殺し続けた感情(4)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
と、そこへ、朔馬と茅とシュバルツが割り込む形で彼らの前に現れた。
どうやら朔馬は、龍が来る前から話を聞いていたことで、翔馬らの真意を知ったらしく、見るからに不機嫌そうな顔をしている。後の2人は彼を制止しようとするもできず、出てきてしまったといったところだろう。
「ちょっといいっすか?」
「あ、朔馬君。柚さんと話できた?」
「いや。晩飯食ってから会ってないっす」
朔馬の言葉によって、彼女が何をしようとしているのか察しがついた。間違いない。どこかで押し倒してゴロニャン状態に持ち込む気だ。
しかし、そんなこと朔馬からすれば、どうでもよかった。眼前の敵に確認したいことがあったから。
「龍さん。1つだけ聞いてもいいっすか?」
「ん? 何?」
「あんたは結局、誰のことが好きなんすか? 今日会ったばっかで言うのもなんすけど、あんたの優柔不断っぷりは、見ててイライラするんすよ」
年下の少年から放たれた言葉のナイフが、龍の胸に深く突き刺さる。痛いところを突かれた彼は苦笑いしてから、改めて自分の胸に手を当てて、愛してくれている女達のことを思い返した。
少なくとも、もう1年近くも苦楽を共にしている。その中から1人を選ぶのだから、龍からすればさぞかし難題だろう。
それでも、いい答えを期待していた朔馬達だったが、しばらくの沈黙の後、彼が出した答えは、
「…………さぁ? 誰なんだろうね」
という朔馬らの想像を絶する意外な答えだった。
その答えの意味は実にシンプルで、そもそも龍は人を愛してなどいなかったのだ。
何故なら彼の仕事は、人を殺すことを生業とするこの世で最も愚かで歪んだ汚れ仕事・殺し屋。善悪の差はあれど、これまで奪ってきた命は数知れない。
そんな自分が、人を愛して幸せになるなんて大それている。享受したら最後、殺した命に申し訳が立たない。
「……だから僕は、愛されても愛しはしなかった。その感情だけは、いつも殺していた」
それが龍の考えであり、贖罪の仕方。本人なりに考えて抜いて出した結論なのだろうが、こんな勝手な理屈に共感し、理解を示せる者などいない。むしろ、朔馬の怒りを増長させるだけだった。
「……ふざけんなよ」
その一言と共に、朔馬は龍の胸ぐらを掴む。
「愛してなかっただ? 自分を殺して逃げてるだけの奴が、偽善者ぶって悟りきったこと言ってんじゃねぇ! その身勝手な考えが、柚姉ぇをどんだけ傷付けることになるのかわかってんのか!?」
そう言うと、朔馬は龍を突き飛ばした。
「やっぱ、柚姉ぇはあんたのとこにいるべきじゃねぇ。あんたのとこにいたら、柚姉ぇまで不幸になっちまう。そうなるぐらいなら、俺は……ブラック・ナイト全員の反対を押し切ってでも、柚姉ぇに帰ってきてもらいます! その上で俺が、柚姉ぇを幸せにしてみせます!」
真っ向からそう宣言され、鈍感な龍でも流石に勘付いた。この少年は自分にとって、紛れもなく恋のライバルだと。
誰も愛していなかった証拠に、龍はキュンとしたり赤面したりすることはあっても、1度たりとも雲雀達に『好き』や『愛してる』と伝えたことはありません。
そんな恋のライバルの姿勢に朔馬が苛立つのは、当然のことかもしれません




