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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
149/150

122.負けない親心

 リソー国軍主催の夜会、2日目の昼。ジルベールは、食堂で補佐官と食事をしながら、食堂で働く彼の妻や、他の調理師達とおしゃべりをして、ひと時の楽しい時間を過ごし、広報部へ戻った。


       ───ガチャッ───


「ジルベールです。ただ今戻りまし……うわっ!」

 ドアを開けるなり、私は広報部の皆に抱きつかれた。


「お帰り〜!ジルベールちゃん!」

「診察お疲れ様〜!リー中尉から大丈夫だったって聞いたよ〜!」

「でも、恋人が誰なのか私達にはあとで教えてね!絶対秘密にするから〜!」

「誰なの〜?この所有欲の塊みたいな人は⁈っていうか以外と純愛〜?」

「よし、じゃあ衣装合わせしよ〜!こっちこっち!夜会では着ない衣装なんだけど〜、ちょっとこれ来てみて!」

「あっ!その次はこっち〜!」

「皆さん……ちょっと……う、うわあぁーっ!!」

「さあっ!気合い入れるわよっ!私達の乙女(ハニー)!」

 ジルベールは広報部員達によって、準備室に引きずり込まれた。


……

…………

………………


「似合うじゃな〜い!可愛い〜っ!」

「皆さん、ちょっとこれは……」

「サイズ展開して、アクセサリーと靴下もセットで売り出しましょう!」

「皆さん、聞いてます⁈流石に……」

「アクセサリーは別売りが良くない?」

「うーん……そうね……アデル部長に相談してみる?」

「ちょっと皆さんっ!!」

 私が大声を出すと、広報部員達は、やっと気が付いて私を見た。


「どうかした?ジルベールちゃん?」

「流石に、肌が見え過ぎだと思いますっ!」

 私は、自分の肩を抱いて訴えた。


 広報部に戻ってから、おおよそ2時間…私はずっと、着せ替え人形にされている。そして、今の格好は、流石にちょっと、どうかと思うのだ。

 ドレス──とはいえないほど短い、その裾は、膝より上で大きく広がり、中に履いた同じく短いペチコートのレースが見えている。動いたら、お尻が見えそうだ……ハイヒールと、履かされたレース編みの靴下は、膝上まであるが、薄過ぎて、殆ど生足に近い。そして、ドレスは胸元までで、肩が見えている。一応、肩にはフリルの付いた袖らしき部分があるが、半袖よりも遥かに短い。

 髪の毛は、リボンを使って複雑に編み込まれ、何がどうなっているのか、私にはもはや分からない……


「えーっ!とっっっ……ても可愛いよっ!ジルベールちゃんっ!」

「そーそー!私達の力作っ!」

「大丈夫!今、流行りのデザインより、ドレスの丈が、超ショートってだけだから!」

「うぅ……ショートどころじゃない……」

 広報部の皆は、一切聞く耳を持たない。分かっていたけど……



「あと〜、本当に紺色似合うね!ジルベールちゃん!」

「アデル部長に言われて使ってみたけど、確かに良いわね。」

「派手なデザインでも、落ち着いて見えるし!」

「えっ……やっぱりこの衣装派手なんじゃ………」

「編み込みに使ったリボンも紺色にしてみたの〜!あとは、レースは全部白で〜!紺色と白だけなんだけど、落ち着いた色合いが、衣装と一見アンバランスなんだけど、逆に可愛い〜っ!」

「これは…売れるわっ!流行らせるわよっ!」

 皆はキャーキャー騒ぎ出した。


「もう、何だか良く分かんないけど、私はとにかく恥ずかしいですっ!」

 私はドレスの裾を両手で掴んでグイッと伸ばした。

「恥ずかしがってるジルベールちゃんも可愛いぃ〜!」

「…………」


 もう、この人達には何を訴えても無駄だ……


「仕草も本当可愛いわ〜、私達の乙女(ハニー)。」

「ひぃっ……」

「ジルベールちゃんも子どもじゃないから口は出さないけどさ。ちょっと妬けるわね、お相手の恋人さんに。」

「そうよね。私達が、いろいろ教えてあげたいのに──」

「恋人⁈だから……いないってそんな人──」

「もー。意地っ張りな所も可愛いわね。じゃあ、また衣装変えるから、全部脱がせちゃおっかな〜。」

「じっとしててねー、ジルベールちゃん。」

「キャーーーッ!!」



「おいおい、何を騒いでんだ?」



 広報部員達に襲われそうになった時、リー中尉が部屋に入って来た。

「お疲れ〜保護者〜!」

「ジルベールちゃんの衣装合わせよ!」


「リー中尉……ぐすっ……」

 私は広報部員達に、四方から衣装を引っ張られたまま、リー中尉に訴えた。


「………今ジルに着せてる衣装、今日の夜会で着る訳じゃねぇんだろ?俺達は今野営訓練中なんだ。なるべくジルに負担を掛けないでくれって頼んだはずだが。衣装合わせは、今日着る衣装だけにしてくれ。」

 リー中尉はため息を付きながら、助け船を出してくれた。


「ちょっとだけよ、別に負担は掛けてないわ!ね、ジルベールちゃん。」

「……………ぐすん。」

「それにほら〜!すっごく可愛いでしょ〜!」

 リー中尉は私の格好を目をしかめてじっと見た。


「うーん……ちょっと露出させすぎじゃないのか?あと、似合ってはいると思うが、ピンクの方が良いと思う。詰襟で長袖、露出は少なく。」

「リー中尉、それは詰襟シリーズでしょう⁈」

 広報部の皆は口を尖らせた。


 詰襟シリーズ───リーが考案したジルベールの衣装シリーズ。主にピンクを基調とし、大量のフリルとレース、全て長袖、詰襟で、肌の露出は殆ど無い。当初、アデルもデザインが古過ぎるのでは、と乗り気で無かったが、主に10歳以下の娘を持つ親に人気が出た為、子ども用にサイズ展開をして、シリーズの衣装を売り出している。なかなかの売れ行きで、来期もシリーズの製作が決定した。肌の露出は少ないが、これはこれでジルベールは何だか恥ずかしいと思っており、撮影の時はいつも照れた表情になってしまいアデルを悩ませる。


「ジルは、その格好が昔から一番似合うんだ。あと、肌をあまり出させるな。」

「本当保護者は過保護だな〜。だから、ジルベールちゃん、世間知らずになっちゃうんだよ?」

「そうだよ。多少、そういう事も教えないと。」

「だから、キスマークなんか付けられちゃうんだよ。」

「それとは関係無いだろ。ジル、オリビア先生に診せて、ひとまず安心したが…後で詳しく聞くからな。」

「別に話す事なんかないもん。さっき話したもん。」

「ジルッ!お前何だその言い方は……本当に気をつけねぇと、ガルシア家も心配する───」



       ───ガチャッ───



 その時、誰かが準備室のドアを開けた。


「な……何でここにあんたが来るのよっ……!」

 広報部員達は、皆一様に目を丸くしてドアを開けて立つ人物を睨みつけた。



───時間が出来たら、俺も後から広報部に顔を出す───



「少佐………」

 ドアを開けて立っているのはアイゼン少佐だった。本当に来てくれたんだ……


「アデル部長に許可されたの⁈」

「何しに来たのよっ!何で黙ってるのよっ!」

 いきなりやって来たアイゼン少佐は、一言も喋らない。何故か、驚いた様な表情で、私を見たまま固まっている。


 アイゼン少佐、どうして────


 私は自分の体を見渡した。そうだ、私……

 こんな格好で───


「ちょっと、あんた何でずっとそこに立ってるのよっ!気持ち悪いわねっ!」

「ん?ジルベールちゃん、どうしたの?顔が赤いわよ?」

「本当だ!大丈夫?ジルベールちゃん⁈」

 広報部の皆とリー中尉は、一斉に私を見た。



「私………は……恥ずかしい……かも……」─ぼそっ─



 広報部の皆とリー中尉は、今度は一斉に少佐の方を見た。

「ちょっとあんたっ!何見てんのよっ!」

「そーよそーよっ!勝手に入って来ないでよっ!ジルベールちゃん嫌がってるじゃないのっ!」

「リー中尉、あいつを追い返してっ!」

 広報部の皆はそう叫び、リー中尉は早足で、ドアを開けたまま立ち尽くす少佐に近寄った。



「アイゼン少佐、すみません。ジルの奴が恥ずかしがってるので……お帰り下さい。」

「リー中尉……広報部の活動の邪魔をするつもりは無い。他意は無いんだ。」

「いや、他意とかそんなんじゃなくて、ジルが見られて恥ずかしいって言ってるんです。」


 ドアの所で、少佐とリー中尉が何か話している。内容はよく聞こえないが、少佐はまだドアを開けたまま帰りそうに無い。


「撮影用の衣装で……露出が多いですから。ジルの気持ちを御理解下さい、少佐。」

「そういう目で見てはいない。確かに少々露出が多く驚きはしたが、良く……似合っていると思う。もう少し見ても構わないだろう?」

 何か話し合ったのか、リー中尉がこちらを振り返った。


「ジル、少佐が少し、お前の衣装を見たいそうだが………」

「!!……や………やだっ………」─ふるふるっ─

 私は両肩を抱いて首を振った。こんな格好……間近で見せられないっ!


「申し訳ありません、少佐。ジルがああ言ってますので。あいつの気持ちを尊重してやって下さい。」

「……少しだけだ。少し見たら帰る。」

「今日は夜会もあるんです。ジルも気が立ってますから…お帰り下さい。」


 少佐はまだ帰らない様だ。

「保護者!押し返してっ!」

「ちょっとあんたいつまで見てるのよっ!ジルベールちゃん怖がって震えてるでしょっ!」

「そーよっ!帰れ変態っ!痴漢っ!」

 広報部の皆は怒り出した。


「本当に……少しだけだ。彼女を近くで──」

「だからジルが嫌がってるんですよっ!」

「リー中尉、上官の指示には従うべきでは無いのか?」

「私はガルシア家から、広報部の活動については決定権を一任されています。例え少佐の指示でも聞けません。」

「……チッ………」

 何やら不穏な空気が漂っている。



「とにかくっ!お帰り下さいっ!」

「待てっ!ドアを閉めるなっ!」



 リー中尉は、遂にドアを閉めて、少佐を押し返そうとした。だが、少佐もドアノブに手を掛け踏みとどまっている。ドアを隔てて、押し合いが始まった。


「頑張れ保護者ーっ!」

「あんた何で帰らないのよっ!しつこいわよっ!」


「ジルが見られたく無いって言ってるんですよ……くっ……分かってやって下さいっ!」

「……大丈夫だ、リー中尉。彼女とは寝室を共にする間柄だ。些細な事だ……」

「ちょっと怖いな。何言ってるか意味が分からないので早くお引き取り下さい。」


「……ぐ……うおおおおぉぉぉ!」


 アイゼン少佐とリー中尉は、2人でついに叫びながらドアを押し合っている。

「保護者ーっ!負けるなーっ!」



        ───バンッ───



 そして遂に、軍配はリー中尉に上がった。

「ゼェ……ゼェ……はー、さすが少佐、強かったな。」

───ドンドンッ!リー中尉……くそっ…他意は無いと言っているだろう?ドンドンッ!───

 ドアの向こうで、少佐の声がする。リー中尉は素早くドアに鍵を掛けると、額の汗を拭った。


「さすが保護者〜!強〜い!」

「当たり前よ!親心が下心なんかに負ける訳ないでしょっ!」


 少佐……せっかく来てくれたのに、何だかごめんなさい。でも、さすがに恥ずかしい……この格好は……


───あら、無愛想少佐じゃない。あんた何で勝手にこんな所にいるのよ!───

───マルティネス部長殿……少し、彼女に会いたいと……───

───駄目よっ!彼女は夜会前で繊細になってるのよっ!余計な刺激を与えないで頂戴!───

───そんなつもりは……ただ、少し話を───

───駄目よしつこいわねっ!今からダンスレッスンやセリフの確認もあってジルベールちゃんは忙しいのよっ!邪魔をしないでっ!こっちに来なさいっ!───

───くっ……ジゼルッ……俺はただ……夜会前に君と……───

───どうせあんたの家は、強引に婚姻を推し進めるのでしょう?それからで良いじゃない。少々辛抱なさい───


 ドアの向こうから、アデル部長の声がして、少佐はどうやら連れて行かれた様だった。


「よーしっ!じゃあ今のうちに着替えましょう!」

「次は夜会用の衣装を着せてくれよ。ジルも疲れてる。」

「分かってるわよー!はい、ジルベールちゃん!脱いだらこれ着ましょうね。」

 私はあっという間に衣装を変えられ、夜会用の軍服姿になった。これからが本番だ。長いな………

「綺麗だよーっ!ジルベールちゃんっ!」

「アデル部長が来る前に、私がダンスレッスン相手してあげるねっ!」

「……はい。宜しくお願いします。」

 何だか自然にため息が出て、私はそっと目を伏せた。

お読み頂き、ありがとうございます。

不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


続きが気になる!と思って頂けましたら、

評価等で応援して頂けると、とても励みになります!

どうぞよろしくお願いいたします。

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