第5章 赤城への使者
午後1時46分
SH-60Kヘリコプター内。
海野隆一艦長は、窓から眼下の海を見つめていた。
そして——
「…………」
言葉を失った。
眼下に、紛れもない姿があった。
巨大な飛行甲板、はためく旭日旗、左舷中央に建つ特徴的な艦橋。
史料で何度も見た、あの空母「赤城」そのものだった。
(……本物だ……)
胸の奥が熱くなった。
海野は自衛官として、旧海軍の象徴ともいえる赤城を、こうして現実に見る日が来るとは思ってもみなかった。
誇り、畏怖、そして言い知れぬ切なさが、一気に込み上げてきた。
「艦長……あれが……」
後席の通信士も、声を震わせた。
海野は静かに頷いた。
「そうだ……赤城だ。
南雲忠一中将の旗艦……、真珠湾攻撃の主力空母……」
SH-60Kは、赤城艦橋からの管制に従いゆっくりと高度を下げ、赤城の飛行甲板に接近していった。
甲板上では、旧日本海軍の乗員たちが呆然と見上げていた。
誰もが口を半開きにし、信じられないものを見る目で、現代のヘリコプターを見つめている。
「なんだ、あれは……!?」
「飛行機じゃない……! 空中で止まってるぞ!」
「海軍にこんな機体はなかったはず……!」
「でも、日の丸がちゃんとついてるぞ……!」
乗員たちの驚愕の声が、風に乗ってかすかに聞こえてきた。
SH-60Kが着陸した瞬間、海野艦長は深く息を吸い、ヘルメットを脱いだ。
甲板に降り立つと、一人の海軍士官が近づいてきた。
「参謀長の草鹿龍之介だ。
貴官が未来の日本の代表か?」
海野艦長は敬礼し、静かに答えた。
「海上自衛隊、護衛艦みょうこう艦長、海野隆一一等海佐です。
この度は突然の事態で申し訳ありません。
南雲中将閣下にお目通り願えますか?」
草鹿少将は海野を鋭く見つめ、短く頷いたが、その目には明らかな驚きと警戒が残っていた。
「閣下が待っている。ついてこい」
赤城の艦内を歩きながら、海野は胸の内で静かに呟いた。
(……俺は今、本物の赤城の艦内を歩いている……)
やがて、艦橋に近い作戦会議室に通された。
そこに、南雲忠一中将が立っていた。
中将は海野をじっと見つめ、静かに言った。
「貴様が……85年後の日本の軍人か?」
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いよいよ海野艦長が直接赤城に乗り込み、南雲中将と対峙する展開となります。
第6章は明日夕方に投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




