12.ラナース公
スチアーネ=stjerneと書きますが、デンマーク語で『星』を意味します。
(今回の話に出てきます)
『カーレン姉上・・・』
ラナース公は今、姉上と・・・
母の名前を呟いてそうおっしゃった、の ?
突然、会場がざわついた。
入り口から何か大きなものが、台車に乗せられこちらに運ばれてくる。
それは一枚の肖像画だった。
「お母さん・・・」
「カーレン姉上・・・」
私の声とラナース公のそれが重なった。
え?
状況を飲み込めず、思わずエーリクを振り返る。
エーリクは「これから説明する」と言って私の肩に手を回すと、会場の皆に向けて声をあげた。
「皆、よく聞いてください。
この度、私が伴侶として召喚したこのアーシャですが、ご覧のとおり我が国の王族特有の瞳を持っています」
しんと静まりかえり、皆、エーリクの話に耳を傾けている。
「ここに用意したのは、クラウス3世と王妃マリアンネの第1王女カーレンの肖像画です。これを見て何かお気づきになりませんか?」
エーリクが皆に問うと、ざわ・・・と周囲でそれぞれ話す声が聞こえ始めた。
しばらくして誰かが、
「アーシャ殿に・・似ている?」
と言った。
それ、私も思った。
ここに描かれた母は、今私が着ているのと同じロイヤルブルーのドレスに身を包んでいた。
そして首にはあの、スターサファイアのネックレス。
私が知るよりずっと若い。10代の、それこそ私と同じかまだ若い頃の絵だと思う。
だからこそ、私にとてもよく似て見えるのかな・・・
「そうです。信じられないかと思いますが、アーシャは間違いなくこのカーレン王女の娘です」
「なっ」
「まさかっ」
方々で驚きの声が上がった。
誰ともなく「どういうことだ?」「年代がおかしいだろ」などと言っているのが聞こえる。
エーリクが、肩を抱く手に力をこめてぐいと私を抱き寄せてくれた。
混乱した頭で、それでもなんとか理解しようと試みる。けど・・・
連日、いろんなことが私の常識の範囲を超えすぎて処理が追い付かない。
私はただ呆然と、エーリクを見上げるしかなかった。
「今からきっとすべてがわかる。案ずるな、アーシャ」
エーリクはそうささやいて、私のおでこに優しくキスをした。
いつの間にかスヴェンとエマがやってきて、傍に控えてくれている。
エマは私の大切なあの包みを持っていて、私がそれに気づくと優しく笑ってくれた。
スヴェンが一歩前に進み出て、ラナース公の目の前で手に持った包みを広げた。
「これは―――」
ラナース公はそこで言葉を失われた。
スヴェンは今度、それが皆にも見えるよう右へ左へゆっくりと動かした。
「まさか、本物なのか!?」
「消えた国宝か!?」
国宝?
あのネックレスが・・・?
なんか話がどんどんすごいことになっていく・・・
エーリクがまた、皆に向かって言った。
「これは我が国の宝 『青のスチアーネ』 です。
しかし、皆さんご存じのとおり、これは75年前から行方が知れなくなっていました。カーレン王女の失踪と同じ年からです」
「失踪・・・? カーレン王女は若くして亡くなられたのではなかったか?」
誰かが言った。
すると、ラナース公がゆっくりと前に出られた。
一旦、口を開きかけて黙り込む。何かを躊躇されているようだった。
そして、決意されたようにキッと前を見据えられ、やがて言葉を発せられた。
「姉上は・・・亡くなったわけではない。突然、消えてしまわれたのだ。
姉上は、当時の時の魔法使いであった。しかし伴侶は見つかっていなかった。このエーリクと同じように、幼き頃に能力が発現して以来ずっと伴侶となる使い手を探し求めておられたそうだ。当時姉上は16歳、私は6歳であった。母代わりであった姉上が、急に・・ある日突然・・・この世から消えてしまわれたこと・・それはあまりにも耐え難く、辛いことだった・・・」
それは落ち着いた、静かな声音だった。
ラナース公はそこまで話されて、ふぅっと長く息を吐かれた。そしてまた、
「失踪から時が経ち、姉上は亡くなられたと公式には発表された。王族が失踪するなど前代未聞であったし、誰もその真相をつきとめることはできなかったのだ。それゆえ長期療養の末、亡くなられたことにされた・・・しかし、一体どういうことだ。皆これをよく見てくれ」
ラナース公の言葉に、皆がスヴェンの掲げた国宝に注目する。
あっ、と声を上げる人が何人かいた。
「この国宝『青のスチアーネ』にはテスタメンテの魔法がかけられている。ああ、この魔力は間違いない。忘れもしない・・・これは・・姉上の、カーレン姉上のものだ」
そこまでおっしゃって、ラナース公はとうとう涙をこぼされた。
入れ替わるようにまたエーリクが前に進み出る。
「これから、ここにいる皆に立ち会って頂きたいのです。
このテスタメンテの魔法を解除すれば、きっと真相が解き明かされると思いますから」
直後、黒い制服を着た男性が3人、会場に入ってきた。
「彼らはテスタメンテを解除し、記録する司法官たちだ」
エーリクがすかさず教えてくれた。
会場の奥に、スクリーンのような白い布が用意される。
私たちも、あのネックレスと共にそちらへ移動した。
その間、ランプか何かの明かりがいくつか消されて会場が少し暗くなった。
「アーシャ、これからご両親のお姿を見ることもお声を聞くこともできる。ただし、テスタメンテは一度きりだ。二度目はないからよく集中して聞き逃さないよう心してほしい」
・・・もう一度、声が聴ける・の?
私には何がどうなっているのかわからない。
けれど、なんだっていい。その最後のチャンスみたいな瞬間を逃すまいとただただ頷いた。
正直、何も言葉にできない心境だった。
「準備が整いました」と司法官の一人から声がかかる。
エーリクが頷き、「では、よろしく頼む」とだけ告げた。
隣ではラナース公が、白いスクリーンみたいな布をただじーっと見つめていらっしゃった。
「アーシャ様、こちらへ」と呼ばれ、私はエーリクに背中を押されて進み出た。
黒い艶やかな台の上に、白いインクで魔法陣が描かれていた。
私が召喚されたのよりはずっと小さなもので、母のネックレスはその中心に置かれている。
司法官の一人が、なにか聞き取れない言葉をつぶやき始めた。
そして、別の一人が「今です、宝石の表面に右手の中指で触れてください」と言ったので、私は言われた通りそっとそのスターサファイアに触れた—――
ぶわっと温かい風が吹きぬけた。
会場にどよめきが走る。
青い宝石から光が飛び出した。
その瞬間、あの白い布に人物が映し出される。
それはいつも山にトレッキングに行くときの恰好で、本当に普段通りの二人・・・
懐かしい父と母の姿だった。
読みに来てくださってありがとうございます!
更新はできれば毎日したいのですが・・・2日に一度、あるいは3日に一度になることもあります。
次話はテスタメンテの内容です。




