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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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触れない違和感

朝、ユウトはいつもより少し遅く目を覚ました。


遅い、と感じたが、時計は見ない。

見なくても困らない。


窓の外は明るい。

雲は多いが、暗くはない。


体は重くない。

昨日より、むしろ軽い。


(……よく眠れた、はず)


はず、と思ったところで、考えるのをやめる。

理由がなくても、眠れたならそれでいい。


宿の廊下に出ると、足音が吸われる。

板がきしむはずの場所で、音がしない。


一歩、踏み直す。

それでも音は立たない。


(……静かだな)


言葉にした瞬間、少しだけ胸がざわつく。

ざわついたまま、流す。


階段を降りると、アーシャが窓を拭いていた。


「おはよう」


「おはようございます」


「今日は、無理しなくていいからね」


いつも通りの言葉。

でも、言い切りが強い。


「畑は……」


「ガイルが見てる」


先回りするみたいな言い方だった。


ユウトは頷く。

聞き返さない。


食卓には、湯気の立つ椀が一つ。

昨日は二つあった。


(……泊まり、少なかったのか)


考えかけて、やめる。

泊まりが少なくても、困らない。


椀に手を伸ばす。

今日は、熱さが普通だった。


少しだけ、ほっとする。


外に出る。


空気が澄んでいる。

風は弱い。


村の道は相変わらず歩きやすい。

歩きやすすぎて、足が迷わない。


迷わないのは、いいことだ。

そう思おうとして、やめる。


畑に向かう途中、村人とすれ違う。


「おはよう」

「今日は、楽だね」


返事をして、通り過ぎる。


声の高さも、歩幅も、昨日と似ている。

似ているだけだ。

同じじゃない。


そう思ったことに、少し驚く。


畑では、ガイルが一人で作業していた。


鍬は地面に置かれている。

代わりに、畝を足で踏み直している。


「もう、終わりですか」


「終わってない」


即答。


「だが、今日はここまでだ」


「……まだ、時間ありますけど」


ガイルはユウトを見ない。


「越える必要がない」


理由は言わない。


ユウトは頷く。

頷くしかない。


土を見る。

確かに、これ以上踏み込むと、形が崩れそうだった。


昼前、鍛冶場の前を通る。


扉は開いている。

中に、ドラムはいない。


炉は冷えている。

昨日の熱は、残っていない。


(……早いな)


そう思って、止める。

早く冷えた方が、いい。


裏に回ると、ドラムが水桶を洗っていた。


「今日は、作らないんですか」


「作らない」


「壊れてませんか」


「壊れてない」


短いやり取り。


桶の底に、割れ目がある。

でも、水は漏れていない。


触れようとして、やめる。

触ると、別のことになる気がした。


川沿いを歩く。


水は濁っていない。

昨日より、流れが速い。


速いのに、音は小さい。


ユウトは立ち止まる。

立ち止まったまま、流れを見る。


逆流は起きない。

何も起きない。


それが、少し物足りない。


(……慣れてきてる?)


思った瞬間、首を振る。

慣れるほど、見ていない。


夕方、広場は静かだ。


人はいる。

でも、集まっていない。


声が散っている。

一つにまとまらない。


ユウトは立ち止まる。

立ち止まった理由は分からない。


アーシャが向こうから来る。

視線が合いそうで、逸れる。


「今日は、早めに戻って」


「はい」


それ以上は言わない。


ルーンはいない。


昨日も、今日も。


いないことに、少しだけ引っかかる。

引っかかるだけで、終わる。


夜、ユウトは早めに布団に入った。


疲れていない。

でも、目を閉じる。


外は静かだ。

虫の音が少ない。


少ないだけで、消えてはいない。


(……大丈夫だ)


そう思う。

言い聞かせるみたいに。


夜。


宿の裏。

灯りが一つ。


ユウトはいない。


アーシャは椅子に腰掛けている。

ガイルは壁に背を預けている。

ドラムは立ったまま、腕を組む。


ルーンは少し離れている。


「今日は、早かったな」


誰かが言う。


「前も、そうだった」


返事が返る。


「戻らなかった」


短い言葉。


沈黙。


「違うはずだった」


ドラムが言う。

声は低い。


誰も否定しない。


ルーンは何も言わない。

紙を閉じる。


「……今日は、ここまでだ」


区切るみたいな声。


灯りが揺れる。

消えない。


夜は、答えを出さない。


それでも。


朝は来る。


ユウトは、そのことを知らない。


眠っている。


それだけだ。

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