4.孤島のリゾート
「えっ? イリスさん、正気ですか?」
南海の孤島、アネル・デュプロから帰ってきた翌日のことです。思いがけないイリスさんの言葉に、僕はイリスさんの正気を疑ってしまいます。
「えぇ、今ならまだ軍用施設もありませんもの、見られても困る物はあちらにはないでしょ? それに転移門があるなら、軍の施設に入る必要もないですし、それなら問題ないじゃない?」
なんでしょう? 最近妙にイリスさんが弾けてるような気がするんですが。
「だからって、エリーゼさん達をアネル・デュプロに連れていくってのは、まずくありません? レギニータはまだしも、クラリス、サンドラといった魔法医療学女子学生にコリーヌさんもですか……」
僕の言葉に、うんうんうなづくイリスさんと、なぜかユイまでうなづいています。イリスさんだけならまだ分かりますが、常識的なユイまでうなづくなんて、さすがに僕でも疑問に思ってしまいます。
「……ねぇ、イリスさん。最近の弾けっぷりが半端ないんですが、いったい何があったんです?」
なんか生き急いでいるというか、慌ただしく思い出作りをしているような気がとてもするのですが……変な病気にかかって余命があと僅かとか言わないでくださいよ?
「だって、クロエが言ったんじゃない。『女の子が女の子として楽しめる時期は短いんですよ。今僕たちが会っている娘たちだって、国に帰ればお嫁に行ったり、2度と会えない娘だっているんです。だから、思い出作りは大切なんだって』」
ちょっと待って。僕はそんな事を言った記憶はありませんよ、いや……まさかとは思いますが……
「……よもやと思いますが、それって……」
僕が口を閉じると、イリスさんとユイがそろって言います。
「「決まってるじゃない。新年祭で舞台上で熱唱しながら言ってたのよ」」
うわぁぁぁぁぁ、なんていう羞恥地獄。まるで、どこかのおっさんみたいなセリフじゃないですか!! 恥ずかしすぎる、わ、忘れてください!!
「……一応、アネル・デュプロは軍として租借したので、軍に話を通さないと無理だと……」
「貴女が言い放ったセリフをきいていたアレクシア様と母が感動してたのよ? 既に軍の了解も得ていますわ。軍として施設の工事を開始するまでは、あくまでも唯の南海の孤島なんだから問題はないとのことよ」
ぐう、あの二人も聴いていたのですか。って事はイェンさんやワイアットにリアン、アーシャも知ってるんですね。アーシャ……既に噂として広めている可能性は高いですよねぇ……
僕の心に『絶望』とか『手遅れ』という文字が浮かびます。残念ながら、既に僕の力ではこの流れを止めることはできないようです。
*****
翌週の休日初日に、アレキサンドリア上層街から1度目の転移を行い、まずは『四季』や『思い出』の店員さんをアネル・デュプロに送り届けます。当然大量の食材や機材もあわせての移動です。軍事区画の工事段階から、この2店はあちらに出店しますからね。
その際に、シー・カンディル避けの魔道具も設置して、更衣室やシャワールーム・汚物浄化装置付きのトイレなどの簡易施設も併せて設置しました。さすがに上層街の人たちは、真冬なのに、指示通りにしっかりと水着や夏服を用意していましたよ……
そのままユイやイリスさんと共に、開放都市に移動して、集合場所である『四季 チッタ・アペルタ店』に向かいます。そこには、レギニータを含めた魔法医療学の女子学生だけでなく、コリーヌさんやギルドの受付嬢パトリシアさんの姿まで……
一体どこまで声をかけたのでしょうか? まあ、さすがに女性だけに限定されてますが、それはそれで僕の精神がヤスリ掛けされる未来しか見えません。
「ユイ講師、春先とはいえまだ寒い最中に、水着や夏服を準備して集まるとはどういう事なんです? そもそも、私やクラリスは山国育ちなのでそういったものは……」
「はいはい、わかってますよぉ。コリーヌさんとクラリスさんの水着は、『四季 チッタ・アペルタ店』で用意しました。寸法はアルバイト時の制服から想定してあります」
店長……良い仕事しますね。コリーヌさんが少し引いている気もしますが、僕に被害はないので良いことにします。
「エリーゼさん達も用意はしましたわね? 今日明日は、皆さんの普段の立場も国の関係も忘れて、楽しむという点には問題はないでしょうね? 特に貴族のお嬢様方?」
イリスさんの念入りの注意です。エリーゼさんやコリーヌさん、サンドラさんをジロリと見渡します。さすがに否やは無い様で、皆さんうなづきます。
「準備が良いようですね。では皆さん、目をつぶってくださいね」
僕は一通り見渡して、問題が無いようですので、転移魔法を発動しました。直後、『四季 チッタ・アペルタ店』の一室には誰の姿もなく、わずかに風が渦巻くだけでした。
*****
南国の強烈な太陽が肌を焼き、皆さんが目を開けた瞬間に呆然とした様子を浮かべます。ここは既にレギニータの母国、アルムニュール国であり、アレキサンドリアからは3000km弱離れた絶海の孤島です。
「ここはレギニータの母国にある島ですが、詳しい事は内緒です。
あぁレギニータ、この付近のシー・カンディルは駆除済みだから、普通の人が海に入っても大丈夫なので慌てなくていいよ
貴族のお嬢様方とそのお付きの方々、ここには女性しかいないので肌をさらしても問題ありませんよ。着替え用の更衣室やシャワー室、トイレはこちらにありますからね」
一通り説明が終わると、僕は今日の宿泊の為の施設の設置をしなければなりません。設置場所に移動しながら周囲をみていると、肌をさらす事に対する抵抗からか、着替えをとまどっている人たちもいましたが、女性だけという気安さと、南国特有の暑さに開放感から、早々に開き直って更衣室に移動していきます。
途中で呆けていたエリーゼさん達を見かけましたが、エリーゼさんが大胆にもその場で着替えを始めたので、僕は慌てて目をそらせてその場を逃げ出しました。
お付きのレーナさん達もアワアワしてますね。あぁ、高位貴族のお嬢様は、着替えもメイドたちがさせる場合もあるから人目も気にしないんですね。
宿泊用のロッジとして、家出娘の天国(Heaven of my elopement daughter)を簡易的にして、外見を円形の水上コテージ風にしたものを、礁湖に浮かべます。
水上コテージの外見は普通に茅葺き屋根に木造構造に見えますが、南国特有のハリケーンや豪雨、海水による浸食への耐久力強化を施してあります。もちろんトイレ・シャワー室は小さいながらも浄化装置付きのものが各部屋の水中部分に設置されていますし、海中部は強化ガラスで作る事によって、サンゴ礁をいく熱帯魚などが見ることができる構造です。コテージから直接礁湖に降りる事ができるように、階段も設置されており、どこかのリゾートの様ですね。
コテージ間は、これも木製に見える桟橋でつないでありますので、こちらは保養区画としてこのまま使用することになっています。
施設の制作費用などは、全て白家・黒家が合同で出資していますので、今後も両家合同で運営される施設です。
僕は意識していませんでしたが、実はアイオライトで初のリゾート施設だったようですね。人魚族の方々とのお約束通り、来ることができれば利用は可能ですが、テネリなどからの定期便が有る訳ではないので、利用者は人魚族の方とアレキサンドリアの軍人だけになるでしょうけど。
僕がコテージを設置している間に、リリーさんとイリスさんで似たような外見の療養所を設置していました。こちらは、アレキサンドリアにすぐに戻れるため病室などを用意することが無い為、けっこうこぢんまりとした作りです。
他にも商業区画に、『四季』と『思い出』の仮設店舗が設置されていたり、パラソルにビーチチェアやテーブルなどが設置されていたりと、保養区画はほぼ完成したようねものですね。今日は完成記念の先行ご招待といった感じになっています。
やれやれ、どうにか僕のお仕事は完了したようですから、ハンモックで揺れながらひと眠りすることにしましょう……




