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4.本当の色


用意された下着はシルク製(なのかな?)のなめらかなものだった。

少し変わった形状をしていたけれど、身に着けてみるとぴったりと肌になじんだ。


洋服は、落ち着いた濃紺の長袖ワンピース。

裾にはスカラップレースに銀糸の刺繍が施してあり、とっても上品。


袖を通すと、生地が肌を滑る感触に思わず「うわぁ」と声が出た。

鏡で確認してみると、うん、自分でもちょっとかわいく見えるよ。

馬子にもなんちゃらってやつだね。


ワンピースも下着同様、着てみるとぴったりと肌に吸い付くような感覚があった。

スカート部分は広がりを持たせている分、密着はしないけども、上半身はかなりタイトだ。

でも、腕が動かしにくいとかは全然ない。


やっぱり高級な布って違うのかな・・・

それとも・・・魔法? いやいやいや。



それはさておき、体のラインに沿いすぎじゃない!? と、思わないでもない。

けど、他に着るものは制服しかないんだから、この際仕方ないよね。




バスルームを出ると、エマが駆け寄ってきた。


「よくお似合いですわ、お嬢様」


ほめてもらうのが恥ずかしくて、少しだけうつむいてしまった。


「あ、ありがとうございます」


「でも、まだ御髪が濡れておりますよ」


エマは言いながら、小さい子にするようにタオルで髪を拭いてくれた。

少し照れくさい。


でも、気のせいだろうか・・・?

拭いた端から髪が乾いているような気がするんだけども。


これも魔――――

いやいや、なんでもすぐ魔法に結び付けるのは危険だ。

さっき違ったからね・・・恥ずかしいから。

ほら、すごい吸水力のあるタオルかもしれないじゃん。


そんなことを考えている私を、エマは「こちらへどうぞ」とドレッサーへ促した。


鏡の前に腰掛けると、すかさず髪をブラッシングしてくれる。

手にはやっぱり白い手袋をつけていて・・・??



「それにしても美しいものですね。私、黒髪を目にするのは初めてでございます」


鏡を通して、そう話すエマを見る。

彼女は、壊れ物を扱うようにそっと私の髪を梳いてくれた。


「そうなんですか? この国に、黒髪の人はいないのですか?」


彼女は髪のほうに目線を向けているので、こちらを見ていない。

梳き終わると、慣れた様子で私の髪をまとめ上げていた。



「ええ。この国だけでなく、これまで聞いたことがございません。黒髪も黒い瞳―――も??」



鏡を通して、エマと目が合った。

その瞬間、彼女の動きが止まった。


「エマ?」


私は心配になって、問いかける。


「大変失礼いたしました!!」


突然、エマが平伏した。


ええぇー??

私はわけもわからず、とりあえず椅子から立ち上がって平伏すエマの肩に手を添える。


「エマ、どうしたの?? とにかく立ってください」


私はエマの両肩に手をかけ、上体をなんとか起こした。

エマの表情はまだ硬く、顔色も若干青いような。



「お嬢さま・・・ その瞳の色は、その・・・」



あ、そっか、彼女は私の瞳の色が急に変わっていたことに驚いたんだ。

平伏したのはちょっと謎だけれど、ああ、エーリク様と同じ色だったから!?

条件反射、みたいな・・・?


「本当は私、この色なんですよ。驚かせてしまってごめんなさい。私の国では黒髪と黒い瞳がほとんどだったので、この色は目立つんです。だから、ほら―――」


そういうと、私はバスルームに置きっぱなしになっていた取り外したカラコンを持ってきてエマに見せた。



「これは・・・瞳の色を変えるマドウグですか?」


え?

なにか聞きなれないワードが飛び出したよ??


マドウグ? →→→ 魔導具??



「まっ、魔導具とかじゃないです。これはただのコンタクトレンズです!」


まさか、エマから魔導具とか言われると思わなかった・・・


「こんたく・・と?れんず?・・・魔法ではないのですか?」


まだ不思議そうに私の見せたカラコンに目をやっているエマ。


「ま、魔法とか、そういうものじゃないです」


世界中どこでも手に入ると思っていたけど、カラコンとかポピュラーじゃない国もあるのかな・・・


それとも、本当にそんな魔法が存在するというの・・・??

まさか私が挙動不審だから、エマまで私みたいなこと言い始めちゃったのかな・・・


「ふふっ」


考えてたらおかしくなって、私は思わず笑ってしまった。


エマの腕を引いて立ち上がらせた。

彼女はまだ半信半疑といった表情をしていたけれど、顔色はよくなっていた。


「お嬢様、こちらお預かりしても?」


エマは乾いてカピカピになりかけているコンタクトレンズをハンカチにとりながら聞いてきた。

まだ、私を見つめる彼女の瞳はどこか信じられないものを見るようだったけど。


もう使えないし構わないと伝えると、エマはすぐさまそれを持ってドアを開けた。

外に控えていたのであろう誰かに、ハンカチごと渡して何やら伝えていた。


そして、私のほうに向き直ると、



「さあお嬢様。身支度も整いましたし、バルコニーで朝食にいたしましょう」



そう言って、またやわらかく笑ってくれた。


私は、椅子の上に置かれていた淡い小花柄の包みを抱き上げると、部屋を後にした。







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