柔を求めし剛将(5)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
それからしばらくして、大牙は昼から何も食べていないということもあり、十三の奢りで遅めの夕食を食べていた。ちなみに今晩のメニューは、地元屋台の絶品ワンタン麺である。
「うまいか?」
「うっす! そりゃあもう! しっかし驚きました。まさか、かつての柔道100㎏級の金メダリストで『柔道界の剛将』の異名を持つ久保田さんに会えるとは思ってなかったっすから」
「昔の話だ。バカ野郎」
そう。大牙が彼に尊敬の眼差しを向けた理由。それは、十三がソウルとロサンゼルスで銀メダルを、バルセロナで金メダルを獲るほどの柔道家だということを思い出したからだ。
ちなみに、ほぼ生まれたての大牙がそのことを知っていたのは、彼の師匠が流派の発展と技の研究のためにバルセロナ時代の十三の試合を録画していたからである。
「いやぁ、あんたの柔道は本当に最高でした! 特にバルセロナの決勝の時の巴投げ。あれは今思い出しても、こう熱くなります」
「そうは言われてもなぁ……あの頃の俺は柔道と言いつつも、若さ故の力任せ、言うなりゃ『剛』に頼りきっていた。そんなもんを褒められても、ちっとも嬉しくねぇよ」
「そ、そうっすか……そういや、なんであんたがマフィアなんかに? あんたの腕なら、指導者にだって……」
そう尋ねられた十三は、煙草の煙と共に呆れのため息を吐き出し、
「これだからガキは困る。何も知らねぇくせに、人の心に土足で上がり込んで傷口を広げていきやがる」
と、言って、仕方なく自身の過去について語った。
バルセロナオリンピックで金メダルを取った翌年、当時27歳だった十三は、自身の柔道に絶対の自信を持っていた。
どんな相手も力づくで投げれば勝てる。そう思い、『国内に敵なし』と過信していた彼だったが、この年の夏頃、その考えのせいで大事件を起こしてしまうのだった。
自分と同郷の後輩を、試合中に死なせてしまったのだ。
一応、試合中の過失ということで起訴こそされなかったが、その責任は重く、十三は金メダルを剥奪。日本柔道界から追放されてしまった。
日本に居場所が無くなった彼は己の間違いに気付き、それからすぐに武者修行の旅に出た。今まで自分が貫いてきた『剛』を捨て、相手の力を最大限利用し、命を奪わない柔道。真の『柔』を求めて。
その道はとにかく我武者羅で、合気道やブラジリアン柔術等、『柔』に関係のありそうなものを片っ端から学んでいき、自らが信じる『柔』の糧にした。全ては、もうこの手で人を殺めないために……
だが、あの事件から3年後、彼はまた、同じ過ちを繰り返してしまう。
ある国で不良少年らに絡まれた十三は、そのしつこさに激怒し、柔道を暴力の道具に使ってしまったのだ。そのせいで、ICUに行った1人の少年は、そのまま……
突発的にやってしまったことに、罪悪感に苛まれ、彼は各地を転々と逃げ回る。その果てにあったのは、己の馬鹿さ加減と未だ真の『柔』に到達できていない自分の未熟さ。
それらを思い知り落ち込む彼に、『柔道界の剛将』と謳われたかつての男らしい姿はなかった。
実はバルセロナに参加していた縁もあり、十三はシュバルツと面識があります。




