息の浅い日
朝。
目が覚めたとき、
少しだけ息が浅かった。
苦しいほどではない。
ただ、
深く吸わなくても足りてしまう。
そのまま起きる。
窓を開ける。
外の空気が入る。
少しだけ、
胸が広がる。
それで十分だと思う。
外へ出る。
井戸へ向かう。
道の途中で、
足が自然に止まる場所がある。
止まる理由はない。
でも、
止まった方が楽だと分かる。
一歩遅れて歩く。
それで流れに合う。
井戸。
桶が回ってくる。
手を伸ばす前に、
位置が合う。
水を汲む。
息は乱れない。
乱れる場面ではない。
そう思ってしまう。
宿。
アーシャが言う。
「今日はゆっくりでいいよ」
「昨日もそうだった」
「そうだね」
同じやり取り。
違和感はない。
座る場所が決まっている。
言われる前に座る。
窓から遠い。
少しだけ空気が重い。
でも、
気にするほどではない。
食事はすぐ終わる。
噛む回数が少ない。
それでも足りる。
立ち上がるとき、
一瞬だけ息が詰まる。
詰まるほどではない。
そのまま動く。
畑。
ガイルが手前にいる。
「今日はここまで」
さらに手前。
「もう少し奥は」
「いい」
短い。
鍬を持つ。
振るう。
すぐ終わる。
身体が、
それ以上動こうとしない。
動かなくてもいい。
そう思ってしまう。
鍛冶場。
入口の板が増えている。
通れる。
でも、
少しだけ身体を横にする。
そのまま通れる幅。
通る必要はない。
引き返す。
ドラムは何も言わない。
それで済む。
広場。
人の間隔が狭い。
声は届く。
でも、
少しだけ近い。
近いのに、
離れようとは思わない。
午後。
川へ向かう。
飛び石の前で止まる。
遠回りへ向かう。
道の途中で、
息が少しだけ浅くなる。
立ち止まる。
深呼吸をしようとする。
深く吸えない。
浅いまま、
落ち着く。
それで足りる。
森の方を見る。
風が止まる。
一歩だけ、
足が前に出る。
胸が詰まる。
止まる。
理由はない。
戻る。
戻った方が、
楽だと分かる。
夕方。
宿に戻る。
入口の布が増えている。
通れる幅は同じ。
通る。
問題はない。
アーシャが言う。
「今日は早めに休んで」
「まだ明るい」
「うん」
否定しない。
布団が敷かれている。
横になる。
夜。
部屋。
窓の外。
暗い。
息が浅い。
浅いまま、
安定している。
深く吸おうとする。
途中で止まる。
止まっても、
苦しくない。
それでいいと、
身体が判断する。
目を閉じる。
胸の上下が、
ゆっくりになる。
浅いまま、
整う。
少しだけ、
違和感が残る。
それでも、
そのまま、眠れた。




