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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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狭くなった日

朝。


目が覚めると、

部屋の中の空気が少しだけ近かった。


狭い、と思うほどではない。


ただ、

手を伸ばせば何かに触れそうな感じがする。


起き上がる。


窓を開ける。

外の空気は冷たい。


それで少しだけ、

息がしやすくなる。


外へ出る。


井戸へ向かう。


道の端に積まれていた木箱が、

いつもより少しだけ前に出ている。


避ける。


避けても、

歩きにくくはない。


歩ける幅はある。


それで十分だと思う。


井戸。


桶がすぐに回ってくる。


立つ位置が、

前より少しだけ決まっている気がした。


どこに立っても水は汲める。


でも、

自然と足が止まる場所がある。


考えない。


宿。


アーシャが朝食を並べている。


「今日はその席でいいよ」


その席。


言われた場所に座る。


いつもと少し違う。

窓から遠い。


「こっちじゃだめ?」


聞いてみる。


アーシャは、

一瞬だけ手を止める。


「だめじゃないよ」


少し置いて、

笑う。


「でも、今日はそっちが楽」


楽。


それで納得してしまう。


器は軽い。

量は少ない。

味は薄い。


変わらない。


畑へ向かう。


途中の道に、

籠が置いてある。


またいでもいい。

でも、

またがない。


横を通る。


道幅はある。


それでも、

少し狭い。


ガイルは畑の端にいる。


「今日はそこから」


指差される。


昨日より手前。


「近くないですか」


「十分だ」


短い。


鍬を持つ。


振るう。


すぐ終わる。


「もういい」


また言われる。


まだ動ける。


でも、

続ける場所がない。


鍛冶場。


入口の板が少し増えている。


閉じてはいない。


けれど、

中は見えにくい。


「今日は?」


と聞くと、

ドラムは振り向かないまま言う。


「今日は、ここまで」


中に入っていないのに、

ここまで、だった。


広場。


椅子は無い。

空いた場所もある。


でも、

人の立ち位置が前より寄っている。


寄っているのに、

窮屈ではない。


会話は届く。


「今日は風が弱いね」


誰かが言う。


本当は、少し強い。


誰も訂正しない。


午後。


川へ向かう。


飛び石の手前で、

足が止まる。


遠回りへ向かう。


遠回りの道にも、

道具が置かれている。


邪魔なほどじゃない。


でも、

まっすぐは歩けない。


少しずつ避ける。


少しずつ外れる。


森の方を見る。


木の影が濃い。


前より近い気がするのに、

足は向かない。


向かないまま、

安心している。


夕方。


宿へ戻る。


入口の横に、

畳んだ布が積まれている。


昨日より多い。


通れる幅はある。


その幅だけを通る。


アーシャが言う。


「今日は早めに休んで」


「まだ明るいよ」


「明るいね」


否定しない。


でも、

布団はもう敷かれている。


夜。


部屋。


窓の外。


暗い。


外の音が遠い。


部屋の中は静かだ。


静かすぎる。


そう思う前に、

呼吸が落ち着いてしまう。


動ける。


出ようと思えば出られる。


それなのに、

出る理由が浮かばない。


一日の中で、

歩いた場所を思い返す。


少なかった気がする。


でも、

困っていない。


困っていないから、

そのまま目を閉じる。


狭くなっている気はした。


けれど、

息はまだ詰まらなかった。

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