剛の拳 柔の技(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
翌日の朝から大牙達は双頭鳥の調査を始めた。
しかし、相手は盗みを働いたとはいえ自分と同じプロの殺し屋。上手く日常に溶け込んでいるため、なかなか見つからず、気付けば5日も無駄に時間だけが過ごしていた。
早くしないと、大牙は何もしないまま帰ることになるし、何より血の気の多い構成員達が焦っているせいか苛立っており、このままではちょっとしたことで内部抗争に発展しかねない。
その深刻さを、帝虎らは重々わかっていた。
「おじい様」
「わかっておる。このままではマズいのぅ。早いとこ奴らを見つけださんとな」
危機感を感じる帝虎の言葉に十三もその通りだと頷き、きっと大牙も同じ気持ちだろうと、話を振ろうとした。
しかし大牙は、それどころではないのか、携帯電話と向き合ってにらめっこしている。
「うっわー。どうしよう……」
頭を掻きながらそう言う大牙の言動に疑問を感じた十三は、何をしているのか尋ねた。
「『何してんだ?』って、メールっすよ。メール」
「メール?」
「うっす。ほら、こないだ言ってましたよね? 透美さんって人と一緒に住んでるって。その人が俺を心配して1日に2、3通も送ってくるんすけど、『その格闘大会に出てた人の写メを撮って送ってきて』ってメールが来ちまって、今どうしようかって、すっげー悩んでるんすよ」
それを聞いた十三は、無関心と見下しの視線を大牙に向ける。
「あ、そうだ! 柔のオッサン。すみませんけど、写真撮っていいっすか? 参加者ってことでなんとか誤魔化すんで」
「…………よこせ」
「へ?」
「よこせっつってんだ」
十三にそう要求されて、自撮りをするつもりだと解釈した大牙は、快く携帯電話を彼に手渡した。
次の瞬間、十三は携帯電話の両端を持つと、大牙の目の前で容赦なくそれをバキッとへし折った。
私物を問答無用で破壊された大牙は唖然とし涙ぐんでいたが、十三はそんなことなどお構いなしに、携帯電話の残骸を床に落として踏みにじり、
「……大の格闘家が、女々しいことしてんじゃねぇ。付き合ってもいねぇ女の顔色を伺って何になるってんだ。バカ野郎」
と、言って、煙草に火をつけた。
この理不尽な言動にキレた大牙の心にまで火をつけてしまったようだが。
「ちょ、何してくれてんすか!? 人の物ぶっ壊すとか、常識無いんすか!? 弁償して下さいよ弁償!」
「殺し屋のお前が『常識』を語んのか? 笑わせんな。だいたい弁償弁償うるせぇんだよ。お前はどこまで女々しいんだ?」
「そういう問題じゃないっしょ! もうあったまきた! 上等っす! そっちがその気なら、力づくで言うこときかせて謝罪&弁償させてやります!」
そう言って2人は、互いに火花を散らし合った。
この険悪な空気に、紅花はポンと手を叩き、全員を労うための食事の買い出しに行くと言い出した。
双頭鳥に顔が割れている以上、あまりにも危険すぎる。せめて自分が護衛につくと十三は申し出たが、
「あなたは、大牙君と親睦を深めないといけないでしょう? だから残ってて」
「しかし……」
「お願い。わかって。ね?」
そう言い、アイコンタクトで紅花の考えが伝わった十三は、渋々了解し、彼女が出かけるのを黙って見送った。
当然、その心中は穏やかではないが…………
まぁ、大牙も大牙ですけど、問答無用で携帯電話をへし折る十三もどうかとは思いますね。なんで、喧嘩両成敗ということで。
それより問題は彼女の方です。




