8, 魔界の玉座
1ヶ月後。
パレードを得て、私たちは魔界へ繋がる扉へと足を進めた。
メンバーは、勇者シュンと聖女ニルドア、そして万が一魔王が降伏した際に契約などを取り付けられるよう、第一王子が。また、騎士団の団長副団長であるキースさんとステラさん、そして魔法団から何人か派遣してもらい、プラスで実力のある学生で、計10人だ。
「〜♪」
「ヴィオラ、どうしたの?」
「何でも」
旅の道中、思わず私は何度か鼻歌を歌うくらいには心が踊っていた。
ニルドアからは心配されたし、キースさん達からは物凄い睨まれてるけど…まっ、どうでも良い。
☆
数週間ほど歩き続け、魔界へ続く扉についた。
それは、裏表に綺麗な装飾がされた黒く巨大な門のような扉。裏から開けても表から開けても、魔界へ繋がる不思議な作りだ。
「…ここです」
神妙な顔で、ニルドアが言う。
何を隠そう、私とニルドアは5歳の時、この扉を誤って開けてしまい、魔界へ行ってしまったのだ。
勇者や騎士団の人たちは顔を暗くさせ、
「大丈夫、ニルドア。異世界から来た俺がいる。君のことは守るし、君の友人であるヴィオラも助けるから」
「そうですよ。恐怖はいつか乗り越えなくてはなりません。ご友人の事を一番に考えていらっしゃるニルドア様なら、きっと出来ます」
ステラさんがそう言うと、隣にいたキースさんがうんうんと頷く。
わかりやすく笑顔になったニルドアは、勇者の腕に自分の腕を絡ませる。
「では…開きます」
ゆっくりと扉に手をかける。
すると、ギイィ…と言う音と共に、扉が開く。
「ッ…これが…」
扉の先には、真っ赤な空に鳥の魔物が飛ぶ、赤黒い幹と葉の木々がまばらに生える森が広がっていた。
「行こう」
「はい!」
勇者の声と共に、全員が中に入って行った。
☆
「…魔族が…魔物が襲って来ないな」
「えぇ…どう言うことでしょう」
勇者とニルドアの言う通り、私達は一向に襲われない。
普通なら襲われるのだが、今回は私がいる。
魔界に存在する、家屋のある街を歩いている私たちを、窓から魔族達が見ている。
が、どの人達もチラッと見てカーテンを閉めたり、建物の陰にいる人は私と目が合うと軽く会釈したり、大きく腰を曲げて礼をしたり…子供だと、大きく手を振ったりもする。
勿論勇者を歓迎しているわけではない。
「ね、ねぇヴィオラ。貴女は覚えてる?魔界でのこと…」
「覚えてるけど…なに?教えて欲しいことでもあるの?」
「あ、いや…その、ね。ヴィオラにとっては、嫌じゃないかなあっ、て…」
今更?と思う。が、答える前に、すぐ目の前に誰かがテレポートしてくる軌道が見えた。
全員が即座に剣や杖を構える。
が、勇者一行の前に現れたその人…マモンは、にっこりと笑ったまま一礼する。
「ようこそ、勇者御一行様。僕は今回、あなた方の案内役を承りました」
☆
その後、マモンの案内で、バカ広い城を歩く。
途中勇者が、『どうして誰とも戦わせないのか』と聞いたが、マモンは『魔王様は疲れてない状態のあなた方と戦いたいとのことでした』と言った。
まぁ随分な嘘なことで。だが、勇者御一行は見事それに騙されたようで、今は普通に廊下を歩いている。
そして、途轍もなくデカい扉に辿り着いた。
マモンはくるっと振り向くと、
「僕の案内はここまでです。扉が開いたら、入って来てくださいね」
彼はそう言って、扉をすり抜けて中に入って行った。
開いたその時間で、全員が一気に作戦会議をし始めた。
「まずは俺が剣技で圧倒するか?」
「いえ、最初に奥の手である勇者を見せては意味がありません。まずは私の魔法でなんとかします」
「それでは、浄化魔法を使える貴女の命を思っていません。まずは私、ステラが魔剣で対応します」
やれやれ…どんなに話しても無駄だと言うのに。
そんな話し合いを聞くこと数分、静かに扉が開き始めた。
全員が黙り込み、武器を手に、中に歩いて行った。
「……ヴィオラ?」
「ああ…なぁに?ニルドア」
「いや…どうして、入ってこないの?」
私はうっすらと笑みを浮かべて、扉のある空間を撫でる。
私の手は、結界に阻まれたように、透明な壁を撫でる。まだ、私は入れないのだ。
「…よく来たな、勇者」
「っ?!」
全員が前を向く。さっきまで玉座すらなかったその場所に、黒髪に赤と紫のグラデの瞳を持つ女性が座っていた。
その周りを囲むように、男女が4:3の割合で並んでいる。
「お前…が、魔王か?」
「ああ、そうだが?何か問題あるのか?」
そう聞かれた勇者は、刹那大きな声で笑った。
「まさか…まさか、魔王が女だなんて!!俺はやはり運がいい!美的センスをこの世界で褒められただけでなく、魔王までも籠絡できるような魔法を使えるのだから!!」
「…我を籠絡?」
魔王が本気でよくわかってない声を出した。勇者は大きく笑い声を上げながら、
「そうだ!俺こそは魔王までも手にする男!聖女共々、貴様を玉座から引き摺り落として、俺がそこに座ってやるよ!!」
「…そうか。だが、その前に我はやる事があるのでな。貴様らは少し待ってろ」
「・・・は?」
刹那、ドガン!と音が鳴る。
玉座を中心として、左側の牢屋にニルドアが、右側の牢屋に他のメンバーが入った。
分けられたのだ。
即席で作った魔法の檻なのだろうが、どうも彼らは壊せないらしい。
そしてニルドアは真っ先に、扉前にいた私を見て、
「ねぇ!! ねぇ、ヴィオラ! 助けてッ、助けてよ!! 友達でしょ?私達ッ…?」
その声を聞いて、私は心の底から笑う。
「あははっ!! 友達?笑わせないでよ。私の友達はあの子だけ。この人だけ……アンタらは、そこで見てなよ。この儀式を目の前で見られるなんて、幸福でしかないよ?」
「どう、いう…ッ」
私は魔王の方を向く。
目が合った彼女は、先ほどとは違い、優しげな笑みを浮かべながら、魔法陣を取り出す。
「では…始めようか。ラヴィー、其方は…」
足元に光る魔法陣を見つめながら、魔王の問いに答える。
「人間の名を…ヴィオラ・ニーレイという名を捨てるか?」
「えぇ、勿論」




