1, 魔法のあり方
この世界にある"魔法"の意義。
それは、世界中に巣食う"魔物"を駆逐し、自分の身を守ること。
そして、生活をより豊かにすることだ。
断じて。それは俳優のように魅せるものでも、薔薇のように美しさを愛でるものでも、美しさを競うコンテスト用のものでもないのだ。
「…」
故に。この、魔法の美しさばかりを競うこの国が…世界が、私は大嫌いだ。
☆
私の名前。
それは、ヴィオラ・ニーレイ。
フィルフィード帝国の帝都に位置する、フィードル魔法学園に通う16歳の新入生。
…そして、"獣のような魔法使い"と呼ばれる、本人だ。
「…?」
この学園も無論、『魔法は魅せるもの』という価値観が根付いていて、炎の薔薇や水の猫が宙を飛ぶ。
私には、それに何の意味があるのかわからない。
精密な魔力操作ができるのは褒めるべきことだ。魔法で細かい装飾などを足した炎や水を作り出せるのは、とても良いことだ。
…じゃあ、それを攻撃に使えるの?
私は、それをずっと思ってきた。
家族も友人も…皆んな、魔法の美しさを競ってばかり。綺麗な形にできた魔法を褒めるばかり。
そのくせ、魔物が出た時に撃った魔法は『綿を投げたのかな?』と思ってしまうレベルで弱く、結局私が倒していた。
(ああ…)
なんて…グズなのだろう。
その時頭に浮かんだのは、その言葉だった。
親への信頼、友人への好意。そんなものは綿毛のように飛んでいった。
「おい獣!!聞いてんのか?!」
「聞いてまーす先生」
「なんだその態度は?! 学年を上がれなくなってもいいのか?!」
「物理でゴリ押せる私と物理でゴリ押せない生徒が同時に魔物に出会したら、先に倒せるのはどっちですか〜?」
これを言えば、だいたいの人間は黙る。
『自分の魔法に"威力"という概念がないんじゃないか』レベルで弱いと、心の底ではわかってるからだ。
「チッ…」
私がどんなに悪い態度を取ろうが、この世界にはダンジョンという建造物があり、魔物がいる。
一定以上の魔物を倒したりダンジョンの階層を攻略すれば単位が貰える仕組みもあるので、事実机に寝そべろうが何だろうが、倒せる私にとっては魔物など"単位"になるか否かにしか見えない。
まぁ授業の中にも、歴史学とか大事なものはある。それを学ぶのはいいんだ。
「ほーら見ろよお前ら!水で作ったライオンだ!」
「すっげー!!見ろよあれ!毛皮まで全部ある!流石先生だな!」
教師が作ったライオン。確かにそれは、生きているかのように、綺麗だ。
私にも一応美学はある。美しいのは、事実だ。
じゃあ…そのライオン、攻撃できるの?
そう聞きたい気持ちで一杯だ。どうせ返ってくるのは、『魔法とはそう言うものなんだよ!獣が!』だろうけどね。
ふと、授業終了を知らせる鐘がなった。
「…! もう終わりだな!お前ら、次は校庭で、ゲストを呼んでの魔法演習だ!サボるなよ!特に獣!」
「うーい」
先生はまた舌打ちをして去っていった。
私はごろんと動きながら、教卓前に放置されている水のライオンを見る。
「…邪魔だなあれ」
何となくそう思って、ライオンに向かって指を鳴らす。
途端に、シュウッという音と共に、ライオンは消えていった。
周囲にいた生徒達は一瞬ざわめいた後、手に炎を出現させる。
「あ」
「この獣が!!せっかくのライオンを!」
「ごめん私先行ってる」
「はっ」
瞬間移動で即座に裏山の山頂に移動。その瞬間、私がいた教室で大きな爆発音が響いた。パラパラと木の粉が舞い、割れたガラスや机や椅子の残骸であろうものが降り注いでいる。
なんなら校舎がぐらぐらと揺れている。
ライオンが消えたのは、炎で蒸発したからではない。
あの中に電気を作り出して、電気分解して消したのだ。
つまり、あの教室には大量の酸素と水素がある。それに炎をつけたら?
水素爆発が当然起こる。
「運良く結界張れたら助かるかもね〜」
まあその前に校舎がもたないと思うけど。
そう思った途端に、かろうじて残っていた校舎が、完全に倒れた。
学園内には生徒や教師の事故死を防ぐ結界があるから人は死なない。けれど校舎は一切の容赦なく吹っ飛んだ。
「こりゃあ誰が悪いんかね…」
若干私のような気もする。
まあ習ったもんね、水素爆発。覚えてなかったアイツらが悪い。そもそも、魔力探知をすれば私が水を電気分解したなんてわかる筈だけど、普通に炎使ったし。
「ダンジョン行くか」
その後、校舎の再建に一ヶ月が費やされた。




