第6章 赤城での対話
午後14時16分
南雲機動部隊旗艦「赤城」作戦会議室。
海野艦長と通信士が会議室に通された直後、草鹿龍之介少将が静かに言った。
「申し訳ないが、貴官らの無線機と武器を一時預からせてもらう。
我々も状況が全く理解できていない以上、警戒せざるを得ん」
海野は一瞬抵抗しようとしたが、南雲中将の鋭い視線を感じ、静かに拳銃と無線機を差し出した。
(……しまった。通信ができなくなる……)
頭の中で警鐘が鳴っていた。
(日本政府は「連絡が途絶えた」時点で、最悪の事態を想定するはずだ……)
南雲中将は海野を正面から見据え、静かに言った。
「では、説明してもらおう。
貴様らは本当に85年後の日本人だと?」
海野は焦りを抑えながら、できる限り丁寧に説明を始めた。
しかし、南雲中将も草鹿少将も、容易に納得しなかった。
「信じがたい話だ。我々が真珠湾攻撃をすれば、未来の日本に甚大な被害が出る……だと?」
時間だけが無情に過ぎていく。
海野は内心で歯を食いしばった。
(早く……早く納得してくれないと……政府は動き出す……!)
南雲中将は、海野艦長を正面から見据えたまま、静かに口を開いた。
「貴様の話が本当だとすると……我々は『過去』から来た存在だというのか。
そして貴様らは、我々を知る『未来の日本海軍』だ、と」
海野艦長は深く息を吸い、資料をテーブルに広げた。
「はい。
我々は2026年の日本の海上自衛隊に所属しています。
貴艦隊が単冠湾を出撃した11月26日から、すでに85年が経過しています」
南雲中将の表情がわずかに動いた。
「85年……。
では、我々の作戦は……どうなった?」
海野は一瞬言葉を飲み込んだ後、静かに答えた。
「真珠湾攻撃は……成功しました。
しかし、その後の戦争は、我が国にとって悲惨な結果に終わりました。
本土は焦土と化し、広島と長崎に新型爆弾が落とされ、数百万人の国民が命を落としました」
会議室に、重い沈黙が落ちた。
草鹿龍之介少将が、信じられないという顔で言った。
「数百万……だと?」
海野艦長は静かに頷いた。
「我々は今、貴艦隊がハワイに向かうことを、
どうしても阻止しなければなりません。
それは、現代の日本にとって、絶対に避けなければならない事態なのです」
南雲中将は腕を組み、長い沈黙の後、静かに言った。
「貴様の話が本当ならば……我々は、
自らの未来を破壊する『幽霊』のような存在だな。
しかし、我々には陛下の命を受けた使命がある。
それを止めるというのなら、もっと説得力のある理由を示してもらおう」
海野艦長は鞄の中から、証拠となる写真や資料を取り出した。
「現在の日本は、憲法の下で平和を誓っています。
我々は二度と戦争を起こさないという、国民全体の誓いです。
もし貴艦隊が真珠湾を攻撃すれば……
現代の日本は国際的に極めて困難な立場に立たされます」
南雲中将の目が鋭くなった。
海野艦長は静かに、しかしはっきりと言った。
「我々は、貴艦隊を敵として扱いたくはありません。
我々は同じ『日本人』なのです。
どうか……この時代に生きる我々と、
共に未来を考えていただけませんか」
南雲中将は、長い間、黙って海野を見つめていた。
やがて、彼は静かに言った。
「……信じがたい話だ。
しかし、貴様の目には、嘘は見えない。
我々も、突然の司令部との連絡途絶に困惑している。
もう少し、詳しく話を聞かせてもらおう」
海野艦長は小さく頷いた。
赤城の会議室で、
85年という時の壁を超えた、
二つの日本の対話が、
始まろうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
南雲艦長が赤城の甲板に降り立ち、ついに南雲中将と直接対峙します。
85年の時を超えた二人の会話を通じて、過去と現在の日本が静かに交錯していきます。
運命の分岐点に立った彼らは、何を思い、何を託すのか——
物語はここから一気に加速します。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




