特別編 聖夜の記憶
クリスマスですので、お話を追加します。ちょっと短いですし、時系列的に数日ずれていますが、時期的にはQAが試験航海から帰港した頃になります。 尚、本編には関係は有りませんので、お楽しみいただければと思います。
明るく色とりどりのイルミネーションが輝く通りを見下ろし、ため息をつく。
気温は、凍えるような寒さだというのに、通りを歩く人々の顔はどこか楽しげで、寄り添う二人はさらに幸せそうだ。
部屋の灯りを消して、暖炉の火の明かりだけで照らされた室内は、炎が揺らぐ度に室内の調度品や人物の影を揺らし、影は壁面を踊る。
それはさながら集会に参加し、唄い笑う魔女のようだ。そう考えた部屋の主は、自分の考えに驚き一人笑う。
魔女……魔法を使う女性を魔女というのならば、この街に住まう女性は全て魔女だった。そう、彼女自身も含めて……
ここはアレキサンドリア共和国上層街。この大陸で知られている、最大の魔法使いの都市であり、難攻不落と唄われる魔法都市なのだから……
内外の温度差は相当あるはずなのに、通りに面したガラス窓は曇り一つなく窓の外を映し出していた。魔法は人々の生活を楽にしてきたが、近年ではさらに『電気』なるものが共和国内の様々な場所に普及してきている。
上層街だけではなく、大河を抱くこの台地上の村や町、風の精霊の行きかう木立の上などに設置された『発電機』は、それまで魔法のみで維持されてきた様々なものを、魔力の無い一般国民に幅広く普及することを可能とした。
国内でやや余剰となった魔石は、下層街やチッタ・アベルタへ回すことが可能となり、その恩恵を与えていく。夜間の照明は、すでにこの国では当たり前の光景となっていた。
外を行きかう人々に意識を向けると、色とりどりの髪や瞳の色の人々が、イルミネーションに照らし出されて、まるで照らし出された水槽を泳ぐ、色鮮やかな熱帯魚のようだ。
いや、逆に暗い室内で来るかどうかも分からない人を待つ自分は、通りを歩く人々から見れば、水槽の中でじっとしている深海魚なのかもしれない……
不意に輝く通りを、黄金色の二つの光と艶やかに輝く白と黒の対になった輝きが通り過ぎるのを目にして、息を飲んだ。視線の先、四人の後ろを長身の男性二名がついて歩いている。目立つ少女たちに近寄る男共を、多種多様な手段で撃退しているようだ。
護衛と言う訳ではないようだが、淡い黄金の髪にアイスブルーの瞳をもった青年と、黒髪黒瞳のやや少年っぽさを残した青年の二人は、四人の少女について店に入ろうとして、白銀のように輝く髪の少女にストップをかけられている。
イルミネーションに照らされて、普段でも美しい白髪は、様々な灯りを映して虹色にきらめいている。
店内に入ろうとして断られるのは無理も無い。その店はこの日ばかりは女性以外は立ち入り禁止となるのだ。
数年前から始まった新年祭の一週間前の今日は、通りの向こうの店、『四季』はいつも満員で予約をしなければ席が確保されないのだ。しかも、今日という日は店内に入ることができるのは、女性だけと限定されている。
そんな中に、見目良い二人の男性を連れて入れば、いささか普通ではない四人組でも、周囲の乙女たちの瞳には殺意がこもるであろう。
とはいえ、カップルで四季での食事を楽しみたいという要望も多く、通りの反対側の一軒家を買い取り、ゲストハウスに改装した邸宅の一室がこの部屋である。
部屋数はわずかに六室。しかも、今日はそのオープン初日であり、プラチナカードと化した六部屋のレンタルチケットは、あまりにも貴重な為に当選したものの氏名は伏せられるまでの異常事態となったのだが……
意識を通りに戻すと、通りでは白い髪の少女と黒い髪の青年が、なにやら言い争いをしているようだ。かたや長身の青年と、その胸元程度の身長しかない少女の言い争いは、我儘妹と過保護の兄二人の兄妹のようにみえて、つい笑みが浮かんでしまう。
そして、不意に思う……
いつからだろう? 少し前までは、同じような言い争いを見ていても、心に黒いものが沸き起こっていたはずなのに、今は微笑ましい?
二人の言い争いは、呆れたように肩をすくめた淡い金髪の青年が、黒髪の青年の方を軽くたたいて、白髪の少女が指をさす方向、このゲストハウスへ向かって歩き出した。
やがて、ドアが開く音とくぐもった話し声…… 礼儀正しく応対する店員の声がわずかに聞こえ、胸が高鳴りだしていく……
コツコツコツ……
靴の奏でる音が二つ。片方が歩みを止め、また少し話し声……
しばらくして、別な部屋のドアが開く音がすると、しばらくの間……
どきどきどき……高鳴る鼓動に、ふと窓の外をみると、しばらくこちらの様子をうかがっていたのであろう四人の影が、手を振り『四季』の中へと消えていった……
コツン……コツン……
ためらうように進んだ靴音は、もうドアの前。
軽いノックの音と共に、覗き込んだ途端に点いた部屋の明かりに目を細める、黒髪黒瞳の青年に彼女は明るく声をかけた。
「いらっしゃいませ、リアン様」
テーブルの上には『四季』ご自慢のスイーツが並び、二人の為だけに用意された目新しいものさえあった。目を白黒させているリアンの手を引き、対面の席へと案内した……
……それはある日の夢物語。彼女の思いが四人の天使(小悪魔?)によって、黒髪の朴念仁に伝わった日の、ささやかな思い出……
*****
「で、貴女のほうはどうなのさ。いつものようにだんまりじゃ、何も伝わらないわよ」
雪のちらつきだした上層街の女性専用バーである。四人掛けの小さなボックスシートだが、遮音障壁と小型のスピーカーなる音源から流れる音楽は、心地よい居場所を提供してくれる。
とはいえ、それは相手次第である。目の前で大きなジョッキで冷やしたエールをあおりながらこちらをねめつけるカレンは、この場所には不向きであったろう。
「……別に私は彼を気にしてる訳じゃない……
あの人は女癖も悪いし、私のシルフもあの人を嫌っている……」
淡い青に染まったカクテルを、舐めるように飲んでいるのは、ライラ・スライ。QAの一番機第一班の砲手を務めている、口数は少ないが風の精霊王と契約を結んでいる国内屈指の精霊魔法使いでもある。
「あんたねぇ、そんな事いってもみんな知ってるわよ? 彼の為に貴女が砲術士がしない飛行補助にシルフを使ってるって。
当人は全部自分の実力だと思って、今日も別な子を誘って遊んでるんでしょ?」
むぅっとライラはむくれた。そして改めてカレンに主張する。自分は、一番機の操縦士であるディランの相方として、必要最低限の補助をお願いしているだけだと……
カレンはジョッキのエールを飲み干し、ため息をつく。ライラの気持ちはわからないでもないが、そろそろ『シルフ』の機嫌が限界に近づいている。
精霊は本来気まぐれなモノであり、加護を与えるのも剥奪するのもシルフ次第である。このままでは、貴重な精霊使いを失うことになるのが目に見えている。
「……まぁ、いいわ。私より貴女のほうが『シルフ』の状況はわかっているでしょう? 残念だけど、彼は野心家でもあるわ。それも、タダの見えっぱりなだけ。
彼はおそらくその所為で、空から落ちることになる。貴女がそれに巻き込まれるのは避けて頂戴。貴女の姉としてだけじゃなく、元精霊使いとしての忠告よ。精霊王の力は大きい故に、失えばそれは長期の負担になるわ。貴女の身体自身にもね……」
カレンの言葉に、黙ってうなずいたライラである。そう、彼にチャンスを与えるのは次の航海で最後にする……
「……But we are never ever ever ever getting backBut we are never ever ever ever getting back……」
「よりを戻すことはないって……貴女たち、そもそも付き合ってもいないでしょ。まずは、ちゃんと付き合える男を見つけなさい!!」
「……姉さんウルサイ。そもそも、お尻の軽くて大酒のみの姉さんが、ウンディーネに何故好かれたかのほうが不思議。それこそ、ポセイドニアなら納得……」
「誰がお尻が軽いんだってぇ~ ウンディーネの加護は子供の時にいただいたんだから、その時点で大酒のみなんて人聞きの悪い事いわないでよね!!
それに、自慢じゃないけど、あたしはいつも惚れられるのが先だし、あんな軽薄男に引っかかったことはない!!」
「……あの人が軽薄なのは認める! でも、私も引っかかったわけじゃない……」
……姉妹の夜は続くのであった……




