表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/54

揃いすぎる日

朝。


目が覚める前に、

今日は右から起きる気がしていた。


身体が先に動く。


考えない。


右足が床につく。


冷たい。


でも、

そこで止まらない。


窓を開ける。


外の空気が入る。


深く吸う前に、

呼吸が落ち着く。


それで十分だと思う。


十分だと思ったあとで、

本当にそうなのか、

少しだけ分からなくなる。


分からなくなったことも、

すぐに薄くなる。


外へ出る。


井戸へ向かう。


角を曲がる。


いつもの道。


途中で、

左へ避ける。


避けたあとで、

木箱があることに気づく。


見ていなかった。


身体だけが先に避けている。


ぶつからなかった。


それは良いことのはずだった。


それなのに、

見ていないまま避けられたことが、

少しだけ怖かった。


井戸。


桶が回ってくる。


受け取る。


水を汲む。


隣の人と、

同じタイミングで手を離す。


音が重なる。


誰も見ない。


見なくても、

合っている。


合っているから、

確かめなくていい。


確かめなくていいことが、

今日は少しだけ物足りなかった。


宿。


アーシャが席を指す。


指される前に、

そこへ向かっている。


「今日はそこ」


「うん」


確認みたいな会話。


確認なのに、

もう決まっている。


器が置かれる。


塩の位置。

湯気の向き。

箸を取る順番。


全部、

迷わない。


迷う前に終わる。


食事を終える。


椅子を引く。


音が重なる。


今日は三つ。


同じ高さ。


同じ長さ。


音が揃うと、

部屋の空気が整う。


整うと、

少し楽になる。


楽になった瞬間、

胸の奥が小さく冷える。


アーシャが言う。


「今日は落ち着いてるね」


「……そうですか」


「うん」


アーシャは笑う。


笑顔はいつも通り。


でも、

その笑顔に合わせて自分も頷いたことが、

少しだけ引っかかった。


畑。


ガイルは昨日と同じ位置。


「そこまで」


言われる前に、

足が止まる。


鍬を持つ。


三回。


止まる。


四回目が浮かばない。


身体が、

続きを選ばない。


「いい」


ガイルが言う。


確認だけが残る。


「……言われる前に、止まってました」


ユウトが言う。


ガイルは土を見る。


「なら、それでいい」


短い。


それで終わる。


終わってしまう。


もう少し何か言われたかった気もする。


何を言われたかったのかは、

分からない。


鍛冶場。


入口の板。


身体が自然に角度を変える。


擦れない。


止まらない。


中に入ろうとは思わない。


思う前に、

通り過ぎる。


ドラムは振り向かない。


それで流れが終わる。


終わるはずだった。


けれど、

今日は少しだけ足が遅れた。


「……ドラムさん」


呼んでいた。


中の音が止まる。


返事はない。


返事がないまま、

数秒が過ぎる。


数えそうになって、

やめる。


「……何だ」


低い声。


それだけ。


「いや」


続かない。


呼んだ理由が、

呼んだあとで消えていた。


「……何でもないです」


そう言うと、

中で小さく何かが置かれる音がした。


重い音だった。


広場。


人が動いている。


立つ場所。

歩く順番。

振り向く方向。


揃っている。


揃っていることを、

誰も気にしていない。


気にしている自分の方が、

遅れているみたいだった。


午後。


川へ向かう。


飛び石の前。


止まる。


遠回りへ向かう。


迷わない。


遠回りの方が近い気がする。


途中で、

前を歩く人が少しだけ速度を落とす。


同時に、

自分の足も遅くなる。


合わせようとはしていない。


それでも、

合う。


合うたびに、

何かが減っている気がする。


自由とか、

意志とか、

そういう大きな言葉ではない。


もっと小さいもの。


朝、

右足から起きる前にあった、

ほんの少しの迷い。


それが減っている気がした。


森の方を見る。


風が揺れる。


視線が向く。


一瞬だけ、

足が前へ出そうになる。


胸が浅くなる。


止まる。


止まったあと、

何も浮かばない。


戻る。


その方が自然だと、

身体が知っている。


自然、という言葉が、

今日は少しだけ嫌だった。


夕方。


宿に戻る。


入口の布を避ける。


肩が触れない。


通れる幅が、

最初から分かっている。


アーシャが言う。


「今日は、落ち着いてるね」


「そうかも」


本当にそうかは、

考えない。


考えないまま返した。


同じ返事を、

朝にもした気がする。


気がするだけ。


でも、

その気がするだけのものが、

喉の奥に少し残った。


夜。


部屋。


窓の外。


暗い。


耳の奥で、

何かが重なる。


低い音。


言葉ではない。


聞こうとすると、

遠くなる。


呼吸が浅い。


浅いまま、

整う。


身体が、

次の動きを考えなくなる。


決める前に、

終わっている。


それで、

一日が進む。


少しだけ、

何かが減っている気はした。


でも、

止まる理由にはならなかった。


止まる理由がないまま進むことが、

今日は少しだけ怖かった。


そのまま、眠れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ