第7章 加賀攻撃の検討
午後16時49分
首相官邸地下危機管理センター
「みょうこう艦長、海野一佐からの通信が、完全に途絶しました」
その報告が会議室に落ちた瞬間、空気が凍りついた。
防衛大臣が低い声で言った。
「……海野一佐は赤城で捕虜にされた可能性が高い。
最悪の場合、すでに……。
赤城からの通信は『暫し待て』のみ。
海野一佐が赤城に降りてから、すでに2時間以上が経過している……
そして、あの艦隊はすでに我が国領海を出、
進行を続けています。
このままでは国際問題にも発展しかねないかと……。
残念ですが攻撃も視野に入れなくてはなりません」
統合幕僚長が厳しい表情で続けた。
「このままでは南雲艦隊は……。
生半可な威嚇で動じるような相手ではありません……。
戦意を挫くには、一撃で一隻の正規空母を沈めるくらいのことはしなければ……。
しかし、赤城への直接攻撃は不可能です。海野一佐がいる以上……」
首相は顔を歪めた。
「……じゃあ、何かね、加賀を狙うということかね?」
「はい。加賀をハープーンで攻撃し、艦隊の戦意を完全に削ぐ。
それが、現時点で最も現実的な選択です」
会議室に重苦しい空気が流れた。
外務大臣が震える声で、即座に反対した。
「待ってください!
自衛隊が……自国の過去の空母を撃沈するのか?
それは、我々が歴史を、故意に改変するということでは……。
もし加賀を沈めれば、史実が変わる。
太平洋戦争全体、ひいては戦後の世界にまで波及する可能性があるんです!」
首相は両手で顔を覆い、苦々しい声で返した。
「……もう加賀どころか、南雲機動部隊そのものが1941年からいなくなってるんだ」
その言葉に、会議室が静まり返った。
外務大臣が言葉を失う中、首相は低い声で続けた。
「南雲機動部隊が1941年に姿を消した時点で、史実は変わっているんだ。
今さら『改変するな』と言っても遅い……。
問題は、今の日本の被害をいかに最小限に抑えるかだ」
財務大臣が青ざめた顔で呟いた。
「……しかし、加賀を沈めれば……史実はさらに大きく歪む……」
統合幕僚長が静かに言った。
「歪む可能性はあるでしょう。
しかし、このまま南雲機動部隊を放置すれば、現代の日本そのものが危うくなります。
我々は……選択を迫られている」
首相は深いため息をつき、目を閉じた。
「……加賀への攻撃準備を進めるんだ。綺麗事を並べていられる場合じゃないだろ。
発射命令の最終判断は私がする」
会議室に、重く苦い沈黙が落ちた。
誰もが「過去を攻撃する」という行為の、取り返しのつかない重さを痛感していた。
護衛艦「みょうこう」CIC。
「対水上戦闘用意」
「ハープーン攻撃を行う。目標:加賀。発射弾数一発」
「目標捕捉。加賀をロックオン。発射待機中」
緊迫した空気が、「みょうこう」のCIC全体を支配していた。
日本政府は、
自らの過去を、自らの手で撃つという、
史上最も残酷な選択を、目前に迫られていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
南雲中将との対話が深まる一方、首相官邸地下危機管理センターでは深刻な議論が交わされます。
「過去の空母を撃沈する」という、歴史改変の可能性を孕んだ決断が……。
次回、第8章でこの物語は最終章となります。
最後まで、温かく見守っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




