07.騒乱①
『固パン1斤と、エールが1ガロン(4.5リットル)
一日おきのチーズと、油で揚げた玉ねぎが好き
出港したての最高の食事さ
干し肉一切れと、まずいオートミール
パンやチーズに湧いた蛆、油で揚げようと大嫌い
日を追うごとに落ちていく最低な食事
俺たちは蛮族たちを略奪して、強奪して
戦に勝てば、食事も酒も思いのままさ
さぁ、今日も獲物がまってるぜ
今日のお愉しみは、蛮族の島々や異教徒の船
誘拐して破壊して、思いのままさ
酒と女がまってるぜ』
エリクシア軍船乗りの唄(詠み人知らず ※一部海賊の唄から拝借した架空の唄です)
地球の16世紀頃の船上生活の食事は、軍艦であろうが商船であろうが、一日の楽しみの食事がこれでは、確かに海賊行為に走るのもわかりますね。獲物があれば、その日は豪勢な食事が出来るのですから……
夕食の右舷側展望デッキで、船酔いから復活を果たしたヘルガさんが、リュート(びわのような古代西洋の楽器)を奏でながら詩を歌ってくれました。唄はエリクシア語で歌われていましたが、殺伐とした唄の内容なのに、アップテンポで陽気な音楽に聞こえてしまいます。実際、TDLなんかでも歌われている『海賊の唄』は、陽気でアップテンポな曲ですが、村を略奪して、強奪することを楽しんでいる唄だそうです。意味がわからないのは幸いというやつですね。
左右両舷の展望デッキは、処女航海の時は倉庫として使用していましたが、士官用の食堂に改装されています。右舷展望デッキは女性用、左舷デッキは男性用で、お酒は展望デッキでのみ提供されています。
「唄とは違って、ずいぶんまともな食事ですわね。アレキサンドリアの海軍が強いのは、食事の差かしら?」
エリーゼさんは、トマトソースで味付けされたパスタを一口食べて、厳かにつぶやきました。一般には冷蔵庫などというものは存在していませんから、船での食事は保存食が中心です。しかも、暗く閉めっぽい船倉に、麻袋などに入れて積み上げられているだけですから、日を追うごとにパンやチーズには蛆が湧きます。樽に入れた水も腐っていきますので、エールやラム酒といった腐らないものが積み込まれますので、お酒が飲めないと船乗りになるのも大変そうです。
アレキサンドリアの船には、どの船も低温で保管する貯蔵庫がありますので、食事の質はそこまでひどくはありません。
「いや~、この船は特別ですよ。『四季』の食事と比較すれば別ですが、あたしが前に乗っていた『テテュス』に比べれば、天国と地獄の差がありますし」
そういうカレンさんはパンの他に、みずみずしいレタスの葉を使ったサラダと辛味成分入りのソーセージをおつまみに、冷えたジョッキでエールを飲み干しています。
「……『テテュス』ですか。これはまた、耳に痛い船名ですね」
ヘルガさんがつぶやきますが、カレンさんは全く動じません。『テテュス』は、アレキサンドリア海軍の三番艦で、主にアレキサンドリアの西の海を拠点に航海しています。当然エリクシア海軍と交戦した回数も多いので、船名をきけばエリクシアの人からすれば苦々しく思うのは仕方ありませんね。それに対して、カレンさんはサバサバしたもんです。
「唄にもあったように、エリクシアの軍船に襲われて、破壊された船なんていくつも見ましたよ、さらわれた女たちもね。見目好い女は「はいはい、そこまでですよ」……」
もう、カレンさんもヘルガさんも絡みすぎですよ。食事の時のお話ではありません。ちらりとイリスさんを見ると、イリスさんもカレンさん視線で押さえています。
「あははは、すみません艦長に班長。あたしはまだエールの入りが足りないようなんで、カウンターの方で飲みなおしてきます」
そう言いながら、お皿を持って移動していきます。後には空の大ジョッキが残されていますね。ヘルガさんも気まずそうな顔ですが、残念ながらエリクシアの船が、海にでれば海賊行為を平然と行っていたのは事実ですからね。
はぁ、思わずため息が出てしまいますが、微妙な空気はなんとかしないといけませんね。
「お客様に対して失礼しました。お互い立場も在りますので、この場は僕に免じてご容赦ください」
そういって、僕が指をパチンと鳴らすと、心得たスタッフがデザートのアイスクリームに、ホワイトチョコで作ったトリュフ風のデザートを運んできてくれます。
「細やかなお詫びの品ですが、どうぞ♪」
新たなスイーツは、気まずくなった雰囲気を見事に消し飛ばしてくれたようです。やはり女子にスイーツは最強の武器になる……かもしれません。
気まずい思いを払拭して、さて女子トークでも始まるかという時です。僕のタブレットに、通知が入りました。なんでしょうね、こんな時間に。そう思ってのぞいてみると……
『左舷側展望デッキにて、一部乗組員の乱闘騒ぎ発生
鎮圧済み
回収乞う #QA』
……思わず沈黙した僕に気付いたのか、イリスさんが僕を突きます。どちらにしても、衛生課の手は借りなければなりませんので、タブレットの画面をイリスさんにも見せます。
あっ、イリスさんの顔が引きつりましたね。そのまま、席を立ってカレン副班長に何か一言二言告げて、展望デッキを出ていきました。カレンさんはそのままカウンター席でエールをあおっています。今カレンさんが動くのは、目立ちますからね。同じ理由で僕も直ぐには動けませんし、ここはイリスさんに任せるとしましょう。どうせ、回収はデーゲンハルトと薬師の男性になるでしょうから……




