122.負けない親心
リソー国軍主催の夜会、2日目の昼。ジルベールは、食堂で補佐官と食事をしながら、食堂で働く彼の妻や、他の調理師達とおしゃべりをして、ひと時の楽しい時間を過ごし、広報部へ戻った。
───ガチャッ───
「ジルベールです。ただ今戻りまし……うわっ!」
ドアを開けるなり、私は広報部の皆に抱きつかれた。
「お帰り〜!ジルベールちゃん!」
「診察お疲れ様〜!リー中尉から大丈夫だったって聞いたよ〜!」
「でも、恋人が誰なのか私達にはあとで教えてね!絶対秘密にするから〜!」
「誰なの〜?この所有欲の塊みたいな人は⁈っていうか以外と純愛〜?」
「よし、じゃあ衣装合わせしよ〜!こっちこっち!夜会では着ない衣装なんだけど〜、ちょっとこれ来てみて!」
「あっ!その次はこっち〜!」
「皆さん……ちょっと……う、うわあぁーっ!!」
「さあっ!気合い入れるわよっ!私達の乙女!」
ジルベールは広報部員達によって、準備室に引きずり込まれた。
……
…………
………………
「似合うじゃな〜い!可愛い〜っ!」
「皆さん、ちょっとこれは……」
「サイズ展開して、アクセサリーと靴下もセットで売り出しましょう!」
「皆さん、聞いてます⁈流石に……」
「アクセサリーは別売りが良くない?」
「うーん……そうね……アデル部長に相談してみる?」
「ちょっと皆さんっ!!」
私が大声を出すと、広報部員達は、やっと気が付いて私を見た。
「どうかした?ジルベールちゃん?」
「流石に、肌が見え過ぎだと思いますっ!」
私は、自分の肩を抱いて訴えた。
広報部に戻ってから、おおよそ2時間…私はずっと、着せ替え人形にされている。そして、今の格好は、流石にちょっと、どうかと思うのだ。
ドレス──とはいえないほど短い、その裾は、膝より上で大きく広がり、中に履いた同じく短いペチコートのレースが見えている。動いたら、お尻が見えそうだ……ハイヒールと、履かされたレース編みの靴下は、膝上まであるが、薄過ぎて、殆ど生足に近い。そして、ドレスは胸元までで、肩が見えている。一応、肩にはフリルの付いた袖らしき部分があるが、半袖よりも遥かに短い。
髪の毛は、リボンを使って複雑に編み込まれ、何がどうなっているのか、私にはもはや分からない……
「えーっ!とっっっ……ても可愛いよっ!ジルベールちゃんっ!」
「そーそー!私達の力作っ!」
「大丈夫!今、流行りのデザインより、ドレスの丈が、超ショートってだけだから!」
「うぅ……ショートどころじゃない……」
広報部の皆は、一切聞く耳を持たない。分かっていたけど……
「あと〜、本当に紺色似合うね!ジルベールちゃん!」
「アデル部長に言われて使ってみたけど、確かに良いわね。」
「派手なデザインでも、落ち着いて見えるし!」
「えっ……やっぱりこの衣装派手なんじゃ………」
「編み込みに使ったリボンも紺色にしてみたの〜!あとは、レースは全部白で〜!紺色と白だけなんだけど、落ち着いた色合いが、衣装と一見アンバランスなんだけど、逆に可愛い〜っ!」
「これは…売れるわっ!流行らせるわよっ!」
皆はキャーキャー騒ぎ出した。
「もう、何だか良く分かんないけど、私はとにかく恥ずかしいですっ!」
私はドレスの裾を両手で掴んでグイッと伸ばした。
「恥ずかしがってるジルベールちゃんも可愛いぃ〜!」
「…………」
もう、この人達には何を訴えても無駄だ……
「仕草も本当可愛いわ〜、私達の乙女。」
「ひぃっ……」
「ジルベールちゃんも子どもじゃないから口は出さないけどさ。ちょっと妬けるわね、お相手の恋人さんに。」
「そうよね。私達が、いろいろ教えてあげたいのに──」
「恋人⁈だから……いないってそんな人──」
「もー。意地っ張りな所も可愛いわね。じゃあ、また衣装変えるから、全部脱がせちゃおっかな〜。」
「じっとしててねー、ジルベールちゃん。」
「キャーーーッ!!」
「おいおい、何を騒いでんだ?」
広報部員達に襲われそうになった時、リー中尉が部屋に入って来た。
「お疲れ〜保護者〜!」
「ジルベールちゃんの衣装合わせよ!」
「リー中尉……ぐすっ……」
私は広報部員達に、四方から衣装を引っ張られたまま、リー中尉に訴えた。
「………今ジルに着せてる衣装、今日の夜会で着る訳じゃねぇんだろ?俺達は今野営訓練中なんだ。なるべくジルに負担を掛けないでくれって頼んだはずだが。衣装合わせは、今日着る衣装だけにしてくれ。」
リー中尉はため息を付きながら、助け船を出してくれた。
「ちょっとだけよ、別に負担は掛けてないわ!ね、ジルベールちゃん。」
「……………ぐすん。」
「それにほら〜!すっごく可愛いでしょ〜!」
リー中尉は私の格好を目をしかめてじっと見た。
「うーん……ちょっと露出させすぎじゃないのか?あと、似合ってはいると思うが、ピンクの方が良いと思う。詰襟で長袖、露出は少なく。」
「リー中尉、それは詰襟シリーズでしょう⁈」
広報部の皆は口を尖らせた。
詰襟シリーズ───リーが考案したジルベールの衣装シリーズ。主にピンクを基調とし、大量のフリルとレース、全て長袖、詰襟で、肌の露出は殆ど無い。当初、アデルもデザインが古過ぎるのでは、と乗り気で無かったが、主に10歳以下の娘を持つ親に人気が出た為、子ども用にサイズ展開をして、シリーズの衣装を売り出している。なかなかの売れ行きで、来期もシリーズの製作が決定した。肌の露出は少ないが、これはこれでジルベールは何だか恥ずかしいと思っており、撮影の時はいつも照れた表情になってしまいアデルを悩ませる。
「ジルは、その格好が昔から一番似合うんだ。あと、肌をあまり出させるな。」
「本当保護者は過保護だな〜。だから、ジルベールちゃん、世間知らずになっちゃうんだよ?」
「そうだよ。多少、そういう事も教えないと。」
「だから、キスマークなんか付けられちゃうんだよ。」
「それとは関係無いだろ。ジル、オリビア先生に診せて、ひとまず安心したが…後で詳しく聞くからな。」
「別に話す事なんかないもん。さっき話したもん。」
「ジルッ!お前何だその言い方は……本当に気をつけねぇと、ガルシア家も心配する───」
───ガチャッ───
その時、誰かが準備室のドアを開けた。
「な……何でここにあんたが来るのよっ……!」
広報部員達は、皆一様に目を丸くしてドアを開けて立つ人物を睨みつけた。
───時間が出来たら、俺も後から広報部に顔を出す───
「少佐………」
ドアを開けて立っているのはアイゼン少佐だった。本当に来てくれたんだ……
「アデル部長に許可されたの⁈」
「何しに来たのよっ!何で黙ってるのよっ!」
いきなりやって来たアイゼン少佐は、一言も喋らない。何故か、驚いた様な表情で、私を見たまま固まっている。
アイゼン少佐、どうして────
私は自分の体を見渡した。そうだ、私……
こんな格好で───
「ちょっと、あんた何でずっとそこに立ってるのよっ!気持ち悪いわねっ!」
「ん?ジルベールちゃん、どうしたの?顔が赤いわよ?」
「本当だ!大丈夫?ジルベールちゃん⁈」
広報部の皆とリー中尉は、一斉に私を見た。
「私………は……恥ずかしい……かも……」─ぼそっ─
広報部の皆とリー中尉は、今度は一斉に少佐の方を見た。
「ちょっとあんたっ!何見てんのよっ!」
「そーよそーよっ!勝手に入って来ないでよっ!ジルベールちゃん嫌がってるじゃないのっ!」
「リー中尉、あいつを追い返してっ!」
広報部の皆はそう叫び、リー中尉は早足で、ドアを開けたまま立ち尽くす少佐に近寄った。
「アイゼン少佐、すみません。ジルの奴が恥ずかしがってるので……お帰り下さい。」
「リー中尉……広報部の活動の邪魔をするつもりは無い。他意は無いんだ。」
「いや、他意とかそんなんじゃなくて、ジルが見られて恥ずかしいって言ってるんです。」
ドアの所で、少佐とリー中尉が何か話している。内容はよく聞こえないが、少佐はまだドアを開けたまま帰りそうに無い。
「撮影用の衣装で……露出が多いですから。ジルの気持ちを御理解下さい、少佐。」
「そういう目で見てはいない。確かに少々露出が多く驚きはしたが、良く……似合っていると思う。もう少し見ても構わないだろう?」
何か話し合ったのか、リー中尉がこちらを振り返った。
「ジル、少佐が少し、お前の衣装を見たいそうだが………」
「!!……や………やだっ………」─ふるふるっ─
私は両肩を抱いて首を振った。こんな格好……間近で見せられないっ!
「申し訳ありません、少佐。ジルがああ言ってますので。あいつの気持ちを尊重してやって下さい。」
「……少しだけだ。少し見たら帰る。」
「今日は夜会もあるんです。ジルも気が立ってますから…お帰り下さい。」
少佐はまだ帰らない様だ。
「保護者!押し返してっ!」
「ちょっとあんたいつまで見てるのよっ!ジルベールちゃん怖がって震えてるでしょっ!」
「そーよっ!帰れ変態っ!痴漢っ!」
広報部の皆は怒り出した。
「本当に……少しだけだ。彼女を近くで──」
「だからジルが嫌がってるんですよっ!」
「リー中尉、上官の指示には従うべきでは無いのか?」
「私はガルシア家から、広報部の活動については決定権を一任されています。例え少佐の指示でも聞けません。」
「……チッ………」
何やら不穏な空気が漂っている。
「とにかくっ!お帰り下さいっ!」
「待てっ!ドアを閉めるなっ!」
リー中尉は、遂にドアを閉めて、少佐を押し返そうとした。だが、少佐もドアノブに手を掛け踏みとどまっている。ドアを隔てて、押し合いが始まった。
「頑張れ保護者ーっ!」
「あんた何で帰らないのよっ!しつこいわよっ!」
「ジルが見られたく無いって言ってるんですよ……くっ……分かってやって下さいっ!」
「……大丈夫だ、リー中尉。彼女とは寝室を共にする間柄だ。些細な事だ……」
「ちょっと怖いな。何言ってるか意味が分からないので早くお引き取り下さい。」
「……ぐ……うおおおおぉぉぉ!」
アイゼン少佐とリー中尉は、2人でついに叫びながらドアを押し合っている。
「保護者ーっ!負けるなーっ!」
───バンッ───
そして遂に、軍配はリー中尉に上がった。
「ゼェ……ゼェ……はー、さすが少佐、強かったな。」
───ドンドンッ!リー中尉……くそっ…他意は無いと言っているだろう?ドンドンッ!───
ドアの向こうで、少佐の声がする。リー中尉は素早くドアに鍵を掛けると、額の汗を拭った。
「さすが保護者〜!強〜い!」
「当たり前よ!親心が下心なんかに負ける訳ないでしょっ!」
少佐……せっかく来てくれたのに、何だかごめんなさい。でも、さすがに恥ずかしい……この格好は……
───あら、無愛想少佐じゃない。あんた何で勝手にこんな所にいるのよ!───
───マルティネス部長殿……少し、彼女に会いたいと……───
───駄目よっ!彼女は夜会前で繊細になってるのよっ!余計な刺激を与えないで頂戴!───
───そんなつもりは……ただ、少し話を───
───駄目よしつこいわねっ!今からダンスレッスンやセリフの確認もあってジルベールちゃんは忙しいのよっ!邪魔をしないでっ!こっちに来なさいっ!───
───くっ……ジゼルッ……俺はただ……夜会前に君と……───
───どうせあんたの家は、強引に婚姻を推し進めるのでしょう?それからで良いじゃない。少々辛抱なさい───
ドアの向こうから、アデル部長の声がして、少佐はどうやら連れて行かれた様だった。
「よーしっ!じゃあ今のうちに着替えましょう!」
「次は夜会用の衣装を着せてくれよ。ジルも疲れてる。」
「分かってるわよー!はい、ジルベールちゃん!脱いだらこれ着ましょうね。」
私はあっという間に衣装を変えられ、夜会用の軍服姿になった。これからが本番だ。長いな………
「綺麗だよーっ!ジルベールちゃんっ!」
「アデル部長が来る前に、私がダンスレッスン相手してあげるねっ!」
「……はい。宜しくお願いします。」
何だか自然にため息が出て、私はそっと目を伏せた。
お読み頂き、ありがとうございます。
不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。
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