柔を求めし剛将(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
どれだけ気を失っていたのだろう? すっかり日が落ち、あたりが漆黒の闇に染まった頃、大牙は九竜にあるとある屋敷で目を覚ました。
「…………ん……。ん? ここは……?」
「あ、気がついた? よかった。無事そうで」
傍らにいた若い中国人女性がこちらを見て、胸をなで下ろしている。
「あんたは?」
「私は紅花。あなたの依頼人の孫よ。ごめんね。うちの十三が乱暴なマネをして」
投げられた際に耳から外れ、どこかに無くしてしまった小型翻訳機が、まるでまだあると錯覚するぐらい、彼女は流暢な日本語でそう名乗った。
どうやら彼女が、十三が言っていた『お嬢さん』らしい。
そのお嬢さんに氷枕を取り替えてもらっていると、大牙をぶん投げた張本人が姿を現した。
「しかし、あの程度で気絶たぁ思ったより軟弱だな。ボウズ」
「オッサン! いつつつつ」
「そう言うあなたもやりすぎよ。いくら力量を試すからって限度ってものが……」
「これでも加減はしました。でなきゃ今頃この小僧は、転落死体みたいに地べたにへばりついてます」
その一言に、大牙は一瞬ゾッとした。
すると、そのやりとりを側で眺めていた仙人のような風体の老人が、髭を撫でながら笑っていた。
「若いとは良いのぅ。わしぐらいに歳をとり、修羅場をくぐってしまった者は、そこまで感情豊かになれん。いやはや羨ましい限りじゃ」
「えっと……あんたは?」
「わしの名は雷帝虎。そこにいる紅花の祖父であり、この香港マフィア・雷ファミリーのドンじゃ」
「てことは、あんたが依頼人っすか。初めまして。死獣神所属の殺し屋・白虎です。こんな出だしであれっすけど、今回はよろしくお願いしま……」
深々と頭を下げてそう言いかけた大牙は、帝虎の名字に引っかかったことで、武文の注意書きにあった『心の準備』の意味がようやくわかった。
「雷……? って、まさか……」
「うむ。おぬしの想像通りじゃ。わしは雷一族の元当主でな。隠居生活の傍ら、この稼業をしておるのじゃ」
そう言い終えるか終わらないかぐらいで、大牙は寝ていたベッドから飛び降り、流れるような動きで土下座をした。もしこれの競技があれば、確実に満点をとって優勝できるだろう。それぐらい芸術的かつ完璧な土下座である。
「この度は、大事な孫娘を傷物にしてしまい、申し訳ありませんでしたぁっ!」
もうおわかりかもしれないが、大事な孫娘とはコンバットデスマッチで会った緋蘭のことである。
「あぁ、だいたいのことは本人から直接聞いておる。おぬしは悪くない。むしろ、こちらこそ迷惑をかけた。すまぬ」
「そう言ってもらえると幸いっす。けど……」
「まぁ、そう気にすることではない。全てはあいつの弱さが招いたことじゃ。野良犬に噛まれたぐらいに思ってくれてかまわん。ただ……」
「ただ?」
「緋蘭は昔から負けず嫌いでな。その執念は一族1と言っても過言ではない。聞けば、あやつは今、復讐のためにおぬしの子を身籠もっておるそうじゃな?」
そう尋ねられて、大牙は小さく頷いた。
「だとしたら、十分に気を付けよ。よいな?」
「うっす。重々承知してます」
その答えを聞いた帝虎は、ならば良しと大きく頷き、孫娘であり、緋蘭の従姉妹である紅花に依頼の概要を説明させた。
まさかの緋蘭の身内登場。
大牙としては、肝が冷えたことでしょう。




