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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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20/28

戻れないと知る前に

朝、ユウトは目を覚ました。


目はすぐに開いた。

体も、よく動く。


それなのに、起き上がるまで少し迷った。

理由は分からない。


布団の端を掴んで、離す。

それだけのことに、間が空いた。


(……大丈夫だ)


そう思って、立ち上がる。


窓を開ける。

空は明るい。


雲は低いが、雨は降っていない。

村は、いつも通りの色をしている。


廊下に出る。

床は静かだ。


昨日より、さらに音がしない。

足音が、途中で消える感じがする。


(……慣れたな)


思って、首を振る。

慣れるほど、見ていない。


階段を降りる。


台所には、アーシャがいた。

鍋に火は入っていない。


「おはよう」


「おはようございます」


声は普通だ。

昨日と同じ。


「今日は、畑?」


「はい」


「じゃあ、先に行ってて」


「……朝ごはんは」


「後で」


言い切りだった。


ユウトは頷く。

理由は聞かない。


外に出る。


空気は冷たい。

でも、嫌じゃない。


道は相変わらず歩きやすい。

足が迷わない。


迷わないことに、もう驚かなくなっている。


畑に着く。


ガイルは、すでにいた。

畝の端に立って、土を見ている。


鍬は置かれたまま。

足跡が少ない。


「今日は、やらないんですか」


「やる」


短い返事。


「だが、奥には行かない」


「……どうして」


聞きかけて、やめる。


ガイルは答えない。

答えないまま、土を踏み直す。


「ここで、十分だ」


言い切り。


ユウトは頷く。

頷いたあと、畑の奥を見る。


何も変わらない。

ただ、距離がある。


近づかない方がいい。

理由は分からない。


昼前、鍛冶場の前を通る。


扉は閉まっている。

昨日も、閉まっていた。


ノックしようとして、やめる。

返事がなくても、困らない。


裏に回る。


水桶が二つ置いてある。

一つは空。

一つは、半分。


(……昨日、二つとも空だったはず)


思った瞬間、考えるのをやめる。

昨日のことは、昨日で終わっている。


川沿いを歩く。


水は澄んでいる。

流れは穏やかだ。


逆流は起きない。


起きないことに、少しだけ安心する。

その安心が、遅れてくる。


(……前は、こんなふうに確認してなかった)


そう思って、歩き出す。

考えない。


夕方、広場に人が集まっている。


昨日より、少ない。

でも、誰も気にしていない。


「静かだね」

「そのうち戻るさ」


同じ言葉。


ユウトは輪の外に立つ。

中に入らない。


入らない理由を、もう探さない。


アーシャが後から来る。


「今日は、早く休んで」


「はい」


「無理しないで」


同じ言葉。

昨日と同じ。


でも、今日は視線が合わない。


「……何かありました?」


聞きかけて、やめる。


アーシャは笑う。

少しだけ、遅れて。


「何もないわ」


それで終わる。


夜、ユウトは部屋に戻る。


首に巻く布は、乾いている。

昨日より、さらに早い。


(……楽だ)


そう思って、胸が少し冷える。


楽なのに。

安心なのに。


理由を探さない。

探すと、戻れなくなる気がした。


灯りを消す。


暗い。

でも、目がすぐ慣れる。


眠る。


夜。


宿の裏。

灯りが一つ。


ユウトはいない。


アーシャは立っている。

ガイルは地面を見ている。

ドラムは壁に背を預けている。


ルーンは少し離れている。


「ここまでだな」


誰かが言う。


「前も、そうだった」


別の声。


「戻らなかった」


短い言葉。


沈黙。


「……もう、戻らない」


誰の声か、分からない。


ルーンは何も言わない。

紙を揃えようとして、揃わない。


揃えないまま、手を離す。


「今日は、穏やかだ」


確認するような声。


誰も返事をしない。


灯りが揺れる。

消えない。


夜は、結論を出さない。


それでも。


朝は来る。


ユウトは、そのことを知らない。


眠っている。


それだけだ。


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