3.夢うつつ
幸せな夢を見た。
お母さんとお父さん。
2人にもう一度、抱きしめてもらう夢。
あたたかくて、幸せで...
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「っ!??」
ガバっと飛び起きる。
どこまでが現実で、どこからが夢なのかわからない。
昨日?は卒業式で、無事に卒業したよって二人に報告して。
それからコンビニで買って帰ったティラミスを食べようとした瞬間に・・・
「・・・夢じゃ・・ないんだ」
ここが我が家でないことは明らかだった。
広いベッドに、なんだろうこの寝具のなめらかな肌触り・・・
でも制服のまま寝かされてて・・・
まぁ、着替えが済んでても困るけども。
上着は脱いでたから、着ているのはブラウスとスカートだけ。
寝にくかったはずなのに、私、爆睡しちゃったんだな。
これって、もしかして・・・召喚?というやつだろうか・・・?
あの、浮かび上がってた文様。あれって、魔法陣・・ってやつだよね?
私、大好きでよく読んでたよ、そういう物語。
ゲームもやってた。
でも、まさか自分の身に起こるとか・・・
ここって、やっぱり異世界・・なのかな・??
いやいや、待て待て、ちょっと落ち着こうか、自分。
普通ありえないよね。
っていうか、聞いてみて違ったら恥ずかしいからね。
きっとあの人が今日にでも詳しく教えてくれるはずだよ。
あの、エーリクさん?ていう、優しくてあったかい人・・・
~~~っっていうか、エーリクさんに泣きついてそのまま寝落ちるとか!
昨日、自分がやらかしてしまったことを急に思い出し、バフッと枕に顔をうずめた。
でも、エーリクさんに直接触れられてもなんともなかった・・・
それに・・全然嫌じゃなかった。
いったい、どうなってるんだろう・・・
あらためて室内を見回すと、この部屋の豪華さにただ茫然としてしまう。
うちのリビングより広いし・・・
天井は3メートル?いや、4メートルはあるのかな、なんか全然違うもん。
天井近くから下がるカーテンの隙間からは光が差し込んでいる。
もう朝なんだ・・・
ベッドのすぐそばに、我が家の食卓の椅子が一脚、ちょこんとたたずんでいた。
私はベッドから降りて、椅子の背もたれをそっとを撫でた。
気後れするほどゴージャスな部屋で、この椅子だけは見慣れた我が家のものだ。
座面に淡い小花模様の布で丁寧にくるまれた何かが置いてあった。
開いてみると、それは私の大切な写真たてと木箱だった。
「よかったぁ・・・」
私はその場にへたりこんで、そのかわいい布ごと抱きしめた。
布からはふわりとラベンダーの香りがする。
あの瞬間、ティラミスを手放してとっさにこの2つを掴んだ自分。
ほんとに、よくやったよ! えらかった!
大好きな両親の写真と、2人が私に遺してくれた木箱。
この2つがここにあるなら、私は大丈夫だ。
それに、ここの人達はきっといい人達だと思う。
だって、私の大切なものをこんなふうに丁寧に扱ってくれたもの。
『コンコン』
ノックの音がして、慌てて立ち上がる。
「はい」
私が答えると、「入ってもよろしいでしょうか?」と女性の声がした。
どうぞ、と中へ招く。
女性は、裾の長いメイド服を着ていた。
彼女は私の正面に立つと片足を後ろに引き、背筋を伸ばしたまま挨拶をした。
「おはようございます、お嬢様。
私は本日よりお嬢様のお世話をさせて頂きます、エマと申します。
どうぞ何なりとお申し付けください」
う、うわー。
今のカーテシーだぁ・・・ 私も!と思ったけど、
「おっおはようございます! エマさん」
緊張してしまって、いつも通りぺこりとお辞儀をしてしまった。
私の返答に、エマと名乗ったその女性は少し戸惑った顔をして、
「お嬢様、私のことはどうかエマとお呼びください」
と言った。
いや、エマさんはうちのお母さんくらいだよね、きっと。
そんな年上の人を呼び捨てだなんて・・・
伺うように見つめてみたけども、エマさんはニッコリと笑ってうなづくだけだった。
エマさんちょっと迫力あるな。
有無を言わせない雰囲気がにじみ出ていた。
「わかりました、エマ、よろしくお願いします」
なんとかそう返して軽く頭を下げた。
エマさん、あらためエマは少し苦笑いしていた。
敬語くらいは勘弁してもらわないとね。
でも、さっきから違和感半端ないから、
「あの、私、お嬢様なんて呼ばれるような者ではないので、せめて名前で――」
そう言いかけると、
「っとんでもございません。お嬢様は王太子殿下の大切なお客様です。それに、お嬢様のお名前は殿下でさえまだお聞きになっていないというのに、私などが教えて頂くわけには参りませんっっ」
と言って、再び深く頭を下げられてしまった。
王太子殿下て・・・誰?
もしかして、いや、もしかしなくてもエーリクさん、だよね・・・
「そう、ですか・・・」
彼女の必死の形相に、私はそう答えるしかなかった。
エマの髪は赤味の強い茶色で、瞳の色は黄緑色。
これも日本人の色とは違うよね。
そもそも、明らかに外国っぽいのに、なんで言葉が通じているんだろうね。
やっぱり・・・魔法??
私には聞きたいことがたくさんあった。
いや、ほんと聞きたいことしかない。
「あのっ・・・」
私の声に、エマはふたたび視線をこちらへ向けてくれた。
まずは、
「ここは・・どこなんでしょうか?」
恐る恐る尋ねてみる。
エマはただ微笑んで、「私からはお答えしかねます」と言った。
その返答にがっかりしていると、
「ですが、後程、殿下がお会いになりたいとのことです。なので、まずはお仕度をしましょう」
そういって、私を部屋の奥にあるドアに案内してくれた。
中に入ると、そこはバスルームだった。
これまた、高級ホテルのように素敵な内装でとても広い・・・
猫足のバスタブと金色の蛇口と・・・
それにほら、とてもいい香りがするの。
「あのっ!!?」
当たり前のように、私のブラウスのボタンに手をかけるエマ。
恥ずかしくて後ずさると、
「手袋をつけておりますよ?」
いやいや、そういう問題じゃないですよ?
エマはまた手を伸ばそうとする。
「い、いえっ、大丈夫ですから」
私は体の前で両手を振って、必死に訴えた。
「じ、自分でできますから。あ、そうだ。あの、お湯の出し方だけ教えて頂けませんか・・・?」
バスタブの縁から生えているような金色の蛇口には、レバーやハンドルが見当たらない。
まさかの魔法じゃない??とか思って尋ねると、
「え、手をかざすと出てまいりますよ?」
エマは少し不思議そうに答えてくれた。
・・・あぶない、あぶない。
「自動水栓ですよね・・すみません」
恥ずかしくなって、小さく呟いた。
エマは聞きとれなかったらしく、「はい?」と聞き返したけど、なんでもないですと笑っておいた。
「では、何かございましたら、隣に控えておりますのでお声かけくださいませ。あと、お召し物はこちらにご用意しておりますのでどうぞ」
エマはそう言って、ハンガーラックようなものにバスタオルと着替えを用意してくれた。
***
はぁー・・・
バスタブに浸かり、ゆっくり息を吐きだした。
お湯からはバラの香りがする。
金色の蛇口に手をかざすと、ちょうどいい温度のお湯がシャワーとなって出てきた。
「お腹すいたな・・・」
思えば、昨日のお昼から何も食べていない。
ティラミスも食べ損ねたし・・・
お風呂から上がったら、何か朝ごはんとか食べさせてもらえるのかな?
でも、まずはエーリクさん、いや、王太子殿下だからエーリク様?に色々お聞きしないとな・・・
「っていうか私、名乗ってもいないし」
とにかく、まずは挨拶から始めよう。
先ほどのエマのカーテシーを思い出す。
実は私、小さい頃から母に叩き込まれたことがいくつかある。
カーテシーもそのひとつ。
日本でそんな機会はないのに、将来役に立つとか言って外国人の母は作法にとても厳しかった。
大きくなっても、時々抜き打ちでテストされることがあり、15歳で初めて「合格よ」とほめてもらったときは本当に嬉しかった。
よし、きっと大丈夫。
だって母はあんなに美人で優雅で、本物の王女様みたいだったもの。
エーリク様に後でお会いするときがチャンスだわ。
母直伝のカーテシーで、皇太子殿下に失礼のないようにしなくっちゃ。
私はバスタブから上がって、髪と体をふくとそのまま鏡の前に立った。
昨日から、コンタクトを入れたままだもんね。
そのまま寝ちゃったし、なんかゴロゴロする・・・
レンズをはずして鏡を見ると、お母さんと同じタンザナイトの瞳がうつっていた。
エーリク様もおんなじ色だったなぁ・・・
あ、ここではカラコン必要ないんじゃない?
まぁ、替えも持ってないんだけど・・・
だって、この色はきっと珍しくもなんともないでしょう?
黒の方がむしろ目立ちそう。
そう思うと、母から譲り受けたこの色を隠さなくていいことがとても嬉しかった。




