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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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揺らぐ日常

畑の土は、昨日より少しだけ柔らかかった。


雨は降っていない。

それでも、鍬を入れると抵抗が弱い。


ユウトは一度、手を止める。

踏み込み直そうとして、やめた。


深く入れなくてもいい。

今日は、これでいい。


ガイルは畝の向こうにいる。

距離は、昨日と同じくらいだ。


「重心が前だ」


短い声。


ユウトは一歩引いた。

それだけで、腕が楽になる。


「……ありがとうございます」


ガイルは返事をしない。

代わりに、土を指で崩す。


種の位置を整え、指を離す。

動きに迷いがない。


昼の畑は静かだ。

風が吹く。

葉が擦れる。


同じ音が続く。


数えそうになって、やめる。


昼過ぎ、宿の前を通る。


アーシャが水桶を運んでいる。

歩幅が一定だ。


「もうすぐ昼よ」


「はい」


「無理しないで」


いつも通りの言葉。

でも、言い切りが少し早い。


宿の中は涼しい。

空気が動いていない。


椅子の位置は変わらない。

壁の傷も、そのままだ。


安心する。

理由は考えない。


鍛冶場では、ドラムが炉を見ていた。


火は入っていない。

それでも、熱が残っている。


「まだ、温かいですね」


「……残ってるだけだ」


ドラムは視線を逸らす。

炉ではなく、床を見る。


「冷めるのに、時間かかりますね」


「かかる」


それ以上は言わない。


ユウトは頷いた。

頷く理由を、探さない。


川沿いを歩く。


水は澄んでいる。

底まで見える。


流れが、ほんの一瞬だけ逆になる。


ユウトは立ち止まりかけて、歩き出す。

気のせいだと思う。


気のせいにしておく方が、楽だ。


夕方、村人たちが集まっている。


畑の話。

雨の話。

直らない柵の話。


誰も怒らない。

誰も急がない。


「明日でいい」

「そのうちだ」


同じ言葉が返る。


ユウトは輪の外に立つ。

中に入れば、安心できる。


入らない。


ガイルは畑の方を見ている。

アーシャは人の数を数えない。

ドラムは道具袋を下ろさない。


ルーンはいない。


いないことが、話題にならない。


夜。


宿の裏に灯りが一つ残る。


ユウトはいない。


アーシャが腕を組む。

ガイルは立ったまま。

ドラムは壁に寄りかかる。


ルーンは少し離れている。


「前も、こうだった」


誰かが言う。

声は低い。


「戻らなかった」


ガイルが短く続ける。


沈黙。


「同じ道は、使えない」


ドラムの声は小さい。

視線は床だ。


「……前と同じになる」


否定でも肯定でもない。


ルーンは紙を一枚、指で揃えようとする。

端が合わない。


揃えないまま、置く。


「今日は、穏やかだ」


確認するような声。


誰も返事をしない。


灯りが揺れる。

消えない。


外では、虫の音が続いている。


夜は、何も決まらない。


それでも。


朝は来る。


ユウトは、そのことを知らない。


ただ、眠っている。


それだけだ。

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