柔を求めし剛将(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
独特の看板。
頭上を飛ぶ飛行機。
そして、食欲を刺激する匂いと、それに導かれるように行き交う観光客達。
ここは世界的に有名な観光都市・香港。
この遠い異国の地を、まるでお上りさんのように興奮しながら、周囲を見渡している1人の少年がいた。大牙である。
何故、彼が1人でこんな所に来ているのか。その訳は、前日の夜に遡る…………
「大牙君。明日から香港に旅行とかどう? 1週間ぐらい」
「……へ?」
「チケットはこっちで手配するし、旅費からなにからこっちでもつから、後は翔馬君に頼んで小型翻訳機でも……」
平成18年12月15日の学校終わりに武文に呼び出されて、矢継ぎ早にそう言われた大牙は、一旦ストップをかけ、ゆっくり説明してもらうことにしたが、彼からおいしい話が唐突にある時は、大抵裏がある。
今回も例外ではなく、香港で仕事をしてほしいという内容だった。
もちろん断る理由など大牙にはないが、気がかりなのは滞在期間。理由もなく学校を休んで1週間も行くとなれば、過保護な透美が許すとは思えない。
しかし、武文はそこもちゃんと考えてあった。
「『ロシアの格闘大会で意気投合したファイターに誘われた』って言えばいいだろ? それに参加してたのは知ってるんだよね?」
「うっす。何でもありの大会だったことは言ってませんが」
それを確認し、問題無しと判断した武文は、今回の仕事はちょっとしたボーナスもあることを伝えた。
そのボーナスとは、1週間以内に仕事が片付いた場合に限り、残りの時間を観光にあててもいいというものだ。しかも、滞在期間中の旅費は武文持ちで。
予てから、香港スター好きの大牙が香港に旅行に行きたがっていたことを知っていた彼からのご褒美である。
それを聞いた大牙は、ハイジャンプするほど大喜びし、是が非でも仕事を早く切り上げて、満喫しようと心に誓った。
という経緯があって、今に至る。
「さーてと、んじゃそろそろ仕事に取りかかりますか。そのためにもまずは……」
そう言って大牙は、旅行鞄の中から出発前に武文に手渡された封筒を取り出し、中に入っていた地図を見た。
地図には赤ペンで〇が書かれている場所がある。武文いわく、ここに依頼人がいるらしい。
それを確認した大牙は、いざその地点へと向かおうとしたが、風になびいた地図の裏に何か書かれているのが目についた。
裏返して見てみると、そこには武文の字で、『※大男にご注意を。それと心の準備を忘れないように』と書かれていた。
意味がわからないなりにも嫌な予感が脳裏をよぎった大牙だったが、仕事をしないことには始まらないと思い、地図に記された場所へと歩みを進めた。
今回は白虎メインの回です。
彼にとって待望の香港でやることになったこの仕事。のっけから災難が待ってそうな予感です。




