16.実習という名の(準備段階)
「実習? なんの?」
僕は、目の前に立つイリスの発言内容の意味がつかめずに、鸚鵡返しに問い直します。
「アレクシア様から聞いてないんですの? 例の『銃』の試作品2点と、『ショックガン・クロ「お願いだから、その呼び方は止めて!」』……のデータを取る為に、西岸区画の村に出ているゴブリンとオークの討伐依頼をこなすんですのよ」
「イリス、幾分口調が砕けてきてない? 最初と雰囲気違うんだけど。」
僕がそう言うと、イリスは貴女には気取った話し方をしても仕方ないでしょと返された。まあ、変にお嬢様っぽい言葉を使われるよりは良いかと思うけどね。
「うん。そのほうが僕も好きかな。可愛らしいし」
そういうと、ボッと火がついたように赤面したイリス。これがかの噂の『ツンデレ』なのか? 違う? そうなんだ。少し残念。
「ふ~ん、でも学院の授業に問題はないのかなぁ? ある意味実戦だよね。まさか、2人で行くの? ゴブリンは数がいるから、それなりに危険じゃない?」
講義室をでて、廊下を学生課に向って歩きながら、イリスと並んで話を続けます。
「まさか。一応火薬式の銃は、国内では使用禁止ですわ。今回はデータを取るためということで、ギルドを通していますが、東岸地域はエルフ族の居住区が近いので、音が迷惑になりますでしょ。だから西岸地区になるのですが……」
「? 何か問題でもあるの?」
僕が問いかけると、イリスが断固とした口調で言いました。
「田舎ですのよ! 村しかないんですわ」
「? 村だと何か問題あるの?」
正直意味が解りません。僕が意味を理解してないと解ると、なぜか余計に怒りが増したようです。キッっという擬音さえ聞こえるような目つきで睨まれます。
「なんでわかりませんの? 村よ、村! しかもゴブリンが近くに住むような村なんですから、宿屋とか無いんじゃないの? 私、野宿なんてごめんですわよ!」
あ~、学外だと一応制服着用が定められているしね。この姿で野営はちょっと遠慮したいかも。僕が同意すると、イリスの機嫌もおさまったようです。
「ちょうど学生課にいく事だし、その辺も確認してみればいいんじゃない?」
学生課のドアの前で、インターホンのような魔道具に触れ、組・学番・名前を告げます。
「年少組 45番 クロエ・ウィンター 及び 1番 イリス・エアリー 入ります」
カチリと音がして、ロックが解除されると、ドアが開きます。ここは、漏洩魔力だけでは入室できないのです。その理由の一つが……
「おお、わざわざすまないね。」
そういって、年配の男性が立ち上がります。
「クロエ、私はあちらで先程の件を確認してきますわ」
イリスはそういって、奥の方へと進んでいきました。早く終わったほうが、追いかけるように打ち合わせ済みです。年配の男性が2つの金属ケースを差し出します。そう、魔道具の受け渡しも兼ねている場所だからなのです。
「これがエリック殿より預かっていた君の魔道具になる。魔道具は取扱規定に従い、慎重に扱うようにね。必要時以外は他の者の目に触れないようにしておく事。
特に、クロエ君のものは他人が興味を示しやすいから注意するようにとのエリック殿からの伝言もあったよ。」
僕はあははと苦笑いするしか有りません。
「中を確認しても?」
僕がそう言うと、年配の男性が肯きます。
「良ければ、一緒に見ていても構わないかな? エリック殿があんな伝言をするくらいだから、興味があってね。」
「私も拝見させていただきますわ」
あ、イリスも帰ってきたのか。僕は肯いて金属ケースの一つを開きました。さすが、エリックさんですね。僕が書いた絵の様なものから、ここまで完成させるなんて。
ケースの中には、2丁の銃が入っています。全体は黒色に染まってるのかな?地金の色には見えませんが、僕の手に合わせてグリップやトリガーの機構は小さめですが、銃身は指定どおりの10インチ(約25cm)で、シリンダーやグリップ込みだと30cmをやや超える物になります。
ロック機構を解除し、シリンダーを左に振り出すと、スピードローダーを模したものでシリンダーに小型の空魔石を装填。シリンダーを元に戻してロック機構をオン。引き続き属性変更機構を使用し、シリンダーを6回回転させます。機構的には問題なく動作するようだね。続けて2丁目も同様の操作を行い、問題が無い事を確認します。
一連の流れを見ていた、イリスと年配の男性が呆気に採られてますね。2つめの金属ケースにはオプションが入っています。ケースを開け、ピストルスコープを左右の銃にとりつけ、照準を合わせます。自動で焦点が合いますね。こちらも問題ないようです。その他には大容量の魔石を装着する為の、一粒弾と名付けたシリンダーですが、こちらは魔石は支給されていないので、受領だけに留めます。残りはホルスターですね。一つはヒップホルスターで、腰の後ろに銃を固定する為のもの。こちらはスカートの上に着け、上着で自然に隠れるようになっています。銃を収納すると、収納部ごと亜空間に転送され、一見皮のベルトを巻いているようにしか見えません。もう一丁用はここでは装着できませんね。レッグホルスターなので、スカートをまくる必要がありますし。こちらには銃を収めるだけにしておきましょう。スコープや予備弾倉なども、ヒップホルスターの所定位置にセットすると、亜空間収納されます。
空になった金属ケースを、年配の男性に差し出すとハッと気付いて受け取ってくれました。
「う~ん、確かにこれなら他の学生どころか、教官でも興味をしめすね。くれぐれも必要以外取り出さないようにね」
年配の男性の言葉に頷き、僕達は学生課を後にしますが、その前にレッグホルスターを着けるので、男性に反対側を向いてもらって装着が完了です。じゃ、行きましょうか。
学生課を後にして、イリスと再び歩き出します。
「さっきの話もあるから、サロンの方に行く?」
イリスに声をかけると、なぜか少しぼーっとしてる様ですね。
「イリス?」
再度声をかけると、復帰したようですね。
「あ~、エリック様が言ってたの判りましたわ。あの魔道具は別な意味で美しいというか、怪しい魅力があるのですね」
「あ~、解るかも。アレクシアさんも、帰ってきたら一度貸しなさいって言ってたし、自分専用のサブウエポンとして作らせようとしてたよ」
「それにしても、あんな処に装備するなんて……、私だったら恥ずかしくて取り出せませんわ」
イリスと話をしながら、サロンに向って歩いていった通路の所々に、二人の会話を聞いて誤解した妄想力逞しい男子の一部が屍をさらしていた事は、二人とも気付く事はなかった。
サロンは少し高級な紅茶やお茶請けが出るのだけど、わざわざきたのは個室があるからなんだよね。だからといって、へんなことはできないのでご安心を。
受付を済ませて個室にはいると、そこは中庭を見下ろすサンルーム的な作り。向いの棟の屋上から丸見えなので、変な事はできないのだよ。一番の売りは防音だしね。
「それで、イリス? 泊まる所はやっぱり野宿なの?」
僕の質問に、イリスは答えてくれました。
「どうやら村に1軒だけある宿屋を一週間借り切っているそうです。部屋数は2人部屋が二部屋」
「ということは、最低後一人以上は来るってことだよね。僕も今日から魔法は使えるけど、三人パーティーとは考えにくいから二人は来るとは思うな」
「ええ、ただ相手が誰かは教えてくれないのよね。お母様もエリック様もです」
そういって、イリスも思案顔をしてる。
「まあ、男女どちらが来るか解らないけど、標本回収用に村の人や治安維持についている自警団の人も来るんでしょ?」
「そうですわね。一応携帯食や簡易テントなどは用意して、亜空間に入れてありますし」
さすがに、イリスは準備がいいなぁ。じゃあ、特に他に用意するものは無いのかな? イリスに確認すると、一応緊急用医療パックと非常食セットをいれたリュックは用意するように言われた。
万が一、魔法が使えない状況に陥った場合に備えて、亜空間収納にいれない状態のものも必要らしい。何がしかの要因で、パーティーが分断される可能性も考慮に入れる点と、今回は火薬式の銃も使用する。暴発や音に驚いた野生動物・魔獣の動きまでは予想が着かないからだ。
「そういえば、今日魔道具を受領したのに、扱い方の練習はしないで実戦にでて大丈夫なんですの?」
イリスの指摘がありましたが、心配は要りません。
「結構何度も試射とかしてるしね。今回は直接相手を攻撃する武器でもあるから、練習もしっかりしたし」
そういうと、イリスも興味を持ったようですね。どんな練習をしたのよと聞いてきたので、アレクシアさんとエリックさんに、部品だけもらってくみ上げた2つの物体を、イリスに見せます。
それは、銃型の赤い光を投射するレーザーポインターの様なものと、ドローンに似せて作った空中を移動する標的です。停止時間は選べますが、ランダムに部屋を飛び回る標的に、赤い光を当てると『Hit!』と音声がでる簡単なものですね。
室内を飛ばして、イリスに見せてあげます。ふふん、もう簡単ですよ。あっという間に撃墜します。
「イリスもやってみる? 引き金を引いて、1分以内に目標に光を当てられれば勝ちだよ」
「やりますわよ。貴女にできて私にできないはず無いでしょう」
イリスは初挑戦なので、まずは空中静止で10秒後、ランダムに移動し、静止時間も5秒~1秒に段階的に短くなるように設定します。
「イリス、準備はいい?」
僕がそう聞くと、まっかせなさいと答えるイリス。
「じゃ、始め!」
目標が室内を移動し、直ぐにホバリングに入ります。ホバリング4秒で、イリスはターゲットを撃破。『Hit!』と音声が流れます。
移動して静止4秒のターゲットがギリギリ命中させますが、3秒以内では流石に当てられませんね。それでも、最初から当てられるのだからたいしたものです。
「あ~、2回しか当てられなかったですわね。ねね、クロエ。もう一回やらせなさいよ」
だから、イリス。誤解を招くような表現はやめようよ。もう一回だけだよと念を押し、再度飛ばすと、今度は3秒停止に命中。
おっ、凄いと思ったその時でした。そう、僕達は忘れていたのです。ここが、サロンであり、紅茶や甘味が提供される店である事。そして、頼んだ紅茶はまだ届いていなかった事に……
個室のドアが開き、ティーセットを運んできたメイドさん(リアルメイドです!)の前を、ドローンモドキが通り過ぎて、イリスがそれを狙ってポインターを照射。
狙いは外れて、メイドさんの額にポインターが当たります。響く悲鳴とともに、ドローンモドキが開いたドアから通路に出て行ってしまいます。倒れるメイドさんを見たイリスが慌てますが、僕はドローンモドキをみて慌てます。
「だめっ」
咄嗟に背後に手を回し、出現したヒップホルスターから『ガンブレード・クロエedtion1_R』を抜き、ショックモードで狙撃し直ぐにホルスターに収納。
「イリス、逃げるよ!」
とイリスに声をかけ、落下したドローンモドキの残骸を回収。悲鳴に集まってきた人々の隙間をぬって逃げ出しました。
……一時間後、僕とイリスは自宅でにっこり笑うアレクシアさんに拘束されていました。サロンの個室の貸出し記録に、逃げる白髪と金髪の二人組みなんて、簡単に個人特定されてしまいますよね。
イリスが何で私までと騒いでいますが、今回はイリスも共犯ですよ。諦めて下さいね。結局、僕はアレクシアさんとイリスの分のドローンモドキの製作を約束させられ、学院での騒動をしってやって来たエリックさんが、人が乗れるドローンモドキ(僕はすでにヘリコプターじゃないかと思う)を作ろうと意気込むのを必死で止める羽目になったのです。ま、まぁいいよね? ダ・ヴィンチが絵図を描いたのは15世紀の事だし、アイオライトにもきっとどこかにあるはず(有って下さい。お願いします)……
きっと、電動機もスクリューもあるこの国じゃなくても、いつかは実用化されたよね? お願いそう言って、ね?




