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パラ・フィリアシステム  作者: ぽける
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第二話 逃亡劇

「異能者」

 その言葉に彼女は酷く狼狽していた。緑色の美しい、腰まで伸びた髪が汗に濡れて彼女の肌に張り付いている。そして、緑髪の彼女とあまり年が変わらないように見える目の前の女性は、まるで軍隊で支給されるようなビシッとした制服に身を包み、目の前に立ちふさがっていた。

 栗色のセミロングほどの髪を触りながら、まるで見下すように不敵な笑みを浮かべる。

 二人は知り合いなのか? しかし知り合いにしては雰囲気はよくない。異様な緊張感が辺りを包んでいる。

「異能者は私たちと一緒にこちらに来てくれるかしら? それと……」

 栗色の髪の女性は俺のほうを遠めに見ながら、眉間にしわを寄せている。

「どうしてここに一般市民がいるのかしら? ちゃんと市民は避難させたんじゃないの?」

「それが……バスから急に飛び出してきた学生みたいで、我々の制止を振り切ってここまできたようです」

「はぁ……貴方たち警察でしょ? しっかり市民を守りなさいよ」

 栗色の髪の女性は若干イラつきながら、叱り付けるようにそう言った。

 俺はまだ乱れたままの息を整えつつ、ゆっくりと緑色の髪の女性に向かって歩く。

「ちょっと、貴方。異能者は危険だからあまり近づかないで頂戴」

 栗色の髪の女性は俺に向かって注意するように言った。しかし、俺はその忠告を無視してなおも近づく。すると、今度はもう少し強い口調で繰り返し注意した。

「ちょっと、聞いてる? 危険だって言ってるでしょ?」

「わからない」

「は?」

「俺は貴方が言っていることの意味がわからない。危険だって? 俺にはとてもそうは思えない。むしろ、俺には貴方のほうが危険に見える」

「あんたそれ、本気で言ってるの?」

 栗色の髪の女性は若干イラっとしたような顔をして、俺の顔をにらみつける。

 ようやく乱れた息が整ってきた。さて、相手は何者かわからないが警察がいるということは、その組織に関わりがある人なんだろう。

 だとするなら、一般市民である俺に対して危害を加えようとしないはず。この場は俺が彼女を守りながら何とかするしかない。

「申し訳ないんですが、彼女を見逃してあげることは出来ませんか?」

 その言葉に、栗色の髪の女性は驚愕の表情でこっちを見る。緑髪の彼女も同様に、驚いたような呆れたような表情で俺のほうを見ていた。

「貴方、自分が何を言っているかわかってるの?」

 栗色の髪の女性はさっきまで違う、明らかに本気のドスの利いた声で威嚇するように言った。俺は一瞬怯んだが、唇をかみ締め自分を奮い立たせる。

「異能者がどういう存在で、貴方たちが何をしようとして、俺がそれを止める権利はこれっぽっちもないってことは重々承知していますよ。ただ、はたから見れば何の罪もない女性を追いかけて捕まえ、危害を加えようとしているようにしか見えない」

「それが何だって言うの? 貴方とこれっぽっちも関係は無いでしょう? 他人が口を挟む権利は無いわ」

「ありますよ。口を挟む権利なら」

「どういう意味?」

 俺は唾をごくりと飲み込み静かに深呼吸をすると、覚悟を決めて俺は話を続けた。

「俺は、酉島総一郎の息子です。だから、口を挟む権利がある。フィリアの存在を世界では初めて明らかにした彼の息子として、彼の意思を継ぐものとして彼女を見逃してほしいです」

「酉島……総一郎? 本当に、貴方が酉島総一郎の息子?」

 栗色の髪の女性は眉間にしわを寄せ、考え込むような態度をとった。ここは一か八か賭けに出る。

 分の悪い賭けだが、悪くない賭けだ。

 例え賭けに負けたとしても、彼女を逃がすチャンスを見つけるまでの時間を稼げればいい。このまま何とか話をもつれさせている間に、緑髪の彼女を逃がすタイミングを見つける。

「なるほど。貴方が彼女にそこまで執着しているのは、やっぱり酉島博士の息子さんだったからか。そう、ふふふ」

 栗色の髪を弄りながら、不敵な笑みをこちらに向ける。何とも読み辛い表情だ。相手はどう出る?

 俺と緑髪の彼女までの距離は、ざっと見積もって約一メーターくらいか。ダッシュで走って、彼女の手を取り細い路地裏に逃げ込めば何とか逃げ切れるかもしれない。が、今は駄目だ。隙が大きすぎる。

 出来れば、栗色の髪の女性の気が逸れている内に逃げたい。何とかタイミングを掴むんだ。

「不思議な運命じゃない。貴方たち。そう思わない? 青井碧」

「気安く私の名前を呼ばないで」

 初めて利いた彼女の、青井碧の青井碧の声は想像よりずっと荒々しく、強い意思を感じた。

 青井碧、やはり君だったのか。ずっと話したいと思っていた。今まで生きていたなんて、はっきり言って奇跡みたいなものだ。

「貴方たちの様なクズ共にもう二度と捕まらない。二度と貴方達の実験動物なんかになったりしない」

 青井碧は唇をかみ締めながら、再度強い口調で言った。藍色の瞳からは強い意志を感じる。

 改めて彼女を何とかして助けてあげたいと思った。そのために俺が出来ることは全力でやろう。

 その為に、出来るだけ彼女との距離を近づけようと、俺は少しずつ体を動かしていった。

「どっちにしろ、フィリアに人権は無いわ。どこに逃げても一緒よ、日本だけじゃない。この世界全て、貴方たちを忌み嫌っているの。それなら少しでも人類の未来のために役立つために、実験にくらい協力してくれたっていいじゃない」

「あれが実験? ただの拷問じゃない。これまで私のようなフィリアを何人殺してきたの? 嘘つきのろくでなし共め!」

「はぁ……これだからフィリアは。人の言葉が通じなくて嫌になるわ。仕方ない、そっちの酉島博士の息子さんとやらと一緒に全員捕まえなさい。私の「能力」を使うまでも無いでしょ」

 そう言うと、彼女は背後に控えていた重々しい装備を着けた警官たちに手で合図をした。

 これ以上の時間は稼げないか。俺は青井碧の手をとっさに掴み、思いっきり反対側に走った。

「待ちなさい! 彼らを追って! 早く!」

 民家と民家の路地裏に入り、追いかけてくる警官から逃げるように走り出す。

 迷路の様な道は、ここに引っ越してきて一ヶ月ほどしか経っていない俺にとってはさっぱりわからなかった。土地勘があれば、まだ何とかなるけど今、自分がどこにいてどこに向かっているのか見当も付かない。

 それでも懸命に、勘を頼りに彼女の手を引きながら追っ手の警官から逃げるように走り回った。

 迷路の様な路地を走りながら、自分の家までの道を探す。とにかく今、一番安全な場所は自分がすんでるアパートしかない。

 幸いここからさほど遠くない場所で、さっきのバスからで十分くらいの場所だ。

 1LDKの殺風景な部屋だが、今無性にそこが恋しい。すぐにでも帰りたい。警官に追いかけられるなんてたちの悪い冗談だろ。

 走り続けて何十分経っただろうか? 曇っていた空からやがてポツリポツリと雨が降ってきた。

 どうしよう、このままじゃずぶ濡れになるかも。かと言ってこのままコンビニに行くわけにはいかないし、早く家に帰らないと。気持ちが焦って動悸が激しくなる。

「ねぇ、君ちょっと」

 俺は彼女の言葉に気が付くことなく、夢中に走り続けている。その間ずっと彼女の手を握りっぱなしだが、そんなこと考えている余裕は無かった。

「ねぇ、ちょっと離してよ!」

 そう言って彼女は思いっきり手を振りほどいた。驚いてつい立ち止まってしまう。

「あ、ごめん」

 とっさに謝ったものの、彼女は若干不機嫌な顔をしていた。

 青井碧は手首を摩りながら、警戒した目つきでこちらを睨みつけている。

「君がいったい誰で、何の目的でこんなことしているのかわからないけど。もういいから。君、人間でしょ? なぜこんなことをするの? 私が怖くないの?」

「どうしてかな。わからない……わからないけど。異能者が危険だって皆は言うけど、俺にはそう思えないんだよ。だから、どうしても貴方を助けたかったんだ」

「それは君の勝手な推測でしょ?」

「そうかもしれないけど、だって君は……」

「何?」

 喉の奥まで出掛かって、やめた。やっぱり言わないほうがいい気がして。初対面の人間にいきなり言うべき言葉じゃない。美しいだなんて、とてもじゃないけど言える訳が無い。

「何でもない……」

 俺はそう言って顔を伏せた。彼女は不思議そうな顔をして俺のほうを見る。

「そ、そんなことより早く逃げないと。あいつ等が追ってくるかもしれないし。そうだ! 何か武器になりそうなもの、無いか……」

 手元にあるのはポケットに入っていた紙くずだけだ。何の役にも立たなそうだ。

 はぁ……衝動的とはいえ、もっとちゃんと行動するべきだった。無謀な行動すぎる。いったい俺は何をやっているんだ。

 思わず頭を抱えて座り込む。すると、ちょうど目の前にセールをやっているスーパーが見えた。

「さっきはありがとう。でも、君はもう来なくてもいい。それに、君は私にとって足手まといにしかならないもの」

「いや……きっと役に立つよ」

「そんなの無理。ただの人間の君にあいつ等と戦えるわけが無い」

「大丈夫だ。きっと役に立って見せるさ」

「どうして? なぜ、そんなことが言えるの? お節介にもほどがある」

「俺に策がある。ちょっと待っててくれないか?」

 半信半疑の彼女を尻目に俺は目の前のスーパーに向かって歩いていった。そして、半額と言うシールの貼られたもやしをいくつか手に取りレジまで持っていく。

「これだけあれば逃げられるか……」

「いったい何をしてるの?」

「もやしを買った」

「あ、そう。それじゃお別れね」

「まだ別れるには早いみたいだ」

 スーパーから挟み込むように、武装した警官がそれぞれ三人ずつ取り囲む。完全に逃げ道を失った。まさに絶体絶命だ。

「……っ!? 君と余計な話をしたばかりに……やっぱり足手まといじゃない」

「待ってくれよ。もやしを買ったのはわけがあるって。青井碧さん……貴方なら出来るはずだ。デンドロフィリア(樹木性愛)の能力を持っている貴方なら」

「どうして……」

「詳しい話は後で。俺の合図でこのもやしをでっかくしてくれ。出来る限り大きく、早く」

 そう言って俺はビニールに入っている、もやしがいくつか入ったパックを一つ手に取った。そして思いっきり目の前の警官たちに放り投げる。

「今だ!」

 俺の合図に彼女はすぐに反応した。目の前の小さなもやしは一瞬にして空中で大きくなり、爆発した。飛散したもやしが大量に降り注ぎ視界を遮る。

「お前、今何をした!」

 背後にいた警官たちが叫ぶ。とっさに背後に向かってももう一つ放り投げる。同じように空中で爆発し、大量に飛散する。警官たちは思わず顔を手で覆い、身をしゃがめた。

 逃げるなら今しかない。俺は彼女の手をとり、走り出した。

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