出しそうなジルベールを見て、心配そうにジルベールに歩み寄った。


「だって私……こんなに傷だらけだし。きっと、がっかりされちゃう……」


 どんなに傷を隠しても、無くなる訳じゃない。


 そもそも、私は普段から野盗狩りをしている様な人間だ。今は、何故か少佐に禁止されてて飲みに行けないけど、仕事終わりに酒場に行かない日の方が少ない程で、自分でも思うけど、自制心の効かない俗物だ。欲の塊なのだ。


 上手に化粧で隠して、演技したって……


 見透かされてるに決まってる。


「大丈夫よ、ジルベールちゃん。貴方は誰より努力してきた。傷だらけ?別に良いじゃない。人間味がある方が、素晴らしいわ。芸術って…そういう物だと、私は思うけど?」

「アデル部長………」

 私は、隣にしゃがんで微笑んでくれる、アデル部長を見た。


 人間味がある方が素晴らしい……


 そうだろうか。


 私は、皆に支持してもらえる様な人間なのだろうか。


 いつも、私がダンスをエスコートするファンの皆は、とてもキラキラした表情をしている。



 その姿の方こそ……私の憧れる姿だ───



 私がどんなになりたくても、もうなれない姿。



「だけど私……皆さんに期待される様な人間じゃないのに───」

「ジルベールちゃん、相手が貴女を見て輝いているのなら、自分自身も同じ様に輝いているという事よ。」

「でも……やっぱり私……」

「ジルベールちゃん………」



       ───ガチャッ───



「お疲れ様です、アデル部長。」

「来てくれたのね、リー中尉……」


 リー中尉が、準備室にやって来て、アデル部長は立ち上がるとリー中尉に歩み寄った。中隊の野営訓練が忙しいから、出発前はもう来れないって言ってたのに。アデル部長が呼んだのか───


 リー中尉は、私の方をチラッと見て、アデル部長と私に聞こえない位の小声で何か話している。


「ごめんなさいね、訓練で忙しいのに……ジルベールちゃんが不安定になっちゃって。」

「いえ、構いませんよ。ジルの奴……たまにこうなりますからね。いつもの事です。野営訓練中なので、余計なりやすいのかもしれませんね。」

「あと、広報部員(うちの子達)に聞いたけど、昼間に無愛想少佐が押し掛けて来たんでしょ⁈それもあるかもね…だから、嫌なのよ。デリカシーの欠片(かけら)もない、ガサツな奴は───」

「……無愛想少佐?」



「おい、ジルッ!仕事の時間だ。まだ立てねぇのか⁈」

「……………」─ふるふる……─

 リー中尉が、少し離れた所からそう叫び、私は座り込んだまま、首を横に振った。



「あいつ……わがまま言いやがって……」

「リー中尉、ジルベールちゃんは悪くないわ。急に無理矢理夜会を開いた、私達が悪いのだから。ジルベールちゃん、自分に自信が無くなっちゃってるのよ。もう、リー中尉に久しぶりにアレをやってもらうしか無いと思ってね。」

「そうですね。大体、俺もジルも、泥水(どろみず)の中を這いつくばって生き抜いて来たんです。住んでる世界が違う人間と比較した所で、自信も何も関係無い筈なんですがね。」

 リーはため息をついた。

「リー中尉、そんな事は───」

「これが現実です。貴族令嬢として、社交を学ぶ為に、他の貴族令嬢を手本にする分は良いですが、それは決して自分との比較対象じゃない。ジルが比較しないといけないのは───」



「おいジルッ!」

 また、リー中尉が怒鳴りながら近づいて来た。本当に、うるさいんだから……そんな風に言われても、無理なものは無理だ。

「わがまま言って、また仕事放棄してんじゃねぇぞっ!これを見ろーーーっ!」



       ───バサッ───


「!!」


 リー中尉はそう言いながら、準備室の全面鏡張りの壁に近づき、端に垂れ下がっている紐を引っ張った。すると天井から、大きな写真が降ろされ、鏡張りの壁の前、一面に堂々と垂れ下がった。


 これ─────久しぶりに見た。



「テオドールお兄様………」



 天井から降りて来たのは、巨大なテオドールお兄様の写真だ。私がまだ子どもだった頃、私の為にアデル部長が技術者に依頼して、作ってくれた物だ。私は、お兄様の写真を見た。


 お兄様は、振り向き様に、優しい笑顔を見せている。色の薄い金髪、私と同じ、水色の瞳。

 


 私は───写真のお兄様と、同じ歳になった。



「ジル、テオドール殿は立派な軍人だった。」

 リー中尉が写真を見上げる私に口を開いた。


「お前と同じ、過酷な境遇に居ながら……常に明るく、誰にでも優しい。俺も見せてもらった事があるが、剣の腕は相当なものだった。真摯に軍務に向き合い、不運にも、軍務の中で殉職された。ガルシア家や、妹のお前の事を案じながらな……」

「お兄様……私……私……」


「ジルッ!今のお前はどうだっ!!テオドール殿に顔向け出来るのかっ!!」

「…………う……うえ………ぐすっ……」

「お前がテオドール殿に代わって、ガルシア家を救うんだろ⁈泣いててどうすんだよっ!さっさと立てっ!!」

 ジルベールはごしごしと右手の甲で涙を拭った。


「お前が憧れなきゃいけねぇのは、他の令嬢じゃねぇっ!お前が憧れるのは、お前の兄、テオドール殿だろおおおぉ!」

「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ───」




────────────



「国民の皆様、本日はリソー国軍の夜会にようこそおいで下さいましたーーっ!そして…お待たせ致しましたっ!リソー国軍第一師団特科連隊情報中隊、ジルベール・ガルシア軍曹と広報部一同です───」


 ジルベール・ガルシアが優雅に手を振りながら、優しい微笑みと共にメインホールの大階段から降りてくる。その隣には、ゴールドの衣装に身を包んだ、アデル・マルティネスが寄り添う様に立ち、同じく会場に集まる全員に微笑みを向ける。そして2人の左右には、広報部員達も並び、華やかな笑顔を振りまいていた。



「キャアアアアアア!ジルベール様よーっ!素敵ーっ!今絶対目が合った!!」

「私、今回ダンス当選したのーっ!」

「アデル部長よーっ!!ちょっと金色過ぎない⁈」

「ねー、広報部の人達のドレス可愛いーっ!物販で売ってるのかな⁈」


 こうして夜会二日目が、盛大に幕を開けた。

お読み頂き、ありがとうございます。

不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


続きが気になる!と思って頂けましたら、

評価等で応援して頂けると、とても励みになります!

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ