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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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23/29

それでも生活は続く

朝。


目が覚めた瞬間、

昨日のことを思い出しそうになって、

やめた。


理由はない。

そういう癖がついた。


起きる。

服を着る。

音は普通だ。


窓を開ける。

風が入る。

少し冷たい。


村は動いている。

いつも通り。


昨日、家が無かった場所は、

視界の端に入らないようになっていた。

意識して避けているわけじゃない。

自然に、そうなっている。


井戸。

水。

冷たさ。


指先が赤くなる。

昨日と同じ。


「おはよう」


声をかけられる。

昨日と同じ人。

昨日と同じ調子。


「おはよう」


返す。

言葉は軽い。


「今日は曇りそうだね」


「そうだね」


家の話は出ない。

出す理由がないみたいに。


宿に戻る。

椅子の位置。

机の傷。

変わらない。


アーシャが鍋を火にかけている。

中身は見えない。


「朝、食べる?」


「うん」


それだけ。


食事は薄い。

昨日と同じ。

嫌じゃない。


噛んでいると、

頭の奥が静かになる。


畑。


ガイルは、

いつもの位置にいる。


鍬の音。

一定。


一つ分、

畝が少ない気がした。


気がしただけだ。


「今日は、早いですね」


「重心が軽い」


意味は分からない。

でも、そうなんだろうと思う。


鍛冶場。


火は入っている。

音は無い。


ドラムは、

刃物ではないものを磨いている。


金属。

形は道具。


「何を作ってるんですか」


「作ってない」


即答。


「直してるだけ」


「何を」


「使わないもの」


それ以上は聞かない。


昼。


広場。


人は集まっている。

数は、数えない。


話題はいつも通り。

天気。

作物。

橋。


誰も、

村の端を見ない。


見ていないだけで、

無いことは知っている。

そんな気がした。


ユウトは、

自分だけが知っているわけじゃないと気づいて、

少し安心した。


理由は分からない。


午後。


用事は無い。

それでも時間は進む。


川。

水。

反射。


昨日より、

石が一つ少ない気がした。


拾おうとして、

やめた。


拾っても、

どうにもならない。


夕方。


影が伸びる。

伸び方は均一。


アーシャが言う。

「今日はここまで」


昨日と同じ。


ガイルが鍬を置く。

ドラムが火を落とす。


ルーンが村を見回す。

一度だけ。


「変わらないな」


誰も否定しない。


夜。


部屋に戻る。

窓の外を見る。


暗くて、

何も見えない。


それでも、

空いている場所だけは、

分かる。


分かるが、

確かめない。


確かめると、

昨日が今日になる気がした。


布団に入る。

身体が沈む。


今日も、

何も起きなかった。


そう言ってしまえば、

嘘になる。


でも、

何かが起きたと言うほどでもない。


その間に、

この村はある。


それで、

いいんだと思う。


思ってしまう。


目を閉じる。


生活は続く。

理由は無い。


ただ、

続いている。


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