2, 魔法講師
長期休み(校舎の再建)を経て、やっと授業の日になった。
魔法でガッチガチに固められた壁や門を見ながら、教室に入る。
中にいた生徒達は、私を見てすぐにコソコソと話し始めた。
特にうるさいのは女子だ。女というのはどうして聞こえる声で陰口を叩くのだろうか。それはもう陰口ではなくシンプル悪口なのに。正面からメンチ切ったら私に吹き飛ばされる恐怖からなる行動なんだろうけどね…。
「はあっ…よしお前ら席につけ」
ぐったりした様子の先生が入ってきた。
その後すぐ、校庭に出される。魔法で新たな芝生が生えているためか、足元から魔力を感じる。
「皆さん、お久しぶりですねぇ。この一ヶ月、しっかり美しさを磨きましたか?」
真っ白な髭を生やしたお爺ちゃんのような学長が、時折り私を見ながら話す。
彼の後ろには、紺色のローブを着て、いかにもな魔法の杖を握っている男女がいた。
女性の方は耳が尖っているから、エルフ族かドワーフ族なんだろう。
「延期されていた魔法の課外授業を行います。彼らが、今回の講師です」
学長はそう言って後ろに下がる。
銀色の杖を持つ女性が一つ礼をして前に進み出る。
「初めまして、皆さん。私の名はステラ。見ての通りエルフ族であり、魔法騎士団の副団長を務めさせていただいています」
今度は、短い金色の杖を持った男性が前に出る。
「俺は魔法騎士団団長、キース・グレイデーだ。今日の講習を通じて、皆が持つ魔法をより美しく輝かせることを約束しよう!…そして!」
キースと名乗った男性は手を広げ、
「ここで才能を存分に発揮してみせた生徒には、俺や彼女から魔法騎士団への推薦状、また王族への謁見申請を行うことを約束しよう!さぁ、夢を掴め若き同士達よ!!」
大歓声が上がった。
ここで18歳になるまで魔法を学び卒業したのちに試験を受けるという流れがなくとも、飛び級で直接魔法騎士団に入れる。更に王族とのコンタクトを作れる機会がセットで付いてくるなど、まさに夢。
「……」
私にはそんなこと関係ない。
魔法騎士団は、無論魔法で王族やこの国を守る特殊な騎士団だ。
それがどうだ。私の目に映るのは、一切のブレ無く宙に浮かぶ炎の薔薇。
私は歩いていって、炎に手を突っ込んだ。
「…うっわ生温過ぎ気持ち悪!!! 何これスライム?! いや触手?! どっちにしろこれ炎ってか見た目だけカッコいいハリボテじゃん気持ち悪!!」
即座に魔法から手を離した私を見て、
「・・・え?」
キースさんから素っ頓狂な声が出た。
そりゃあそうだ。自慢の魔法に目の前で触れられた挙句『気持ち悪い』を2回言われたからね。
「うっわ何これ炎に粘り気あるんだけど…?本格的にこれスライム感あるな。ってか炎に粘り気ってどんな魔力練って炎だしたらそうなるん?? 触手タイプの魔物と戦っても粘り気ある魔法なんて無かったのに…」
止まらない私の口。止まらない綺麗なはずの魔法への誹謗中傷。
数秒程全員、何一つとして言えず固まっていた。
「いや待てよ…? 炎の粘り気を利用して敵を拘束できる魔術が開発できるんじゃね?!」
良いアイデアを思いついた為、もう一度炎の薔薇に触れようとすると、ふっ、と魔法が消える。
そこには、物凄い怒りの顔をしたキースさんと、まるで『ご愁傷様です』と言いたげなステラさん。
「なんです?さっきの奴早く出してくださいよ研究がしたいんですからサンプルが少ないんですよほら早く」
口早に言うと、彼はより怒りをあらわにし、
「ッ貴様…随分としつけがなっていないな…」
「そりゃあ美しさという概念に溺れてるおぼっちゃまからすれば私は獣でしょうね?w」
「何だとッ…貴様、推薦が欲しくないのか?」
「入りませんよ?将来そんなものより高い地位に行く予定ですし」
「はあ??」
これは事実だ。18歳になれば、ここともおさらば。やっと、私を私として、私の魔法を褒めてくれたみんなの所に帰れるのだ。
「私のことは放っておいて良いんで、さっさと講習をしたらどうです?」
「ッ…このッ!!」
粘り気がありそうな巨大な炎の薔薇。
「っははw」
笑いが漏れる口を片手で押さえ、もう片方の手で魔法に触れる。
それは、氷が溶けるように私の手のひらに吸い込まれて消えていった。
「ふむ…あ〜成る程。糊の容量で形を保ってたのか。なんだつまらん。未知の属性を使ってるんだとばかり。面白くないな〜」
「はっ…ま、魔法を…俺の魔法を吸い込んだ…ッ?」
「そうですね。もう良いですよ、期待外れでした」
私はそう言って、校庭と廊下を繋ぐ道にある白い柱へと歩いていく。
すると、私の上空に大量の星の刃が生み出される。
「待ちなさい、愚鈍な獣。キース団長の魔法を侮辱するなど、王を侮辱すると同じことですよ」
「…?魔法の侮辱?侮辱という名の事実を伝えただけじゃないですか。…それに貴女方、まだ気付いてないんですか?」
「はあ?何をですか」
「下」
私はその一言だけを言って、風魔法で空に飛び上がる。
その瞬間、地面が大きく割れた。そして、顔のない黄土色の細長く、でも巨大な体が出てくる。
「グルルゥ…」
「わぁお、ワーム。しかもありゃあデカさ的にキングワームじゃん」
今の唸り声をどこから出したのか、出す為の頭がある場所がよくわからないが、奴は私には目を向けていない。
代わりに、大声を出して逃げ惑う生徒や教師達を見ているようだ。
「やれやれ…これだから魔法を美しさに全振りした人達は…」
「って貴様!見てろよこの獣がッ!」
「うん?」
飛び上がった私をずっと見ていたのか、キースさんは大声を上げた後、巨大な薔薇型の炎を出した。
その手は悪くない。…が、キングワーム相手だと、もしかすると…
「はっ!」
飛んでいった火球は、ワームに当たる。
けれど、一瞬怯んだだけだった。
ワームの体は、金で包まれていく。すなわち、鎧が作られている。
「はっ、はあ?なんで…」
「ワームは土属性のはず…火属性が良いはずなのに…ッ」
キースさんステラさん共に、どうしてこうなったかわからないらしい。
本当にこの人達が魔法騎士団の団長と副団長なのかと問いたくなる。
「はあ…知らないんですか貴女方」
「何を…」
ステラさんの問いに、
「土属性には火属性が確かに有効です。ですが、あまりに弱過ぎたり、丁度いい強さだと、土属性の中にある"金属性"を目覚めさせてしまうことがあるんです。土属性を倒す際はやり過ぎなくらい威力を強くしないと有効な手とは言えません」
「そっ、そんなの知らない…ッ」
「知らないは戦場や魔物との戦いでは意味を成さない言い訳ですよ。【火球槍】」
数・威力…そして範囲に、絶対的に殺すことだけを考えて作った私だけの固有魔法の技の一つ。それらは、ワームの鎧を貫通してブッ刺さった。
ワームは地面に倒れ、生徒や教師陣はぽかんと、団長副団長は腰を抜かしている。
…どいつもこいつも、何故倒す為に与えられた力を美しさに使っているのだろうか。
役に立たない…一時のその見た目に、どれだけ時間を費やしているのか。
「バカで、クズで…そして愚かだ」
ああ…早く、早く18歳になりたい。
あの子に…あの人に会いたいな…。




