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死獣神~死の書~  作者: 天馬光
29/110

ガールズトーク(6)

 闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。

 これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。

 それから時が経ち、すっかり日も落ちた午後8時頃。旅館の男湯で空しい思いをしている大牙と対照的に、壁1枚を隔てた女湯では、女子達が親睦を深めていた。

 もっとも、風呂場である以上、恒例の柚のセクハラ攻撃は免れないため、親睦のニュアンスは少し違うかもしれないが。

 とはいえ、ちゃんと健全な仲の深め方もしている。体の洗い合いや湯船でのガールズトークがそれである。


「ふにゃ~極楽極楽」

 湯船に浸かり、緩みきった表情で言った柚の言葉に、同じ湯船に浸かる未来も同感する。


 が、乙女と入れ替わった朋美はどこか浮かない顔をしている。

 よくよく考えてみると、さっきまで話していた乙女や千代に特に異変は無く、彼女に戻った途端こうなった。ということは必然的に、朋美しか抱えていない何かがあるということだ。


「どうしたの?」


「あ、ごめんなさい。実は私、お風呂がどうも苦手でして……」

 お風呂好きの自分からすればあり得ないセリフに、柚は一驚した。


 訳を尋ねると、朋美は虐待されていた過去を明かし、それが原因で、今ではよく現場になった風呂に強烈なトラウマを抱えていることを語った。

 そのせいで先に乙女達に入ってもらって状況に慣れないと、浸かることはおろか頭からシャワーを浴びることすらできないとも。


 日常生活に支障が出るほど深い心の傷とそのきっかけとなった壮絶な過去。それらを知らされた2人は、おかげで色々と合点がいった。

 朋美が普段から腰が低いのも、多重人格者になったのも、全部親からの虐待の影響だと。そう思うと彼女に対する同情を禁じ得ない。


 ただ、柚だけは少し違い、どうしても解せないことがあった。


「……ねぇ、朋美さん。1つ聞くけど、親が死んでどんな気持ち? 清々した?」

 人の心を抉るようなド直球の質問。未来は彼女を咎めたが、朋美は一切気にせず、真摯に答える。


「……柚さんはとても愛されていたんですね。だから、大切に思える。それは多分、未来さんも同じ、ですよね?」


「朋美さん……」


「気を使わなくて大丈夫です。柚さんの言うとおりですから。キララが両親を殺してくれた時、心の底から喜びましたし、そうしてくれたおかげで、今の私はそれなりに幸せですから」


「じゃあ……」


「ですがその反面、親殺しという大罪と殺し屋稼業を、キララに背負わせてしまっている。それが何よりも申し訳なくて、いつも後悔に苛まれています。なので、これ以上自分のような者を増やさないために、私は小学校の先生になって教育の現場でそんな子供達を救ってあげたいと思っています。それぐらいしか私にできることはありませんから」

 朋美の苦悩や将来の展望、彼女なりの贖罪の仕方を聞いたことで、柚は認識を改めた。


「殊勝な考えね。それに安心した。もしあなたが、親が死んで『ざまぁみろ』としか思ってなかったら、あなたのことを一生軽蔑していた。けど、今のあなたには、少なからず罪悪感がある。それだけで十分好感が持てる」


「そう言ってくださると救われます」

 そう言って朋美は頭を下げた。


 兄弟はいないが、いい両親に恵まれたの柚と未来。

 両親には恵まれなかったが、かけがえのない人格(きょうだい)を得ることができた朋美。

 互いを理解し、友情を深めた彼女達の幸福度は、さして変わらないのかもしれない。

 朋美が受けた虐待は、殴る蹴るや根性焼きの他にも、冬場に冷水や70℃以上の熱湯に沈められたり等、基本的に肉体や精神を深く傷付けるものばかりです。

 そんなひどい仕打ちを受け続けていれば、風呂嫌いや多重人格になっても仕方ありません。

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