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捨てられた伯爵令嬢が旅に出るまで  作者: 礼三


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3/7

拾われた伯爵令嬢

 スカイが目を覚ますと、見知らぬ小屋のベッドの上に横たわっていた。天井が低く、木目がぼんやり見える。


「おっ、目が覚めたか?まだ熱は下がっていないようだな」


 平民のような身なりをした若い男が、スカイを覗き込んでいた。

 落ち着いた物腰、しっかりとした筋肉のつき方からスカイより年上のようだったが、顔立ちは甘く、どこか中性的であどけなさが残る。


「何か…。食べられるか?」


 青年はベッド脇の丸椅子を引き寄せて座った。ごつごつした指先がスカイの額へ触れる。

 

 カラッ、カラッ、カラリッ。

 

 木桶の中、水に浮かんでいる氷が触れ合う音が響き、青年は水の滴るタオルを絞った。ひんやりとした感触がスカイの額へ浸透していく。

 近くには火鉢が置かれており、小さな熱を帯びた赤い熾火(おきび)が優しく熱を放っている。

 白い湯気がケトルから立ちのぼって、清涼感あふれる爽やかな匂いが気道へと流れ込む。どうやら、何かのハーブを投げ入れているようだ。


「助けてくれなくても良かったのに…」


 スカイは小さく呟いたが、青年は聞こえなかったのか、ゆっくり席を立つと奥へ引っ込んだ。

 すぐにまた戻ってきて、ケトルの中へオーツ麦を入れる。


「待ってろ…。すぐに粥が出来るからな」


 少し長く伸びた鳶色の前髪が額に落ち、人好きのする垂れた目尻に皺が寄った。親しみやすい茶色の瞳がスカイを映す。

 なぜだか、スカイの目から一筋の雫が流れた。


「どうした?大丈夫か?雨に打たれていただろう?風邪だと思うがすぐ治るさ。心配するな」


 青年は無造作にスカイの涙を指で拭った。彼の優しさが伝わって、スカイはますます涙ぐむ。

 

(誰も私なんて必要としてないのに…)


 青年はスカイの気を紛らわせようと、ふふんふんと鼻歌でリズムを刻んだが、音程が外れておかしな具合だ。

 それに青年も気づいて、髪をくしゃくしゃと掻き回した。恥ずかしかったのだろうか。


「そうだな。泣きたいときは泣いた方がいいな。その方がスッキリするし」


 しばらくベッドの脇で青年はスカイを見守っていた。

 部屋へほんのりと穀物の甘い香りが漂うと、彼はケトルへ手を伸ばし、木の碗へよそった。粥へ息を吹きかけて冷ました。


「熱いから気をつけて…」


「い……らない」


 スカイはか細い声で断ったが、青年は首を横に振った。


「少しで構わないから食べろ。治るものも治らないぞ」


 スカイは口をへの字に曲げて開こうとしなかった。


「美味しいのに…」


 青年はその様子に呆れて残念そうにぼやきながら、諦めたように匙を自分の口へ運んだ。

 スカイは美味しそうに粥を食べる青年を眺めた。そのうち、涙を含んだまぶたが重たくなり、襲ってくる眠気に逆らえなくなった。

 そして、再び眠りについたのだ。

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