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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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08.騒乱②

「くそっ、面白くないぜ」


 よほど腹に据えかねたのか、厳(いか)つい身体を震わせた大柄の男の隣で、砲雷長であるアンソニーは内心で肩をすくめていた。


 隣に座る男の名前を、エリオット・スミスという。身長百九十センチ、体重も百キロを越す巨漢であり、ワインレッドの髪にダークブラウンの髪を持った二十一歳の男である。今回のQ(クイーン)A(アレキサンドリア)の乗員補充に際して、紅家のメイソン・スミスがねじ込んできた男でもあり、現紅家頭首エリックの弟の嫡男であった。

 紅家の中でも、やや強引な性格と上昇志向を持つ事は知られており、彼を苦手とする係累の者は多い。他の一族の者と同様に、アンソニーも彼を忌避していたのだが、現当主であるエリックから直々に面倒を見る事を依頼されて、しかたなく付き合っている状態であった。


 右舷二番魔導砲の演習時の砲手を務めていたエリオットは、死角を突いて艦橋直前に現れたディランの操縦する飛空艇を発見し撃墜判定を与えた。

 撃墜判定を与えたことは問題はなかったが、エリオットの右舷二番魔導砲から、ディランの機体を撃墜するためには射線上に艦橋構造物が入るため、砲塔はその旋回角をえる事ができない。

 本来であれば、左舷の二番か三番の魔導砲に連絡し、艦橋構造物を射線に入れないように撃つべきである。しかし、エリオットは砲の安全装置を解除して射撃を敢行した事で、自分自身が撃墜の手柄をあげたのだ。


(……実際、砲手としての腕は良い。だが、この艦には致命的に向いていないな)


 アンソニーはそう考える。乗船して二日目という短期間で、艦載の魔導砲を使いこなしているのは、大したものであった。

 しかし身体的には、百九十センチを超える大柄で筋肉質な彼の身体は、艦内の各処を仕切る水密扉を通過するのには、徹底的に向いていないのである。実際に何度も頭をぶつけているが、これは彼ばかりのせいではない。クロエが設計した時に、自分自身が小柄である事で、大柄な人間がいる事に配慮を欠いたせいもある。

 だが、一番は性格的な問題であろう。紅家本流の家柄と能力の高さは、プライドの高さと上昇志向の強さを産み、自分自身が成果を上げるためならルールを無視する傾向が強い。

 アンソニーを始めとする、処女航海から乗艦した乗組員は、艦橋への被弾を受けたQ(クイーン)A(アレキサンドリア)を忘れていない。その事もあって、他の乗組員のエリオットへの風当たりも強く、射撃後に一番及び三番魔導砲が射撃した事にも喝采を送る者も多かった(事実としては、いつものごとく砲が自動的に発砲したのだが、他の砲塔の砲術士たちがそれらを止めなかったのは事実である)。


 あおるようにエールを飲み干すと、エリオットは更にお代わりを要求したが、既に割り当ての量を飲み干していたため、展望デッキのスタッフにやんわりと拒否されてしまう。

 アレキサンドリア海軍でも、一人当たりの食事の量とエールなどの酒類は一日当たりの配給量が定まっており、食事は基本的にお代わりは出来ず、お酒類はエール一ガロン(四リットル半)である。

 Q(クイーン)A(アレキサンドリア)では、造水機があるために各区画内の給水所で補充ができ、乗組員は、革製の水袋や水筒などに入れて飲用するために、他の船と異なり水分代わりにエールを飲む必要はないのだが、男性乗組員から配給量を減らす事にクレームが付き、他の船と同量が支給されている。エリオットは配給量である四リットル半のエールを飲み干してしまっているのだから、更なるお代わりを断られるのは当然の事であった。

 アンソニーの様な士官であれば、多少の融通はきくが、それとて無理を言えばスタッフから補給科の班長に連絡されてしまう。無理を言えば、船務長のユイに連絡がいき、当然艦長であるクロエも知る事になってしまうため、そんな無理をする者はない。


「まったく、この船は俺を馬鹿にしてやがる。酒も飯も好きなだけ食えやしねぇ」


 口汚く喚くエリオットに対し、さすがに周囲の青家出身の乗組員から、複数の非難の声が上がった。


「おいおい、陸の上じゃないんだ。際限なく食えるわけがないだろ。これだから陸の奴らは使えないんだ」


「こいつ、砲雷科の奴だろ。例の左舷二番魔導砲の砲手じゃないか。艦橋を射線にいれて砲を撃つなんて、馬鹿じゃないか」


 新参の青家の乗組員からは、船乗りとしての素養をあげつらわれ、古参の乗組員からは艦を危険にさらした行為に非難の声があがった。酔ったエリオットが無言で立ち上がり周囲をにらむと、さすがにこれはまずいかとアンソニーも思った。その矢先に致命的な声がかかったのである。


「へぇ、こんな図体だけのでか物が僕の見せ場を台無しにしてくれたのかい? 砲雷長、これは貴方が、いや紅(・)家(・)が(・)青(・)家(・)の(・)邪(・)魔(・)を(・)し(・)た(・)と考えて良いんですね?」


 最悪のタイミングで、ディランが展望デッキに現われてしまったのだ。機体の洗浄に時間がかかり、気分転換も兼ねていつもの艦内食堂ではなく、展望デッキで食事をとろうとしたディランの目の前に、彼を赤く染めた張本人が居る。一日中腹立たしい思いをしていたのは、エリオットばかりではなく、ディランもだったのだから、一気に険悪な雰囲気になった。

 増員された乗組員の中で、新規と古参、青家と紅家の確執が、ディランの自身を良く見せようとする演出のために表面化してしまったのだ。普通の船であれば、圧倒的多数の青家の系譜に連なる船員ばかりなので、問題は大きくなることは無い。

 しかしQ(クイーン)A(アレキサンドリア)では、普段は洋上にでない紅家の系譜の者が多数乗艦しており、人数比はほぼ同数である。人数差による抑制は効かず、歯止めが効かなかったことによって、艦内での騒乱が発生してしまったのである。


 とっさにエリオットを止めようと、ディランとの間に割って入ったアンソニーであったが、不幸にもディランの蹴りが背中に入ったところに、エリオットの右フックが顔面に決まってしまう。

 馬鹿力で跳ね飛ばされたアンソニーが、青家の新米乗組員を数名巻き込んで倒れこむと、一気に乱闘が始まってしまった。皿やグラスが飛び交い、料理や酒が床に散乱すると、古参の乗組員は即刻避難を決め込み、スタッフはカウンター内に避難し物理障壁をはる。当然のごとく、剣呑(けんのん)な雰囲気になった時点で、保安要員が駆けつけてくるだろうことから、無理に止めようとするスタッフはいなかった。

 紅家青家それぞれ数名づつの乱闘であったが、大本であるエリオットとディラン以外の乱闘は、あっという間に沈静化された。そこに現われた白(・)髪(・)碧(・)眼(・)の小柄な少女によって……

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