拾われた伯爵令嬢
スカイが目を覚ますと、見知らぬ小屋のベッドの上に横たわっていた。天井が低く、木目がぼんやり見える。
「おっ、目が覚めたか?まだ熱は下がっていないようだな」
平民のような身なりをした若い男が、スカイを覗き込んでいた。
落ち着いた物腰、しっかりとした筋肉のつき方からスカイより年上のようだったが、顔立ちは甘く、どこか中性的であどけなさが残る。
「何か…。食べられるか?」
青年はベッド脇の丸椅子を引き寄せて座った。ごつごつした指先がスカイの額へ触れる。
カラッ、カラッ、カラリッ。
木桶の中、水に浮かんでいる氷が触れ合う音が響き、青年は水の滴るタオルを絞った。ひんやりとした感触がスカイの額へ浸透していく。
近くには火鉢が置かれており、小さな熱を帯びた赤い熾火が優しく熱を放っている。
白い湯気がケトルから立ちのぼって、清涼感あふれる爽やかな匂いが気道へと流れ込む。どうやら、何かのハーブを投げ入れているようだ。
「助けてくれなくても良かったのに…」
スカイは小さく呟いたが、青年は聞こえなかったのか、ゆっくり席を立つと奥へ引っ込んだ。
すぐにまた戻ってきて、ケトルの中へオーツ麦を入れる。
「待ってろ…。すぐに粥が出来るからな」
少し長く伸びた鳶色の前髪が額に落ち、人好きのする垂れた目尻に皺が寄った。親しみやすい茶色の瞳がスカイを映す。
なぜだか、スカイの目から一筋の雫が流れた。
「どうした?大丈夫か?雨に打たれていただろう?風邪だと思うがすぐ治るさ。心配するな」
青年は無造作にスカイの涙を指で拭った。彼の優しさが伝わって、スカイはますます涙ぐむ。
(誰も私なんて必要としてないのに…)
青年はスカイの気を紛らわせようと、ふふんふんと鼻歌でリズムを刻んだが、音程が外れておかしな具合だ。
それに青年も気づいて、髪をくしゃくしゃと掻き回した。恥ずかしかったのだろうか。
「そうだな。泣きたいときは泣いた方がいいな。その方がスッキリするし」
しばらくベッドの脇で青年はスカイを見守っていた。
部屋へほんのりと穀物の甘い香りが漂うと、彼はケトルへ手を伸ばし、木の碗へよそった。粥へ息を吹きかけて冷ました。
「熱いから気をつけて…」
「い……らない」
スカイはか細い声で断ったが、青年は首を横に振った。
「少しで構わないから食べろ。治るものも治らないぞ」
スカイは口をへの字に曲げて開こうとしなかった。
「美味しいのに…」
青年はその様子に呆れて残念そうにぼやきながら、諦めたように匙を自分の口へ運んだ。
スカイは美味しそうに粥を食べる青年を眺めた。そのうち、涙を含んだまぶたが重たくなり、襲ってくる眠気に逆らえなくなった。
そして、再び眠りについたのだ。




